死神の正体 その1

『あんた、元公安のおっさんだろ?』


 腹を蹴られながら、俺は男の顔を睨みつけて言った。


 男の足が止まる。


 奴は残忍な笑みを浮かべながら答えた。


『だったらどうした?』


『別に・・・・なるほど、それで分かったよ。元公安がいりゃ、赤の他人の住所や電話番号を調べたり、おかしな脅迫をするのは朝飯前だろうからな』


 ボグッ


 また蹴りが俺の横腹に入った。


 今度は少し逸れて、上の方に当たった。


 鈍い痛みが走る。



(アバラの一本位いかれたかな)


 俺はそう思った。


『幾ら公安とはいえ、仮にも民主警察が戦前の特高もどきの真似をしていいのか?』


『右も左もやることは同じだ』


 今度はもう一人が頭から水をぶっかけた。


『死神』さんはといえば、椅子に腰かけて大きく足を開き、俺がやられるのを黙って見ている。


『どうだ?そろそろ根をあげて、我々の言うとおりにしないか?』


『何のことだ?』


 俺は痛みをこらえてとぼけた。


我慢がまんは止せよ。あの本を渡せばそれで済むことだ』


『前にも言ったはずだぜ。俺は一度受けた依頼は最後までやり遂げるってな』


『死神』は首を振った。


『公安』は相変わらず俺を蹴り続ける。


『それだけじゃ利きませんよ』今度はあの『教授』が口を開いた。彼は何時の間にか、小型のナイフのようなものを手に持っており、


『こいつで生爪を剥がしてやったらどうです?』


『教授』の唇が何時の間にか真っ赤になっていた。


 彼はその唇をぺろりと舌で濡らす。



 俺はそこで意識を失ったふりをした。


 こうした芸当は昔から得意だったんだ。


『公安』が又俺の腹を蹴った。


 勿論、痛い。痛かったが、俺はぴくりとも動かなかった。


『もういい、』


『死神』が声を掛けた。


『暫く休ませてやれ、時間はたっぷりあるんだ。ああ、念のためだ。弾丸タマだけは抜いとけよ』


『死神』の言葉には誰も逆らえないらしい。ぶつぶつと不満を口にしていたものの、俺を放り出して部屋から出て行った。


 錠を下ろす音が聞こえる。


 俺はそこで目を開けた。


 中は真っ暗だ。


 何も見えやしない。


 俺は身体をごろごろ転がして、机に体当たりした。


 全身がぎしぎしと音を立てて軋む。


 幾ら俺がタフだからって、あそこまでやられりゃ、本気で痛い。


 だが今はそんなこと言ってる時じゃない。


 何度か体当たりを繰り返していると、机の上から『荷物』の一部が転げ落ちた。






 

 





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