第8話~クエスト完了!なの……?~

 気まずい雰囲気のまま街へ戻って、昼食をギルド内の食堂で済ませる。


(カツ丼おいひぃ~!異世界でもこんなご飯が食べれるなんて……!)

 紫英莉はもくもくとカツ丼を食べる。食べる。食べまくる。勿論器は大サイズ


「い、意外だな……お前が大食いなんて」

「や、やっぱり昨日と今日は気遣ってたんだね……なんかごめん……」

 勇也には驚かれ、シエラには謝られる。でも耳が筒抜けになるほど、カツ丼がうまい。


「ら、らいひょうふれふ!」

「自分で食うご飯は泣けるなぁ……しかも白飯……うぅ……」

 勇也も泣きながらカツ丼を食べている。


「働かざる者食うべからず!だからね!これからも二人とも頑張ってね!」

 先程の金髪の男の子、戸澤 ほむらさんに応援の言葉をもらう。


「はい!」

「はい!ことわざって……やっぱり日本文化が……!」

 二人は返事をするも、勇也は納得の表情をする。


「へ?何の話?」

「ん?あ、ああ……お前は聞いてなかったっけ。

 彼らの故郷の星は、日本文化を全面に取り入れているらしいんだ……!

 こっそりと国交もしてるとか!ロマンがあるなぁ……」

 勇也に軽く説明されたことで納得する。


「ほへぇ……なるほどなるほど。あんたって文系?」

 思い切って勇也に質問してみた。


「あー、うんそうだよ。ま、お前みたいなニートには――げふっ……!」

「あ、ごめん……背低くて肘当たっちゃった」

 馬鹿にされるのが分かっていたので、丼ぶりをかっこもうとしたときに肘が当たったように見せた。


「す、すんませーん……む、無給の学生が、すんませーん……」

 掠れ声でふざけて抵抗の意思を見せる。


 けど先程から、熱い視線を向けられている。藍色の髪のポニテ少女、時雨 透香ちゃんに……

(あ、あれは間違いなく……ホの字だ)

 ニコニコと微笑んできてる。


 道中もスキンシップが凄かったせいで、全く話を聞けなかった……

 聞いたら気まずい雰囲気を引き起こして、可愛い娘に嫌われちゃいそうで……


「透香、手が止まってる」

 ずーっと黙っていた愛美さんがやっと喋る。

「あ、ごめん……でもお姉ちゃんとお兄ちゃんがいちばーん……!」

 マグロの丼ぶりを置いて、透香ちゃんは愛美さんに抱き着く。


「あ、あはは……はいはい」

「ねーえー、いつ仲直りするのー?」

「…………」

 苦笑いをする愛美さんに透香ちゃんが質問すると、彼女は悲しそうに黙ってしまう。

(仲直り……?ってことは元カレではない……?いや、まだ分からないか)


「…………」

 また一同は沈黙する。

(それとなく二人の時に聞いてみよっかなー)



 食事が終わってクエストカウンター前、スキンシップの時間。それとなく聞いてみた。

「あ、あの透香ちゃん……?さっきから言ってるお兄ちゃんとか、乱威智さんってのは……」


「じゃあちっぱい触らせて~」

(さっきから触っとるでしょうが!!)

 距離が近くて美少女。そして花のような甘いシャンプーの香り。幸せだから余計厄介だ。


「さ、触ってるじゃな――」

『じゃあ中心……つまんじゃっていい?』

 可愛いロリ声が耳元で囁く。

(催眠音声やめぇーー!)


「だ、だめ――はうぅっ……!れすよぉ……はぁ、はぁ……」

 問答無用で摘んできたので変な声が漏れて、多少注目を集める。


「ちょ、ちょっとあんた……!こんな場所でロリコンの真似事はやめてよ……!」

 愛美さんが近付いてきて、注意してくる。


「乱威智お兄ちゃんのことが知りたいんだって~」

 簡単にはバラされてしまう。

「い、いや……ちょ、調子に乗ってるとかそういう訳じゃなくて……」


「いいわよ。夜、宿のあたしの部屋に来なさい」

(あぁ~~絶対にシバかれる~~)



 そして勇也に共にクエストカウンターの受付に向かう。

 スキンシップを受けながら。


「どれにしますかー?」

 カウンターのお姉さんは引き釣った笑いでクエストメニューを見せる。


 結局あのクエストの報酬は十万ゴールド。そこそこに貰えた。

 普通は二万なのに繁殖期ボーナスとやらで五倍だそうだ。


 一体二百円が一体千円に。

 かなりお得だが……もう勘弁だ。


 分け前を二人にも渡そうとしたけど、いいよ大丈夫だよと受け取ってもらえなかった。


「繁殖期クエストってあります?」

「ありますよー」

 バカが調子に乗り出した。


「おいこら……!」

 また肘を突いて叱るが……


「というか今の時期、繁殖期クエストしかないですから……」

 カウンターの女性は更に苦笑いする。


 頭が真っ白になる。

「じゃあスライムの次に簡単なやつを」

「はーい。ゴブリン100匹討伐ですねー」

 全身の血の気が引いていく気がした。


 こればかりはまずい。ゴブリンの繁殖期はまずい。

(私……妊娠しないで生き残れるかな……)


