第25話 女嫌いのわけ
これは創太と蒼馬の二人が中学生の頃までさかのぼる。
二人が通っていたのは普通の公立中学。その中でも二人の学力は中の上か上の下といったところで、しかし二人は野球部の中心人物として県内でも有名だった。
キャッチャーの創太
ピッチャーの蒼馬
守備と攻撃、チーム全体の要として二年生から活躍し、私立高校からのスポーツ推薦の話もいくつかきていたくらいだ。
「おはよー蒼馬。」
「おう。」
「あっ!おはよー片山くん。」
「有紗ちゃんもおはよー。」
中学校の正門から昇降口へと続く坂道は多くの生徒が眠気を感じながらも元気に登校していた。
「相変わらずラブラブだな」
「・・・うっせ」
そうからかうように創太が言うと、蒼馬はそっぽを向いてしまう。
「当然でしょ!今日も蒼馬が起きるの遅かったから待ちくたびれちゃったよ~。」
蒼馬と腕をくんで、いや、一方的にくっついているようにも見える女の子は
如月 有紗
二人は校内でも有名なカップルなのだが、意外と付き合い始めたのは一ヶ月くらい前と最近なのだ。
教室でも目立つ二人だし、登下校も一緒だから付き合い出したことは一瞬で校内に広まった。
「今日はユニホーム持ってきてるか?」
昨日、蒼馬がユニホームのベルトを忘れたのをネタにからかうと、さらに機嫌が悪くなる。
「じゃぁ、俺は先に行くわ!お幸せに~」
蒼馬にボコされる前に足早に逃げることを選択する創太をバイバイと有紗は手をふる。
あれだけ無愛想にしながらも、蒼馬が有紗のことを大好きなのはよく知っていた。
実際、告白されたときには創太が寝ているときでもお構いなしにテンションマックスで電話してきたほど・・・。
だから、
誰もあんなことが起こるなんて、いや、起きていたなんて知らなかった。
・・・蒼馬も
創太も
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「はぁ、なんで教室にスパイク忘れるかなぁ。」
また違うある日、創太と蒼馬の二人は、蒼馬が教室に忘れたスパイクを取りに行っていた。
なぜ文句が創太から出てくるのかというと、蒼馬の教室は校舎の最上階で、さらにグラウンドから一番遠いところにあるからだ。
蒼馬の忘れっぽさも、たまには文句を言いたくなる。
教室の扉を開けようとしたとき、中から声が聞こえてきた。
「なぁ~いつあの男と別れるんだよ」
男の声だ。二人もそれなりに知っている。うちの学校の不良生徒として地域でも問題視されている男の声だ。
めったに学校に来ないやつが、なぜクラスも違う教室にいるのか不思議で、イケないと思いながらも、二人は覗き込んだ。
「っ!?」
「なっ!?」
「え~、だってアイツもスペック高いし、アンタより人気あるし、彼女としての地位も高いからさぁ。」
「あんな奴より俺の方がイイコトヤれんだろ?」
「まぁ、それはあるねぇ~。それにこの間の試合で大きなケガしたらしいしさぁ~」
「ちょっ!?蒼馬っ!」
すぐにわかってしまった蒼馬が、足音をたてないように階段を早足で下っていくのを、創太は必死に追った。
「・・・蒼馬。」
一つ階を降りた踊場で蒼馬のスマホに表示された。
“もう別れよう“
後ろにいる創太からは蒼馬の表情は見えなかった。
ただ、小刻みに震える肩が、ケガのせいとは、とても思えなかった。
二人の脳裏には、有紗の乱れた制服姿と、蒼馬もしたことのない行為をしながら信じられない話をする男女だけが
残った。
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蒼馬と有紗の破局
この報は、創太と蒼馬があの光景を目にした次の日には全校生徒が知るところとなっていた。
“蒼馬は二股をかけていて有紗は捨てられた“
それが真実として流布されていた。
「おいっ!如月っ!」
その話を聞いた創太は如月と蒼馬のいるクラスに殴り込んでいた。
「あ、創太くん。」
そこには何人かの女子に囲まれながら、嘘泣きでもしていたのか、目が少し赤い如月有紗がいた。
「ねぇ創太君も知ってるでしょ!?」
「ほんっと最低だよね!」
「マジ信じられない!」
彼女の周りにいた女子生徒たちが創太の心の内に気付くはずもなく蒼馬を厳しく批判する。
「うるせぇよ」
「っえ?」
「うるせぇつってんだろ」
今日、蒼馬は病院の検査のために来ていない。だから、この学校で真実を知るのは創太と如月しかいない。
バチンッ
「「「っ!?」」」
創太の手が、如月の頬を平手打ちしていた。
「てめぇみてぇなクソ女が!蒼馬と別れてくれてありがとうな!」
「っ!?」
如月はまだ状況を理解できずに、ぶたれた頬に手を置いて呆然としていた。
「てめぇらも!本当のことも知らずに蒼馬を悪役扱いすんじゃねぇ!」
いつもは冷静で温厚、性格まで含めてイケメンな創太が本気でキレている意味を誰も理解できなかった。
「おいっ!何をしている!」
そして何も知らない愚かな教師と生徒によって、創太と蒼馬から明るい学校生活はなくなった。
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