奴らの最後
『う、内田孝三郎?誰の事だ?』
『死神』は俺の言葉に、明らかに動揺していた。
『とぼけるのは止しにしたらどうだね?あんたの本名は内田孝三郎。この家の主、内田孝吉氏の弟だろ?そしてそこの隆子さんの義弟と言う訳だ。』
俺はまだ後ろで毛布を抱きしめて震えている40女を振り返って言った。
『あんたら、俺がただあんたらに追いまくられて逃げ回ってただけだと思っていたのかね?甘いな。これだから偽革命家って奴は困るんだ』
内田家と細貝家は親戚筋だった。
だが、秀之助が死んだ後、跡が絶えてしまった。
そこで遠縁であっても、辛うじて縁が続いている内田家が、残された莫大な財産を相続し、管理を任されてきた。
先代、そして孝吉氏は真面目に、忠実に細貝家の遺産を守り続けた。
しかしそれに目を付けたのが、
『死神』こと、内田孝三郎だった・・・・・。
『あんたは会社を幾つか経営しては潰し、挙句は女とギャンブルに狂って借金だらけだった。そのせいか兄貴の孝吉氏とは仲が悪く、絶縁を言い渡されて兄弟の縁を切られた何かどうでもよかったあんたは焦った。そんな時に思い付いたのが細貝秀之助の「例の伝説」ってわけだ。あんたは思想信条なんかどうでも良かった。あんたが欲しいのは金だ。そんな時、頃合い良く兄貴が亡くなったんで、兄嫁をたらし込んだ。ひょっとしたら兄さんもあんたが殺したのかもしれんな。どうせあの「教授」も「公安」も、カネで釣ったんだろう。』
『バカな!下らん妄想だ。証拠は何処にある!』
彼の声はすっかり変わっていた。人を脅しつけるようなあの不気味な響きはもう無くなっていた。
『そうとも、証拠はどこにもない。それに、俺の仕事とは関係ないしな』
俺は一本目を
『俺はアナキストなんて理解もしたくないが、あんたよりは幾らかましだったんだろう。細貝は細貝なりに世の中を変えようと努力はしたんだろうからな。でもあんたは最低の人間だ。ただ金のためだけに、思想を利用したんだからな』
『・・・・俺の話はここまでだ。じゃ』
あばよ、と言い、連中をそのままにして家を出た。
俺は駅まで歩く道すがら、ジッポーで細貝の本二冊に火を点け、半分ぐらい燃えたところで、スマホで写真を撮り、川に投げ込んだ。
さて、これで後は報告書を纏めて依頼人に渡せばそれで終わりだ。
しかし、警察にも一応言っておかにゃならんだろうな。
そこが悩みの種だ。
まあ、いい。明日は明日の風が吹く。
誰かのセリフを口の中で呟く。
この時まで俺は身体の痛みなんか忘れていた。
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