「次はゴブリン……か!」

「あんた一度も剣振るって無いでしょ……」

 勇也はガッツポーズを取るも、こいつは剣を振るってない初心者同然。


「俺剣道やってたんだぜ!高校の頃!」

「ほ、ほえー……」

 ちょっと感心する。でも……それは三年間何もしていない証拠である。


「でもあんた21歳って……」

「あーあー!聞こえなーい!」

(こいつマジで何なんだ……)


「大丈夫大丈夫~シェリーちゃんは私が守ってあげるから!」

 透香ちゃんはまたぎゅっと抱き着いてくると、守ってあげると宣言される。

(わぁ……年下に守られてる。というか可愛いなぁ……女の子としてではなく、子供として可愛い)


「あ、ありがと……透香ちゃん」

「じゃあもっとぎゅっとしていい?」

 可愛らしい声で首をかしげながら聞いてくる。

(あーあーあー可愛い。その言い方は女の子としても子供としても可愛い)


「いいよ~」

「うんっ!」

『ぎゅっ』

 優しくもぎゅっと抱き着いてくる。めっちゃ可愛い。


「…………」

 勇也が羨ましそうにこちらを見ている。

(どうだぁ?羨ましいだろー?)


「ひゃんっ!?」

 背中に抱き着く彼女は……

 紫英莉のモコモコワンピースの中に潜り、スカートを捲ってお尻をぷにぷにと揉んできた。


「と、とうか、ひゃんっ……!」

 指がお尻の内側へ食い込み初めて、変な声を上げてしまう。


「あのー……」

「あ、はいはい。受けます」

 カウンターで心配するお姉さんに気付いた勇也は、簡単にクエストを受注してしまう。

(終わった……)



 宿の木製のドアを開ける。

「あ、失礼します……」

「べ、別にそんなにかしこまらなくてもいいわよ……!」


 クエストを明日に回し、あっという間に夜になった。

 透香ちゃんは一緒にいてあげると、紫英莉のベッドで寝てしまった。


 少し申し訳無いけど、愛美さんの部屋に話を聞きにやって来たのだった。

 ベッドに座る愛美さんは、同じウールのモコモコモフモフワンピースを着ていた。


 隣に座ると……

「透香は、寝ちゃった?」

「うん……じゃなくてはい……?」

 透香ちゃんの事を聞かれたので、うんと答えるも……敬語に戻して疑問系になってしまう。


「よ、四つも年上なんでしょ……?べ、別に……タメでいいですよ……」

 恥ずかしいのか彼女は小声になってしまう。


「ふふ、別に愛美ちゃんもタメでだいじょ……え!?十六!?」

「何よ……」

 少し不機嫌そうに睨まれた。だって明らかに花の女子高生みたいなプロポーション……

(まあでも二年ぐらいしか変わらないか……)


「年上ですし、偉そうに論じてもいいですよ……」

「そうさせてもらいたいのはやまやまだけど……暮らしてきた過酷さが違うし……」

 紫英莉が気になって理由に、彼女は気付いていたのか態度を改める。


「あたしが守るような立場に見えるんですか?こんな目も無くして、弟のお荷物の落ちこぼれよ……」

 そう言うと彼女は肩をしょんぼりと落としてしまう。


 眼帯を付けている……左目が無いことや、後ろめたそうにする素振りはそう思えた。

 そしてその人物が弟であることが分かった。

(なるほどなぁ~)


「私と一緒だね……!私もこんな背で、好きなこととお金儲けしかしてない落ちこぼれ~」

 同情の言葉を告げると、紫英莉は彼女のベッドに仰向けで横たわる。


「そ、それって立派なんじゃ……」

「でもね……やっぱり恨まれるものだから。でもやってて良かったって思うぐらい嬉しいこともある」

 凄い意外だけど誉められる。

 だから、良いことばかりではないと同時に後悔の無い経験を伝える。


「ご、ごめんなさい……彼氏ってのはシエラに突き通してた嘘なの……」

「なるほどね。まずかったのはそういうことだったってことか」

 彼女はシエラに嘘を吐いていたという真実を答えた。


「うん。シエラはあいつから引き渡されたの……」

「じゃあ足手まといじゃないじゃん!

