人喰らい (三)

 そして男は辺りを見回した。

 高い天井に広い床、隅々まで掃除が行き届いているこの屋敷の主人がこの少女だと?何か冗談だろう。

「冗談だろう?」

 しかし少女の答えは何も変わっていなかった。

「何故ここで冗談を言う必要がある?」

 確かにそう言った。

「じゃあ誰と住んでいる?家人か?」

「いや、一人だ」

 考えられなかった。

 そして聞きたいことが矢継ぎ早に頭に浮かんでくる。財産はどうしている?食事は自分で?

 だがそんな質問よりもはるかに、聞きたいことがあった。

「君は、戦争の影響を受けていないのか?」

 それは先ほど、彼女を初めて見たときに感じた違和感に対するものでもあった。

 この物資不足の世の中、1日食べるだけでも大変だというのに彼女は顔色こそ白いものの、極端に痩せているわけでもなく、まるで戦争による影響が全く見られなかった。

「戦争?ああ、人間のやることか」

 人間のやることという言葉に違和感を覚えたが、彼女は続けた。

「妾は山の中で暮らしているからな。それに……」

 男の体は強ばった。固唾を呑んで覚悟した。

「妾は人間ではない」

 やはりそうかと思った男の思考は、極めて冷静だった。

 それならこの少女が山中で一人住んでいることも、戦争などなかったかのような容姿をしていることも、彼女が人間ではないということなら辻褄が合う。

「なら君は何者だ」

 男は淡々として問いた。

「人喰らいだ」

 少女も淡々としていた。

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