第11話~淫魔病~
医師から一週間分の薬を貰い、紫英莉は手数料を払う。
そして勇也の看病に専念した。
「ちょ、起きて?薬飲まないと……!」
「うぅ……や、やめろ……やめて、くれ……」
彼に薬を飲ませようと起こそうとするも、夢だと勘違いされて嫌がられてしまう。
「うむぅ……紫英莉か。ごめん……」
目にいつもの元気は宿っていない。
「大丈夫?ほら、薬飲まないと治らないよ?」
「うん……」
声色も力無い。確かに普通の熱とはちょっと違う気がする……
彼に何とか粉薬を飲ませる。
「う、にが……けほっ、けほっ……」
水を含んでいても
「はい水……」
彼はこくりと首肯くと、素早く水瓶を受け取って蓋を開ける。
瓶の水をガブガブ飲んだ。
でも苦さが取れないのか凄く嫌な表情をされる。
「ご、ゴミ箱……」
「だ、ダメだよ吐いちゃ!」
「うぅ……」
布団に潜ってしまった……
一応ゴミ箱は近くに置いて上げるも、ダブルベッドの横に座って背中を擦ってあげることしかできない……
気付いたら紫英莉も眠っていた。
疲れたからか横になったまま背中を擦っていたからだろう。
「ん……?」
「おえっ……!うぶぇっ……!」
しばらく時間が経っていたのは分かるが、今彼がゴミ箱に向かって嗚咽を漏らしている事しか理解できない。
「ちょ、ちょっと!大丈夫?」
「はぁ、はぁ……」
ゴミ箱には透明な水しか無い。
「あ、あんた朝御飯は!?」
「食べてない……」
その事実を知って紫英莉は感情的になってしまう。
「な、何してるのよ……!」
「だ、だって……お腹空かないし……」
元気が無いような……拗ねたような素振りでゴミ箱を置く。
そしてティッシュで口を拭くとそれを力無く投げ捨てる。勿論入る訳もない。
「そうじゃない……!変だったら教えてくれないと……」
「どうせ言ったってお前を心配させるだけだ……」
また拗ねたように布団へ潜り込んでしまう。
(も、もしかして……私のせい……?)
「わ、私がいけないの……?」
「違う……別に、ヤらせてほしかった訳じゃない……」
なのに心配をかけられない強がりは面倒臭過ぎるけど……今それを言ったら可哀想過ぎる。
「その、さ……医者に進められたの。ともかく発情せずに、精の付く食べ物とか――」
「ゲームなんてこの世界には無いだろ!
お腹も空かない。どうせ死ぬんだ……
ほっといてくれ……!はぁ、ごほっ、げほっ……!」
優しく改善策を伝えようとするも怒鳴られてしまう。そして苦しそうに噎せてしまっている。
「悲観的になりすぎよ……愛美さん達が帰ってきたら……」
「二日間も連絡無しじゃ死んでるのかもな……」
彼はマイナスの言葉しか発したがらない。
あの優しさはやっぱり、偽りだったのだろうか……そう思うと少し悲しくなってくる。
「大丈夫。死なない。だって約束したじゃない?」
「…………もういい、誰も信じられない……」
確かにそうなる気持ちは痛いほど分かる。
でも、ここで諦めるのはダメだ。
「辛いのは分かった……でもさ、あんたはそれでも我慢したんでしょ?それは偉いよ……!お医者さんも褒めてたよ?」
「…………」
今は触れることすら許してくれないようだ……
とりあえず、薬は一日一回であることが救いだ。
そう思いながら彼女も横になって眠った。
時間は深夜。
ガサゴソと布団の音に目を覚ます。
「ん……?」
目を覚ますと、勇也に押し倒されていて服に手をかけられていた。
「や、やめてよっ……!」
直感で体を隠して、抵抗するも下着姿でもうどうしようもない。
彼の力は弱くても、体は重い。
小さい紫英莉には押し返す事が出来ない。
(くそ!油断した……!)