 一番あなたに任せたいって――」

 そう言いかけた時、真剣な目で見つめられた。


「あたし、そいつの姉なんだけど……」

「ま、まあまあ……でも、あなたはどうしたいの?」

 ちょっと出しゃばり過ぎた……肝心な気持ちの部分を聞いてみる。


「あ、え?あ、あたし……?」

「そう、そいつの力になりたい。

 乱威智君がピンチの時、助けたいと思うんじゃない?」

 核心的なところを問い詰める。


「そ、そうだけど……

 あ、あいつは不死身だし……何でも守ろうとするし……」

 どうやら……強がりの意地っ張り、でも優しいんだと伝えたいらしい。


「だったら尚更よ!

 一人で天下を取ることを可能でも、一人で百人は守り切れない……かもしれない。

 あなたがいればそれは五十人になるわ!」

 理論的に助けになるという事を説得する。


「…………」

「やらないより、やることが大事……!

 そうしないと結果も元も子もない。

 お姉さんの助言はこんなもんかな……」

 彼女は黙り込んでいるので、最後の助言を残す。


「結果……」

「夢見てるなら……頑張らなくちゃ!」

 最後の一押しをして肩を揺する。


「あ、ありがと……!」

 そう言って彼女は、木のクローゼットに入れていた戦闘用の服を取り出す。


「ちょ、ちょっとこんな夜にどこ行くの!?」

 慌てて立ち上がり、彼女のワンピースを引っ張る。


「こんな夜だから、きっとピンチが長引いて困ってるわ……!

 あたしの絶対能力さいのうの強さ……舐めてもらっちゃ困るわ!」

「ちょ、ちょっと待った……!」

 今、大事な言葉を聞いた気がする。


「何よ……」

「才能って何……かな?もしかして……」

 この能力の事と関係あるだろうか……


「あのリンゴの能力よ……

 あたしもあいつがピンチの時に食べて……

 この特殊な能力で助けた……!」

「禁断の果実……!」

 それはアダムとイヴに出てくるあの果実。


「ええ、あれはどうやっても覆せない……

 神すらも捻じ曲げる絶対能力よ……」

「絶対……ちなみに愛美ちゃんは――」

 そう言おうとした時、また出しゃばったと感じた。だが……


「イメージ通りや想像通りに、体や能力を動かせるの……

 そこに相手の法則は一切通用しないわ。

 創造現壊と書いて、イメージパスカル……」

「つ、強い……」

 彼女は自分の右手を頭に添えて、自信の脳にあるであろう能力を教えてくれる。


「最初は誰でも弱いわ……

 あなた達のそれは、幻覚、精神系の誘惑能力。誘惑絶界と書いてシュブニグラスよ……」

(シュブニグラスって……!)

 彼女の言う能力は、あのリンゴを持つ女の名前……


「ええ、あいつ独自の能力よ……

 あいつは果実の改造を今でも続けてる。

 邪神ヨグ=ソトースの妻。

 そして……悪は邪神が創り、善を一人で創り上げた女神。神ノ二対かみのについよ」

 神ノ二対……そんな創造神みたいな話が本当に……


「今じゃ邪の限りを尽くして、この世界を滅ぼそうとしてる……ってとこね。

 何故あいつの能力を選べたのか。

 あたしが探る間、頑張ってそれを使いこなせるように……!」

「うん!使って使って使いまくって、強くなるしかない……!」

 今度は愛美ちゃんが、紫英莉の肩をポンと叩く。

 そして彼女と同じく、紫英莉も決意する。



「あの子のも全く一緒だわ……

 そ、その……二十歳はたちを越えると、欲求不満になるの……?

 え、えっと……性的な意味で……」

 彼女は、勇也と紫英莉のただのアホな願いを冷静に分析してきた。

 恥ずかしがる可愛らしい仕草で……


「ま、まあ……なるわ。私だって自分でどうこうしたのも……」

 あー、事実を認めてしまった……

 実際問題、紫英莉はその通りであった。


「ど、どうこうしたのも……?」

「や、やっぱり教えない……」

 恥ずかし過ぎて、初めての自慰なんて教えられる訳ない。


「なら深追いはしないけど……」

 彼女がまともな性格で良かった。


 そしてそのまま服に着替えるので、部屋から一緒に出る。


 そして彼女を下まで見送り、宿の一室に戻る。

 透香ちゃんの寝るベッドに横になるとふと考える。

(なんでエッチな話で締めたのかしら……あ、やっぱり弟さんが大好きなんだ……!)


「ふふふ」

 それを隠す彼女の可愛らしさに微笑みが溢れる。


「ママ……」

「よしよし」

 抱き着く透香ちゃんの頭を撫でる。


「死んじゃいや……」

(だからあんたら重いって……この世界、過酷過ぎる……)

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