第16話 魔神と雷神、そして鬼神
六人は村から出た平原へと向かう。
先頭を歩いていた愛美が突然止まる。
右腕を横に伸ばし、皆に止めるサインを送る。
紫英莉は目眩が止まらないのか足元をフラフラさせながら、勇也にしがみついている。
「しゃがもう」
「うん……」
勇也は彼女を休ませようと自分も一緒にしゃがむ。
「……!!」
愛美は何かに気付いたのか、覇気を発して雷柱を六人の周囲に纏わせる。
「あらら~視界が悪くなるんじゃない?」
リリスの声が前方から聞こえ、愛美以外は警戒する。
「あんたも一緒よ」
愛美はその存在に気付いていたのか、ニヤニヤしながら右手と左目の眼帯に青い雷を帯びる。
「あーあ、ここで無様に死ぬために寿命を減らしたとかバカ過ぎるわ~」
リリスは嘲笑しながら愛美へ不可解な言葉を吐く。
「あたしの勝手よ。それよりあんたこそ、状況判断能力が働いてないのかしら?狙ってるのはあたし達だけじゃない。更に外に出れば尚更」
愛美は冷静な声色で彼女の精神を追い詰める。
「だからどうしたのよッ!!」
前方に黒い風と共に現れたリリスは、両拳を地面に叩きつける。
地面を亀裂させ、その隙間から鉄岩をこちらに向けて発射する。
鉄岩は雷柱をすり抜けてこちらに飛んできた。
「任せて!」
焔がそう叫ぶと、手から炎の球体を数発発射させる。
球体が全ての鉄の鉄岩を粉々に破壊する。
「すげぇ威力……」
勇也も驚きを隠せずに感嘆を漏らす。
既に愛美はその場におらず、前方に見えるリリスと戦闘している。
愛美は見えない速さで動き、その跡には黒い電撃が走る。
彼女はリリスを速さで翻弄しながら、紫と黄色を帯びた両手の電撃爪で猛攻を仕掛ける。
対してリリスも先程よりしっかりと立ち回っている。
両目の下から胸、腕や脚部にかけて一本の赤
い血管のような紋があった。
攻撃もバリアで防ぐのではなく、魔物と化した黒く尖った手で受け流している。
「へへぇ……」
愛美は距離を取ると、腰に付けていた刃物のような物を取る。
彼女がそれを取ると直ぐに弓へと変形し……
「はあぁぁッ!!」
持ち上げるスピードのまま弓を天へ構えると、覇気を放ちながら突如手に現れた黒雷の矢を打ち放つ。
弓は素早く刃物に変形し腰にしまう瞬間。
「バカね」
リリスが一瞬で距離を詰める。そのスピードを活かし、紫の禍々しいオーラを纏ったパンチを繰り出した。
それは愛美の腹部に命中する……ように見えた。
黒い拳が彼女の服を押し出した瞬間に、その体は雷の跡となる。
「何をッ!?」
リリスが後ろを振り返る瞬間、愛美は白い電気を帯びながら呟く。
「
愛美がそう呟くと、彼女はリリスの体ごと白い電撃を放電し、爆発する。
煙が消えた後、愛美は全身に白雷を纏う。
あの時の力を取り戻していた。
「どう、して……!」
痺れるリリスは未だに愛美を振り解くことができない。
「24時間以内大サービスよ」
彼女はそう話しながら天を見上げる。
空には黒い雲が渦巻き……
『ドオオォォォン!!』
一筋の白い雷をその身に……愛美の左目へと落とす。
今度は爆発を起こすことなく、半径10メートルに渡る強い電撃を放った。
甲高い金属音が鳴り止む。
「あははッ……」
愛美は笑う。初めて試す自分の力の進化に。
憧れの人物と同等の力を持ったことに。
