人喰らい (七)

 二百年前から生きているということに驚いた熊田だったが、それとは別に新たな疑問が浮かんでくる。


「しかし何故蛙になってしまったんだ?」

 宇吉はそれを聞くと、先ほどと同じようにを掻く仕草をした。どうやら癖らしい。


「まあ色々あってな。それについては長くなるからまた今度話そう。で、本題は?」

 そう言うと宇吉は自身の下にいる雪へと話しかけた。


「それなんだが熊田の左腕を見てほしい」

 雪は宇吉の目の前に手のひらを差し出すと、宇吉はそこに乗った。そしてそのまま熊田の左肩に乗せる。


「ちょっと失礼」

 そうして肩に乗った宇吉は左腕のあったはずの場所を観察し始めた。


「兄ちゃン、結構ひどくやられてるね。でもギリギリ何とかなりそうだ」

「そうか。なら早速お願いしたい」

「分かった。ただ完成までは丸一日掛かるから待っててほしい」

 彼の返答に雪はただ「分かった」とだけ言って、出口の方へと向かった。


「ほら熊田。行くぞ」

「あ、分かった」

 慌てて雪の背中を追う熊田の耳元で、宇吉は小さく「待て」と言った。


「兄ちゃン。あンたアイツの正体は知ってンのか?」

 小声で話しかけてくる宇吉に合わせて、熊田の声も小さくなる。


「それって、人喰らいのことか?」

「なンだ。それならいい」

 そう言い宇吉は肩から飛び降りた。


「あと兄ちゃん。アイツ、年の割に意外と乙女……」

「熊田!早くしろ!でないと右腕を喰ってやるぞ」

 宇吉が話し終わらない内に雪の声が大きく響いた。右腕まで失うわけにはいかない。


「ごめんな兄ちゃん。続きはまた今度だ」

 出口へ歩き出す熊田に向かって宇吉はそう言うと、ぴょんぴょんと跳ねながら奥の闇にへと消えていった。

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