第6話~冒険準備とこの世界の仕組み~

 そして二人は冒険者用の衣服と装備を買ってもらった。


「これ、合わせたら……そこそこ高い、ですよね?」

 勇也がそれとなく値段を気にしていた。


 右手には普段着一セットの紙袋。

 黒い冒険者マントと前衛用の黒い上皮装備を身に付け、背中には石の盾、腰には石の剣。

 しっかりと敏捷性も気にされている。


「ま、まあまあ……どうせ悪いやつからぶんどったお金だし平気平気」

 シエラさんはしれっと悲しいことを言う。


「わ、わあ……!」

 紫英莉は自分の姿に目を輝かせる。


 左手には普段着二セットの紙袋。

 早速羽織った白と青のローブと白いブーツ。頭には魔導士用のティアラ。

 そして右手には宝石の入った鉄のロッド……!


「あ、ありがとうございます……!大事に使います!」

「いいのいいの。よしよし」

 ティアラに触れないよう軽く頭を撫でられる。


「…………えへへ」

 一瞬目が点になってしまうが、ちょっと嬉しいから微笑んでしまう。



 その後は街の湯屋や宿屋を紹介してもらいながら酒場へと向かった。


 ガヤガヤと周囲は酒を楽しむ声が聞こえる。

「ごめんね?こんな場所で……」


「だ、大丈夫大丈夫!夜はお店とか閉まっちゃうからね」

 紫英莉も少し馴染めてきたのか、会話に自分から参加できるようになっていた。

(年下に奢られるって私達……気を使わずにはいられない……)


「好きな物頼んでいいよ?」

 シエラはバーっぽい落ち着いたカバーのメニューを二人に渡してくれる。


「ありがとうシエラ!」

 親しくしてくれるシエラに、勇也も感謝の言葉を伝える。

(男子同士距離感をあまり考えなくて良いとか反則だ……)



 注文も頼み、肉や野菜やパン等を食べようとしている時だった。

「二人は食べてていいよ?僕がちゃんとこの世界の仕組みを説明するから……!」


「い、いやいや……!俺達してもらってばっかりだし、シエラもちゃんと食べてくれ……あむ、もぐもぐ」

 勇也は肉にかぶり付きながらも気を使う。


「た、食べながら喋らないの……はむ、おいひい……」

 紫英莉も人の事を言えないけど、空腹は悠長に待ってくれないようだ。


「ふふっ、二人は面白いね……ありがとう。僕だって食べないとちゃんと細かく説明出来るか分からないし、助かるよ……!」

 彼もメニューを取って追加注文をする。



「ふふぁ~お腹いっぱい。ごちそうさま」

「ごちそうさま……!本当に何から何までありがとうね……!」

 紫英莉と勇也はたらふくご飯を食べると、満足そうに微笑む。


「ううん、こちらこそ喜んでくれたようで何よりだよ!」

 シエラは信じられない位気を遣ってくれる……こんなに優しい人がこの世にいたんだと人の温もりを感じる。


「僕も結構食べたし……じゃあ大事な話するからよく聞いててね?」

「はい」

「うん……!」

 シエラが真面目な表情で話を切り出すと、二人もその緊張感に眠気が吹き飛ぶ。


「まず、君達がいるここは……第56番太陽系。銀河の話をするとちょっと派閥が難しい事になるから……ともかく君達は宇宙の星に飛ばされたんだ」


「は、はい……こ、ここが宇宙……」

 勇也はまだ話を理解出来てない様子だった。でもここがどこかの星であることは分かったらしい。


「や、やっぱり……私、魔術結晶って本を間違って買っちゃって……そこの結晶を見た瞬間どこかに吸い込まれちゃって……その時に結晶が56番太陽系?って言ってたの」

 紫英莉も飛ばされる前の記憶を思い出す限り、その話には納得がいった。


「あー、確かに俺もそんな感じだった……気がする。やっぱりあのお姉さんは悪者なのかなぁ……」

「お姉さん……?」

 シエラは真面目な表情でお姉さんという単語に食い付いてくる。


 確かに思春期男子には刺激的な言葉ではあるが、そう言う雰囲気ではない。

 彼のこめかみからは冷や汗が流れている。


「うん、仮面をした優しそうなお姉さん」

 勇也がそう答えると……


「仮面の模様は……!す、済まない……模様は覚えているかな?」

 シエラは緊迫した表情でいきなり立ち上がり、それを謝ってまた座り直す。

 ちょっと強ばった表情で驚いてしまう。


「う、うん……なんか白いドレスとフード被ってて……仮面なんかしてたっけ?」

 紫英莉は勇也の話と少し違うなと思いつつも外見を話した。


「してたよ!確かにフードは被ってたけど、俺が警戒してたら外して髪を見せてくれたんだ。仮面は……黒と白……だったはず……!知り合いなのか?」

(私ってそんな髪色しか知らない女に……無警戒過ぎない……?)