それは、呆気ないと言わんばかりの苦笑に近かった。
その放電を直前で
「無駄」
愛美は呟き、前方右の空に手を上げ、黒い稲妻を飛ばす。
『ドオゥン!』
飛ばされた稲妻は、空中に現れた影ごとコウモリの群れと彼女を打ち落とす。
地面に墜落したリリスは数秒ほどすると立ち上がるも、愛美は黒く染まった左目と普段と変わらぬ右目で見つめている。
「まさか……波動?」
リリスは手を地面に突き、ゆっくりと立ち上がると、口元から出た血を腕で拭く。
「あんた、まだ本気出してないんでしょ?アレが魔王超えなら、あんたがヤバくない訳が無い」
愛美はリリスをおだてて、挑発する。
「隠居ババアに、はぁはぁ……何期待してるのよ……そんな強さなら、お似合いの最強ババアがいるじゃない……!」
リリスはやはりシュプ=ニグラスがどれぐらいの強さなのかも理解しているようだ。
「そんなに強いのかよ……」
それを雷柱の隙間から聞いている勇也が呟く。
レベルの差を感じる程度ではない。
大衆が戦うことすら馬鹿馬鹿しく思えてしまう位。
(俺は、この人達と一緒にいたいけど……)
「悩んでると死ぬわよ」
透香は彼をチラ見しながら注意する。
二人の目が合うと彼女は顔ごと逸らす。
(人見知りなのかな……)
「これでも励ましてるんだよ」
シエラは勇也へ冷たくしたことは本意ではないのだとバラしてしまう。
「し、シーフは黙ってなさいよ……!」
透香はシエラをそう呼ぶと、また周囲を警戒する。
「何も盗んでないのにぃ……」
シエラがそう呟いていると……
「バァン!!」
黒いレーザー光線が雷柱の中に飛んできて、後方へすり抜けていった。
「怪我はない!?」
愛美は皆を心配する。
リリスの
どうやらそれがこちらに飛んできたようだ。
「大丈夫だ!そろそろ行けるよ!」
作戦通り地面に魔法陣を書き、手を当てている焔はそう答える。
「ええ!」
愛美はそう答えると、遠距離攻撃の波を受け流し切る。
「次はどんなサプライズかしら……?」
リリスは防御体制を取り、身構える。
「極・
焔がそう叫ぶと、魔法陣は赤く光る。
白い光の導線が真っ直ぐに延びていき、愛美を避けてリリスの元へと向かう。
「避けられちゃうわよっ!」
リリスは空へと跳び、コウモリの群れと共に姿を消そうとする。
だが光は宙へと延びていくと、位置を計算して彼女を撃ち抜き捉える。
彼女は再び地面へ墜落し、その場に赤い光で縛られる。
「あいつが来るまではどうせ消耗戦になる。だけど、あたしがここで殺せば終わ――」
愛美が近付いて話しかけたその時……
「ReDream」
リリスが小さく呟くと、愛美もその場に倒れる。
「な、なんで……!」
地面へ這いつくばる愛美は、どうしてあの時の呪いがこの状況で呼び起こされたのか知りたかった。
「あれだけしがみつかれて、何もしないと思う……?一緒に地獄に……!落ちなさいッ!」
リリスも封印の力が強くなる。だがまだまだ威勢も体力もあるように見える。
愛美は力を解放したとは言え、感覚操作でリリス自身に波が来れば自分にもダメージが来る。
「まずい……あんなトラップを」
シエラも状況が悪いことを察したのか、顎に手を当てて苦虫を噛み潰したような顔をする。
「お姉ちゃん!!」
透香は愛美を心配して駆け出し、雷柱に触れようとする。
(危ないっ!)