「はぁ、はぁ……もう、いいだろ」
彼は息を荒げて怖い顔で押し倒してくる。
「や、やめてってば!!いや!!」
怖くて口は勝手に感情的な言葉を発してしまう。
「うるさい……!」
「むぐぅ……!」
彼に手で口を塞がれる。
チャンスはここしかなかった。
思いっきり彼の手を噛む。
「いだっ……!」
なんとか押し返して、逆に紫英莉が押し倒す。
「あんた……!それでいいの!」
「いいって……言った」
「嘘つき!でもあんたがあの時言ったのは優しい嘘に紛れた本当だって分かるわよ!」
「お前に俺の何が……!」
もう一度押し倒されるも、その勢いを生かしてベッドから彼を落とす。
「いでっ!」
そしてもう一度押し倒して手を封じる。
「確かに、私達は肝心なとこでツいてなかったのかもしれない……でも!それを言い訳にして本当の気持ちうやむやにしちゃダメでしょ!!」
紫英莉は本気で彼へ怒って説教をする。
「嘘だ……!」
まだ抵抗する彼にとどめの言葉を放つ。
「嘘じゃないわ!信じてくれたからこそ!私に心配かけまいと強がったんでしょ!」
「それは……」
「確かに……よこしまな願いはあったかもしれないけど!それでも!ニートの私を認めてくれたんでしょ!?私にとっては……凄く嬉しかったわ……!」
彼の手を押さえながらも涙が溢れてくる。
強がっていたのは彼だけではなく、自分もだった。だからこうなってしまった。
「だから……!誰があんたを責めたとしても……私は、庇う責任と覚悟があるわ!あんたはどうなのよ!あるんでしょ!?あるから私を……!守ってくれたんでしょ!?」
「…………」
泣きながら問いかける言葉に、彼も涙を流して首肯く。
「俺、ごめん……」
「いいよ……私も、気付かなくてごめんね?」
そう言って頭を撫でると、ゆっくりと起き上がる。
そして私を優しく抱き締めてくる。
「俺、お前が大好きだ……!だから、もう悪いこと……しない!」
「はいはい、私も好きよ。発情の言葉でもちゃんと受けとるわ……ありがとう」
そう言って彼を強く抱き締め返す。
「前向きにならないと、治るもんも治らないからな……!」
腕を解くと、彼はいつも通りの笑顔を取り戻す。
「うん……でも、無理だけはしないで……ね?」
「ああ……!」
彼をもう一度寝かせると、紫英莉は出かける準備をする。
「酒場でご飯貰ってくてくるから!ちゃんと寝てるんだよ!」
「うん……」
「あと……シコっちゃだめだよ?」
「わ、分かってるよ……」
注意だけすると、彼は横になってしまう。
とりあえずその日はお肉等を酒場で貰って、帰ってきた。
案外食べさせてみると、食欲は戻ってきたそうだ。
「酒場深夜までやっててよかった……」
「その……口説かれなかったか?」
食事後の勇也に心配される。
「あー、それは大丈夫よ。冗談でも嬉しいわ……」
「別に冗談じゃないから……」
「あ、ありがと……」
(この雰囲気病気治った後も変わらないままでいられるよね……)
彼女としては若干恋愛感情を抱いているのが不安になっていた。
「多分治ってもお前のこと好きなのは変わんないから……」
気持ちを見抜かれていたのか、勇也は恥ずかしそうに話してくる。
「そ、そう……ならよかった。わ、私も好きだから……」
(あーーーー!滅茶苦茶恥ずかしいんだけど!何これ!あーーーー!)
紫英莉は悶々としながら頭を振り回す。
「あの……頭、撫でてくれない……?」
彼から物凄く恥ずかしいことを要求される。
「ふ、ふぇっ……!?」
「さ、さっき……凄い落ち着いたからさ」
「わ、分かったわ……」
そして五分程彼の頭を撫でていると、すぐ眠ってしまった。
(こういう愛の欲求には答えた方が治るのかもしれない……)
確かに付き合ったり結婚すると、そういう感情が若干薄くなると聞いたことがあるような気がする。
「擬似的でも、彼女みたいに頑張らなくちゃ……」
自分の身を守るためにも、彼の体を守るためにも……今はその選択肢しかない事に安心していた。
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