「そ、そうか……いや、他にも特徴を教えてほしい」

 シエラは顔を青ざめながらも話を聞き続ける。

(こ、これって……知り合いだとしてもあまり良くない系じゃ……大丈夫かな)


「後はー……黒髪のロングヘアで花の香りがして、なんか背中には黒い宝石が付いてた」

(よくそんな場所まで見てるな……)


「あぁ……間違いない」

「か、顔色良くないけど大丈夫か?」

 シエラの呟きと共に顔色は更に悪化していく。流石に勇也も心配そうに立ち上がる。


「だ、大丈夫大丈夫……」

 だけど次の瞬間、後ろに立っていた誰かが彼を横たわらせる。

 愛美さんだった……


「女神シュブ=ニグラスね……

ちょっと!椅子もう一つ貸してもらえる?」

「お、愛美ちゃんやないか。どーぞー!」

 彼女はボソッと呟くと、店員に椅子を借りていいか確認を取る。


 そして近くの木椅子を取ると、自分がそれに座る。

(一応優しい人なんだ……?)


「ごめん、なさい……」

「無理すんなバカ……言っていいの?」

「…………うん、後はお願いします……」

 二人のやり取りを見ると、何か重大な物を抱えている様子だった。


「とりあえず、今後一切……あたし達はあんた達二人を監視するわ」

「ふぇっ!?お、俺達何か悪いことしたんですか?」

 勇也は監視と言う言葉に反応して驚いている。


 大体先程の話をしてからの監視という言葉は……間違いなく厄介事に巻き込まれているだろう。あの女が原因だと紫英莉は推測した。


「あ、あの人……そんなに悪い人なんですか?」

「ええ、極端に言えば宇宙を脅かす存在よ……そしてこいつもその被害者よ……」

 恐る恐る聞いてみるとオーバーかと思える答えが返ってくる。

 彼がいきなり体調を崩す理由も察しが付いた。


「ご、ごめんなさい……辛い話だとは分からなくて……」

 家族が殺された。辺りが妥当なのだろうか……紫英莉はつい謝ってしまう。


「い、いいんだよ……教えてくれて、ありがとう……」

「いいから……!体の右、下にして少し寝てなさい」

 礼をするシエラに、彼女は消化を促すように寝かせる。


「…………」

 勇也が下を向いて黙りこくっている。

「どしたの?」

 心配して聞くと……


「なあ、俺達って……あの時、はいって言わなかったら……」

「…………」

 愛美さんは目を逸らして、悔しそうに歯を食い縛る。

 間違いなく殺されていただろう……


「ねえ……私達変なもの食べさせられたわよね?」

「ああ、これを食べたらその能力を使えるってリンゴを……」

 その話を切り出して、まずいと思った時にはもう遅かった。


 愛美さんが口元を押さえながら立ち上がる。

「ごめんなさいちょっと席を外すわ……」

 店の外へ小走りで去っていく。


「あー……またまずいこと話しちゃった……かな?」

「そ、そうだな……」



 十分ほど緊迫した空気が続くと……

「な、なんかあったんか?」

 茶色い肌のスキンヘッドのバーテンダーさんが話しかけてきた。髭がとても似合っている。


「あ、だ、大丈夫です……」

「お前は大丈夫そうじゃないだろ……とりあえず、いつも世話になってるしお代は良いから……宿でゆっくり休め?二人はちゃんとシエラちゃん送ってってやってくれ」

 バーテンダーさんの優しい対応に圧巻されながらも、二人は声を揃えて返事をする。


「はい……」

「はい……!」

 何度も死にたいと思ったことはあったけど、本当に生きてて良かったと心の底から思えた。

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