勇也は紫英莉を支えていて手を出せない。
「こら」
焔が兄らしく、透香の後ろの襟を掴んで引き止める。
(ほっ……)
「炎で雷柱を解こう。僕が愛美の呪いを解く……!皆!あいつが何してくるか分からない!気を付けてね!」
焔がそう決断すると、手を雷柱に翳して炎を灯す。それは導線のように雷柱を辿っていく。
勇也はその時、見てしまった。リリスが笑っていることを。
「待て!」
その言葉も遅く、雷柱は解かれる。
「え!?」
焔も二人も気付かないまま、困惑の表情を見せる。
「こんな低級術に引っ掛かる訳ないじゃん」
背後に現れたリリスが勇也へと手を伸ばす。
そして大量のコウモリを近付けさせてくる。
「ライトソード!!」
勇也は魔術符を唱えながら抜刀し、コウモリを焼き斬る。
紫英莉と自分の近くから一旦追い払うも……
リリスは距離を起き、即座に黒いレーザーを放つ。
「危ないッ!」
シエラが勇也と紫英莉を押し退けて庇おうとする。
「バカッ!!」
透香が叫び、黒いレーザーがシエラに触れる一メートル前……
「destructive!!」
ディストラクティブと叫ぶ大人っぽい女性の声。
『ドギュィィン!!』
ポニーテールのその影は左手で、レーザーを九十度真左に反射させる。
左に曲がったレーザーは遠くで爆発した。
ファンタジー世界のような水色の髪のポニーテール。
迷彩柄ショートパンツとジャケット。ミッチリと張り付いた黒いスポーツシャツの女性はこちらを見るなり興味深そうにする。
「お、新入りちゃん三人も!って滅茶苦茶可愛いロリっ娘いるじゃぁ~ん……!」
小声で聞いてはいけないようなことを聞いたような気もする。
肌も綺麗で顔も整っていて見惚れてしまう。だが年齢は恐らく愛美達と同じに見える。
「クソッ、案外早いわね」
リリスは機嫌悪そうに不満を吐く。
「大丈夫か!?」
後ろから聞こえる落ち着いた男の声。
赤髪で黒い着物を着流しで着て、赤い袴を穿いている侍のような人。
年齢層はやっぱり愛美達と同じくらい。
(もしかして……)
他に見当たる強そうな男性はいない。
「乱威智先輩!」
シエラが嬉しそうにそう叫ぶ。
勇也の予想に間違いはなかったようだ。
「愛美さんが……!」
勇也が必死に現状を伝えるも、乱威智は目を泳がせながら反応する。
「なっ!?え、ええ愛美が……!?」
(ど、動揺し過ぎじゃない!?この姉弟大丈夫なんかな……)
「おらあああぁぁぁぁぁッッ!!」
縛られていた愛美は髪の色を、電撃で白や黒に変化させながら立ち上がる。
「ば、バカ野郎ッ!!」
乱威智は酷く焦った様子で、彼女に一瞬で近付き肩に触れる。
すると呪いのように彼女を縛り付ける何者かは無くなった。
(ば、バカ速い……!というかやっぱり愛美さん……!)
リリスの先程言った寿命というワード。
恐らく今やろうとしていたアレは危険な物であると勇也には分かった。
「紫英莉の言葉を忘れたんですか!!」
勇也は遠くでも大声でそれを伝える。
自分を犠牲にする方法なんて、絶対に間違っている。
「わ、分かってるわよ……!」
愛美は悔しそうにそう呟くと、右拳を地面に当てる。
「よしよし、紫英莉ちゃんて言うんだね~。今、お姉さんが何とかしてあげるからねぇ~」
ポニーテールの女の子は、勇也に抱き付く紫英莉を撫でるとリリスの方へ向き直る。
「んで、私はどうすればいいわけ?」
彼女は拳と拳を合わせ気合いを高めている。
「優華は俺と愛美のサポートを頼む。遠距離をパスしてくれ。そのまま奴を逃がさずに叩き潰す」
乱威智はそんな彼女の横に瞬間移動のような素早さで近付き戦略を伝える。
「最後にやるのはあたしだけどね!」
愛美もわざと乱威智に肩を擦りながら、プライドを張る。
「ま、あんた達相手に聞くまでもなかったわね。そこの新人ちゃん、よく見ておくのよ。この化け物二人のコンビネーションを」
「え、はい」
呆れる優華は、勇也によく観察するようにと伝える。
「え、はい」
目が合った勇也はきょどった返事をしてしまう。深く綺麗な藍色の瞳。やはり綺麗なお姉さんにしか見えない。
リリスの元へ目にも止まらぬ速さで駆け出す愛美と乱威智。
『ガガカァン!!』
