帰郷(四)

 熊田は最早生きる気力などなかった。

 父の書斎から見つかった十四年式拳銃の銃口を咥えたりもしたが、また彼には自ら引き金を引く気力もなかったのである。

「俺に生きる意味などない」

 引き金を引けない以上、他に死に場所を得るほか無い。彼は自らの墓場を探すべく外に出た。

 辺りはすっかり暗くなっていたが、今の彼にはむしろ誰の目にもつかないので好都合だった。

 とぼとぼ歩く姿は亡霊か何かにしか見えず、よれた軍服がそれをより一層引き立てていた。

 ふと彼は目の前の山に目をやった。嗚呼、昔はあの山でよく遊んだものだなんて思ったのも一瞬。思い出にふける前にあそこで死のう、そう思った。

 そこから彼は早かった。夜の山では死ねないので日の出を待ってから山に向かった。腰には例の拳銃を提げて。

 思いのほか場所はすぐに見つかり、彼は飛び降り死んだ、はずだったのだ。そう、人喰らいに拾われなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人喰らいのとっておき クソクラエス @kusokuraesu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