俺の災厄 その3

 その日、事務所に帰ってくると、いきなり電話が鳴った。


 俺はマイクの調子を確かめ、ICレコーダーに繋ぐ。


(探偵さんかね?)


 例の錆び付いた声が、俺の耳を打った。


(私の呪いがウソではないというのが、此れで分かったろう?)


『だから?』


 俺は答えた。


『死神さん、あんたが誰なのか、今の段階ではまだ俺にも分からんが、俺は探偵だ。依頼された仕事はどんなことをしてもやり遂げる。あんたがどこで何をしようとな』


(こう言う言葉知ってるよな?『吐いたツバは呑めない』って)


 彼はそう言って、さびた声を一層高くして嗤った。


 まるで怪奇映画のワンシーンみたいだな。俺は思った。


『要件がそれだけならもう切るぜ。俺は貴様のいたずら電話の相手をしてるほど暇じゃないんだ』


 彼の嗤い声がまだ続いているうちに、俺は受話器を置いた。


  

 三日後、俺は群馬県の前橋市に居た。


 その間も、何もなかった訳じゃない。


 町を歩けばおかしな連中に絡まれる。


 信号待ちをしていると、後ろから押される。


 夜道を歩いていると、通りすがりの車から狙撃される。


 そんなことが何度も続いた。


 あの本を読んだ人間は、似たような嫌がらせを受けたんだろう。


 ただ、俺を、


 『普通の人間』と同じにして貰っちゃ困る。


 探偵稼業でメシを喰ってるんだ。


 確かに鬱陶しいが、やるだけのことはやらねぇとな。


 三日間、俺は調べられる限りは調べた。


 その結果が群馬県だ。


 群馬県の前橋から車で北に1時間ほど。


Ñ町はそこにあった。


町といっても、人口は2万人いるかいないかといった、


村に毛が生えた程度ののどかな所だ。


繁華街といえば、駅を降りたところに少しあるだけで、後は殆ど田畑と山ばかり。


21世紀も20年が過ぎようとしているのに、まだこんな長閑のどかな風景が残っていたのか。俺は柄にもなく、ひどく感傷的な気分になった。


 目指す場所は、駅前にあるバス停から、1時間に2本しか出ないバスに揺られて

さらに30分は離れていた。


 その家は、山の中腹の農家だった。


 俺が調べたところによれば、もう築百年は軽く経っているだろうという話だった。


 流石に田舎の家がどこでもそうであるように、門などついていない。


 俺の頭が半分出るくらいの生垣に囲まれ、屋根は茅葺かやぶきで、広い庭では鶏が放し飼いになっている。


 遠慮なく中に入ると、玄関の入口にかすれた文字で、


『内田』と書かれてあるのが判別出来た。


『どちらさんで?』


 後ろから声がした。


 俺が振り返ると、そこには麦わら帽子を被り、作業着姿の50くらいと思われる、純朴そうな顔立ちの女性が立っていた。


『内田・・・・三郎さんのお宅ですね?貴方は・・・・?』


『私、内田三郎の家内ですが』

『そうですか。失礼しました。私は乾宗十郎いぬい・そうじゅうろうと言いまして』

 俺はポケッ|トからライセンスとバッジを出して見せた。

『探偵さん・・・・どんなご用件で?』


『実は私、細貝秀之助さんのことについて調べているんですが』







 


 


 







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