『ギュィィン!!』
刃の打ち付ける音、爪と爪が擦りあげる音。
一瞬見えたものは……
リリスが左爪で乱威智の燃える刀を、右爪で愛美の黒雷爪を受け止めている姿だった。
また一瞬にしてリリスの両腕が吹っ飛び、血が吹き出すのが見える。
「なっ……」
勇也が絶句したのはそれだけじゃなかったからだ。
愛美が正面からリリスの腹に炎の拳を放つ。そして吹っ飛ぶリリスの百メートル程後ろから、乱威智がほとんど同じ速度で雷を帯びた居合い斬りで首筋を斬った。
「な、何が起きて……」
それが二秒も経たず行われたこと。もう意味が分からなくなってくる。
「馬鹿馬鹿しくなってくるでしょ?」
優華は自信満々な笑みにウインクをしながら愚痴を吐いてくる。
「おああぁぁぁぁぁ!!」
リリスが体勢を建て直し、大声で叫ぶと空気が乱れる。
その衝撃波で二人は距離を取る。
リリスは空気中に蔓延する白く光る何かを体に取り込む。
「あれが上級魔族の餌とする無素体物質。空気中の窒素を覇気で変換してるの」
「は、はぁ……」
優華に説明されるも勇也はぽかんとしながら返事をする。
(愛美さんが使うなって注意されてたやつか……そもそも素体って数学のやつか美術に使うアレだよな?文系だから詳しくないけど……)
「フフッ」
愛美が微かに笑う。
「グッ!?」
リリスが苦しそうに胸元を手で押さえてもがきだす。
「あーあー、ざまぁないわね。今よ、乱威智」
愛美がやれやれといった表情で呆れるも、しっかりと指示を出す。
「…………」
乱威智は無言のまま刀の柄を握り、黒い炎を宿した居合い斬りを即座に放つ。
それはまたしもリリスの首もとに命中する。
「今度は黒に……!」
勇也が呟くと、優華は頭を掻きながら困った表情で答える。
「あれは……まあ沢山の技とか属性持っててうまく使ってるんでしょうね……」
急に雑な説明になった。
(一緒にいるのにこんな雑説明になるって……)
「フハッ!」
リリスは空笑いをし、猫背で立ち上がろうとするもガタガタだ。
「…………」
愛美は黙って見つめる。まだ警戒しているのだろうか。
「用心深いわねぇ。残念だけど、おめでと……」
リリスは白旗を上げるかのような雰囲気で話し始めると……
「おまたせェェッッ!!」
リリスが叫ぶと、地面から大量の漆黒の泥が溢れ出し彼女の体を包み込む。
「まさか……!組んでやがったのか……!」
乱威智は突然の出来事を理解したのか、驚いている。
「い、今のは……?」
気になったので詳しそうなお姉さんに何でも聞いてみる。
「まずいわね……シュプの話は聞いてる?あの力全部それよ。取り込むどころかリリスに貸したってことよ」
優華は丁寧に説明してくれる。愛美のようなお人好しなのかなと分かってきた。
(いや?それってまずくないか?)
「まあ心配することないわ、新人君。あたしの左手は特殊攻撃全てを跳ね返し、右手は生体物質全てを分解するの。しかも……」
彼女の能力について説明を受ける。だがその途中で……
飛行艦船のライトがこちらを照らす。
「な!」
その銀色の装甲は厚く赤いメッキが十字の白いシンボルを際立たせている。
「で、でかい船……」
その超弩級の大きさは戦艦や空母並の大きさだ。
だが着地の仕方はスマートだった。
座標を入力して瞬間移動をするように動き、ドスンと大きな音を立てて綺麗に着地する。
(飛ぶ船というより機械みたいだな……地球じゃこんなの作れないでしょ……)
「騎士団よ」
優華のその言葉に勇也は戸惑う。
(もしかして……紫英莉の知り合いが)
一方、力を集めるリリスに愛美と乱威智は身構えていた。
「覚悟しなさいよ」
「あぁ」
二人はその言葉を交わすと、武器を構え力を貯める。
愛美の背後からは雷の槍が六本程現れる。黒雷翼も現れ、みるみる大きくなり白い色へと変化していく。
乱威智はもう一本の白い炎を宿した刀を手にする。両方の刀を一振りすると、二人はリリスの元へ駆け出した。
金髪ロリっ娘ニートが転生できちゃいました~ 涼太かぶき @kavking
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