人喰らいのとっておき

クソクラエス

プロローグ

 地上が争いに満たされていたとしても、山々はその姿を変えずに威厳を持ってそびえていた。

 眼下に広がる人里は、まだ大戦による傷跡が大きく残り、その悲惨さを物語っていた。

 男は崖に立っていた。泥臭い軍服の左袖は主人を失いだらしなく垂れ下がり、ところどころ濃い赤色に染まっていた。

 彼は自らの死に場所を見渡し、つばを飲み込んだ。

 まだ二十歳を超えたばかりだというのに、その眼は憔悴しきっており、一層彼を老けたように見えさせた。

 秋風が落ちろと言わんばかりに背中を押してくる。

 一瞬ためらいがあったが覚悟を決め、地を踏んで彼は飛び降りた。

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