第2話~は?なんで私が異世界転生?~

 紫英莉しえりがペラペラと魔術結晶?とやらの本を捲っていくと、変なページがあった。


「うわ、何これ……」

 その両面には壁画が描いてあったのだ。


 黒剣を二つ持った禍禍しい魔王が右側のページに……

 もう片側の左のページには妖艶かつ巨大な女性がいる。


 魔王は禍禍しいオーラ……触手を背中を生やしている。そして誰か人を乗せていた。

「まさか……二刀流?」

 一刀を魔王の頭に刺しながら肩に乗っている。


 妖艶な女性は……

「髪で大事な部分が見えないいつものやつー」

 それ以外にも仮面を被っていたり角を生やしている。


 そしてその背後には何百もの天使とそのリーダーらしき爺がいた。


「悪と悪が戦う壁画なんて珍しいなぁ……善の人ほとんど左端……何表してるんだろ」


 文字を読もうとしたがなんか読めない。ぼやけてしまっている。

「うーん……何でだ~」

 目を何回擦ってみても同じ。


 そしてその壁画の中央にはプラスチックのカプセルがあり、虹色の結晶が入っていた。


 形は縦のひし形。ゲームでもあるような結晶だが……虹色でめちゃくちゃ輝いている。


「きれいー……」

 それはまるで幾千の星のように、彼女の心を洗い流すように煌めいている。


「えっへへ~」

 彼女はにんまり笑ってしまった。


 次の瞬間……

『第56番、太陽系銀河、ザザッ』

 ノイズを発しながら結晶が女性の機械音で喋った。

「しゃ、しゃべ……シャベッタァァァ!!まあ、模型みたいな機械ですよね」


 私は舐めた態度でもう一度にんまりと微笑む。

『空間異次元転生、開始……』

「へ?くうかんいじ……?な――」


 虹色のクリスタルと共に、彼女の姿は高級マンションの一室から消えた。

 光の量子はその場所にしばらく舞っていた……



「ふえ?」

 私が目を覚ますと、そこは怖いほど真っ白の空間。


「な、何何!?私さっきまでマンションにいたのに……」

 彼女は軽いパニック状態で、周りをきょろきょろと見渡すが何もない。


「ふぇっ!?なんでなんで!てかここ……どこ?」

 私が戸惑っていると、前方が更に眩しくなる。


 そして白のドレスフードで目を隠した女の人が現れる。

 ドレスには様々な色の結晶が付いていて、持っている杖は……宝石そのもので象った豪華過ぎる杖だった。


「あ、あのぅ~ここって~」

 紫英莉は怖がりながら彼女に質問する。


「ふふ……あなたは今、その結晶で、何をしたか……知りたい?」

 怖い笑みを浮かべる彼女は、私の持つ虹色の結晶を指差し、一語一語妖艶に語りかけてくる。


「え、えーっと……空間なんちゃら?ってこの機械が喋って……し、知りたいです!あ、でも……」

 彼女はしどろもどろになりながら喋るが、ここで固有スキルコミュ症が発動してしまう。


 だが、気になることが一つあった。

(知ったわねぇ……?なーんて事になって、いきなり殺されるとか?ま、まさかね?)


「怖がらないの~」

 頭をよしよしされると花の香りが鼻をくすぐる。

「ふふぁ~」

 こういう時は抱き着いて好感度を高めよう。


「あらあら~甘えん坊さんね……でも君って、20歳のニートなんでしょ?」

「うぐっ……」

 それは何度も言われた言葉。もう聞きたく無かった言葉。若干気持ち悪くなってくる。

 最後のは嘘ね。


「ご、ごめんね?でもあなたにはこれから、あることを決めてもらわなきゃならないの……」

「あ、あること……?か、帰りたい……」

 紫英莉は指を咥えて彼女にねだる。効果はイマイチだ。


「ま、まあまあ……もしね?もしあなたが異世界転生出来るとしたらどうなりたい?」

「異世界転生……」

 彼女からの問いに戸惑ってしまう。


 異世界転生……それは夢のような話だ。でも……まずいのでは?


「あの……行っても帰れる?」

「もちろん!行ってちゃんと目的をクリア出来れば……」

 紫英莉は恐る恐る彼女に聞いてみた。すると目的があるらしい……

(ってそれ絶対魔王倒すとかやつでしょ!?)


「も、目的って……?」

「ま、まあね?ちょっとじゃんけんに勝つだけよ?」

「じゃ、じゃんけん……?」

 明らかに怪し過ぎる。そして野球拳しか思い付かない。それは危険だ。


「あ、あのやっぱり……」

「あ!一つだけ凄い能力持ってけるのよ!?何でも良いわよ?そしたらじゃんけんなんて後出しバレずに勝てちゃうよっ!」

 目が怖い……というか怪し過ぎる。


「あの……まずこれって何?」

 私はずっと気になっていた結晶の事を聞いてみる。

「あーこれはね?転移……転生結晶よ!」

(いや今転移って……)


「あなたがこれを使ったらファンタジーな異世界に転生出来るのよ?しかも今回一回こっきり……ほら、虹色の光……消えてきてるでしょ?」

 彼女の言う通り、虹色の結晶はキラキラを失い始めている。


「い、一回切り……」

 その言葉はずるい。紫英莉は惑わされてしまう。

「能力は何が良い……?不死身とか、レベル100とか、誘惑とか……」

 彼女は一つ一つ候補を出していく。


「ん?誘惑!?って何ですそれ!」

 紫英莉は驚きの表情を漏らす。それは彼女があって一番安心するもの。


「あ!誘惑はね?もう相手を思うがままよ?思うがまま!でも、あなたみたいな可愛い娘には……」

「行きます!異世界!」

 彼女の思うがままという説明に乗せられて、紫英莉は軽く決断してしまった。


「じゃあこのリンゴをどーぞ!」

「え?リンゴ?」

 ポンと手渡されたのは普通のリンゴ。


「着いたらそれをすぐ食べてね?」

「はーい!」

 私は楽しみな思いを残しながら、どうしてリンゴなのか不思議で仕方なかった。


「おっけー!じゃあいってらっしゃーい!」

 女性は右手を重ねてくる。

(わっ……!)

 ドキドキしたのは一瞬。結晶を握らされると、また光の量子となり消えていった。



「アーハッハッハッハ!アーッハ!ごほっごほっ……」

 女は高笑いを繰り返し、せる。

「遂に……遂にィ……!この絶対能力さいのうの実……完全なるアダムとイヴの実を……!」


 先程とは表情を変えた女は息を荒げてフードをひっぺがす。

 そんな荒れ狂った様子で叫びまくる。


「よし!よし!よし!」

 女は三度もガッツポーズを取る。


「はぁ……人間ってほんと馬鹿ねぇ?

 しかもサタンさぁーん?

 偽善野郎に従えさせられてるから聞こえないかぁ~~

 あんたもあんな未完成品ばっか作っちゃって、ねぇ……?」


 女は一度息継ぎをすると、また歓喜且つ狂った表情で呟き始める。


「私にはツテがあるのよ?

 次はハスターちゃんと恋愛ごっこしながら手伝ってもらおうかしら……

 ウフフ、フフ、フハッ……あーおもしろ」




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