死神の正体 その3

 さっきまでの威勢や不気味さは何処へ消え去ったのか、俺は、

『痛い』だの、


『もう死んじまう』だのと泣き言を並べている。


 俺はそんな連中を脅して、前に立たせて階段を上がり、土蔵を出た。


 思った通りだ。


 地下室は母屋のちょうど裏手にあった土蔵にあったのだ。


 二人の内、『教授』の方は母屋の玄関でばったり倒れて動かなくなってしまった。

 

 しかしまだ息はある。


 流石に身体のでかい『公安』の方が、まだスタミナはあるらしい。


 奴を先に立たせて玄関を上り、長い廊下を歩いて行った。


 一番奥の部屋の前まで来た時、『公安』が足を止めた。


『ここか?』


 俺が言おうとした時だ。


 部屋の中から、男と女の、


『あの時』の声が聞こえてきた。


 いや、


『聞こえてきた』と言うのは正解じゃないな。


 もう玄関に上がった時から、その声は聞こえていたんだ。


 声の主は誰と誰か、凡そ確かめるまでもない。


 俺は『公安』を突き飛ばすと、障子を荒っぽく開けた。


『お楽しみのところすまんがね。ちょっと休戦にしてくれないか?』


 地下室に閉じ込めていた筈の俺が、こんなところに一人でしかも拳銃を構えて立っているんだ。誰だってびっくりするだろう。


 10畳ほどある部屋の真ん中に布団を敷いて一戦に及んでいたのは、


『死神』と、


『隆子』だった。


 女の方は悲鳴にもならない叫び声をあげ、しなびた胸を毛布で抑え、這いずるようにして布団から出た。


 すると、『死神』が、慌てたように布団の下から黒光りするものを取り出そうとした。

 

 すかさず、俺は引き金を引いた。


 うまい具合にはじけ飛んだ。


 奴は手を押さえて呻いた。


 銃身の短いワルサーP38である。


『な、なんで・・・・』手を押さえ、『死神』は俺の振り仰ぐ。


『化石左翼のテロリスト崩れの癖に、詰めが甘いな。お前らは、』


『あ、あたしの薬は?お茶に淹れた・・・・』


今度は『隆子』が平たい胸を毛布で抑えながら聞いてきた。


『薬?』


 俺はポケットに手を突っ込み、ぐずぐずになった綿の塊を畳の上に放った。


『ガキの頃、子供向けの探偵小説を読んでおいて助かったよ。口の中に綿を入れておいて、その中にお茶を全部吸い取らせるってトリックがあったのさ。それでも少しは効いたがね』


 



 

 

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