第2話 主席

県立白桜高校は全国的に見ても偏差値は高くはない。しかし低いわけでもなく、卒業後の進路は55%くらいが大学に進学する普通の高校である。だから真面目に勉強する人間がいれば、真逆の遊び人もいる。部活動はそこまで活発ではないが、野球部とバスケ部と軽音部は結構真面目に頑張っているらしい。そんな普通の高校で、恋愛も部活も、青春と呼べそうなものは何もなく1年間を過ごし、2年生になったのが、入学当初からの学年主席である惣代風 蒼馬である。


「なーに黄昏てんだ?」

そうな彼にも友達はいる。窓際の席で外を眺めていた俺の前の席に座って話しかけてきたこの片山 創太とかである。

「別に黄昏てなんかないよ。暇だっただけだ。」

高台にあるこの学校の教室からは富士山が綺麗に見えるのだ。俺は結構この眺めを気に入っている。

「なぁ、さっきの世界史のプリント見せてくれない?」

そんなことだろうとは思っていた。こいつが授業の合間の休み時間にわざわざ俺のところに来るってことは、いつもノートや課題プリントを見せてもらうためなのである。

「お前、よく寝てたもんな。あの先生の授業は一時間寝ただけで置いていかれるから頑張れよ。」

いつものことながら、面倒だったので適当にあしらうと、

「これでなんとか!」

体育館前の自販機で売っている缶コーヒーの甘いやつを俺の机に置く。俺が校内にある3台の自販機で1番好きなドリンクである。

「・・・まったく、今回だけだぞ。」

「さんきゅー!」

取引成立である。俺は大人しく世界史のプリントを渡す。

創太はプリントを受けとるとすぐさま立ち上がって自分の席に戻ろうとしたのだが、途中で立ち止まって、少し気まずそうに振り向く

「なんだ?」

「いやー、蒼馬様がよろしければ、今日の放課後女子グループと遊びに行くんだけど、男子が足りないから、来ない?」

「いつも言っているだろ、俺はそういうのは興味ないんだ。」

「そう、だよな。ごめんな!」

そう言って今度こそ自分の席に戻ってプリントを写すことに専念し始めた。

「はぁ」

創太は悪い奴じゃないし、逆に気配りができて優しい良い奴だ。だからこそ、俺が何度も断って嫌がっているのに遊びに誘うのは、恐らく俺に興味を持っている人にでも依頼されているのだろう。そこまで察する力はあるが、自分が動くつもりはない。申し訳ないが、創太に苦しんでもらうことにしよう。

その分、ノートみせてやるか。

恋愛なんて、時間の無駄だ。

一瞬だけ、空が暗くなった気がした。

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