第13話~雷鬼と最魔~

『嘘つき』

 それは親友や家族を裏切った言葉。

 今まで迷惑をかけて、最後に言われた言葉。

 そのまま縁を切ることしかできなかったしょうもない理由。



「違う!!紫英莉は自分を守るような嘘を吐いたって、その相手が目の前で倒れてたら絶対に手を差し伸べる……!」

 彼の言葉で昔の嫌な記憶から目を覚ます。


「チッ、中々ね……」

 リリスは舌打ちをすると、顎に手を当てて何かを考えている。


「だから、俺はその命の恩人を……」

 勇也は私の方へ向く。告白する直前のような口ぶりで。


(ま、まさかこのタイミングで……)

 紫英莉は彼が何を言おうとしているのか、分かってしまう。

 それを考えると、更に恥ずかしくなって顔を両手で隠す。


「ふふ、なら大丈夫だよ。お前の事は俺が分かってる」

 その言葉もお預けにされた上に、何だか滅茶苦茶恥ずかしい事を言われてる気がする。


誘惑チャームなんて珍しい絶対能力、あの人の木の実しか考えられないわぁ~でも、今それを悪用してるのはあのゴミ女だけど」

 リリスはニヤニヤしながらまた話し始める。


「私はこわーい人達と違って、弱い人には優しくするわ。でも強い奴はひれ伏すまで実力行使……🖤」

 彼女は自分が怖くないというアピールをまたしている。

(二重人格なの?)


「でも舐めてる子は嫌い」

 彼女は冷たくそう呟く。

 そして人差し指をかざすと……


「ひゃっ……あ、あぅぅ……」

 紫英莉の下腹部が急に熱くなって、むず痒くなる。その熱さは勇也にも伝わるほどに。

 彼女はお腹を抱えて勇也の胸に倒れる。


「だ、大丈夫か!?ってあっつ……!」

 彼が気付く頃には、もう全身にその熱が伝わり意識が朦朧としていた。


「おい!今すぐ淫魔病を解け!弱い人には優しくするんじゃなかったのか!」

 勇也は怒りながらリリスへ反論する。


「絶対能力を持ってる人を弱い人とは言いませーん」

 リリスはまた椅子から下りて、勇也の側に来る。

 彼女は人差し指を紫英莉と勇也の下腹部の間に滑り込ませる。


「あっ……」

 勇也が声を上げる頃にはその指は抜かれていた。


「はい、後はなかよーく●クロスしててね~?」

 リリスは側から離れると、また豪華な椅子に座って眺め始める。


 勇也は熱のような症状はないものの、体の部位に直接何らかの魔法をかけられていた。

「元に……戻せっ!」

 耐えるような表情でリリスを睨む。


「良い表情。付け上がった鼻を落とすのってやっぱり最高ね……🖤」

 それを見てうっとりとしている。


『怖い……やだ……』

 紫英莉は朦朧とする意識の中、勇也の服へしがみついて助けを求める。


「大丈夫だ……!少し横にずれよう……?」

 勇也は彼女の体温が上がってしまうと考え、彼女の体を両手でゆっくりと自分の横に下ろそうとする。


「だーめ🖤念動能力サイコキネシス

 リリスの超能力でまた体の位置を戻されてしまう。


「大丈夫よ~?淫魔病の熱は絶対に意識は飛ばない。だから40度を越えたりしないの。死んじゃったら精液吸い取れないでしょ~?あ~~あの溶けたドロドロが楽しみだわ」

 リリスはそう惚けながら説明すると、紫英莉を宙に持ち上げた。

 彼女は紫英莉が穿く魔道士の長いピッチリスカートを縦に切り目を入れ、足が自由に動くようにしてからパンツを脱がせた。


「おい!本当にやめろ!」

 勇也は焦りながらリリスに訴えるも、聞いてすらいないのかうっとりしている。

「あ、丁度長いスカートであなたのお腹まで隠れちゃう。隠しちゃう感じは気品があってエッチね~」

 そのまま破れかけたスカートで勇也の腹部まるごと隠され……


「おいッ!やめろッ!!」

 勇也の全力の否定など無視され……

 スカートで隠されたまま、戦士用のズボンとパンツは脱がされてしまう。


「はい、見えなかった~~面白~い🖤」

 リリスはどうにもできない二人を面白がっている。

 自分に無い物を持っている人を見下す子供のような声色で。


 紫英莉は息を荒くしていたはずだが、少し意識が戻る。

「あ、あふぇ……?」

 自分の状況をうまく理解できていない彼女は周囲を見渡す。


 自分は浮かされ、スカートの中はスースーとしている。

 後ろを見ると、勇也の足が見えてズボンとパンツが転がっている。

 下を恐る恐る見ると、勇也の腹部は自分の切れかけたスカートで覆われている。


「やっ……やだぁああぅっ……!」

 拒否しようとするも、お腹の奥が熱くなる。


「お望み通り淫魔病は解いてあげたわよ~?最初に繋がる時位、お互い一緒の記憶に刻み込んであげる方が良いわよねぇ?」

 リリスは悪戯に笑って二人を侮辱する。


「や、やめ……やめてくれ……!」

 勇也も嫌がる紫英莉を見て、リリスに懇願する。


「だーめ🖤」

 リリスがそう告げ、二人の下腹部に当たる熱い感触が強く押し付けられる……


「い、いやぁっ……!」

 紫英莉も青ざめたまま、首を横に振る。


「はーい、ドッキング――」

 二人が目を瞑って、神に助けを求めた瞬間……


『ドガァァァァァアアアアン!!!!』

 二人とリリスとの間に雷が落ちる。


「リィィリィィスゥゥゥ……!」

 一度は助けてくれた気が強い女の子の声が聞こえる。


「え~~あなたはお呼びじゃない~~」

 リリスはそれでも先程からの笑みを止めない。


「今度こそ、殺す……!」

 現れた愛美は、リリスに殺戮宣言をする。


 彼女の姿は……黒い稲妻を帯びた骨の翼のようなオーラを纏い、紫や黄色の稲妻に包まれた巨大な黒爪が見える。

 更に……無いはずの左眼には、躍り狂うような密量の青白い稲妻を帯びていた。


「あらまぁ……相当怒っているみたいだけど、自分の立場分かってる?手を出そうものなら……」

 リリスは声の調子を落とし、脅すような低い口調で愛美に話しかける。


「そう。じゃあ……」

 愛美はゆっくりと手を上げて指を鳴らす素振りを見せる。


「あたしがこのスイッチを鳴らせば、回路が発動してこの遺跡の眷属全員が心臓発作を起こすって言ったら……?」

 愛美は回路という現実的な用語で不可能ではない事を証明する。

 不可能でない限りそれは絶対に起こせる。


 彼女の絶対能力、創造現壊イメージパスカルによって……


「はぁ……嫌味かしら?どこまでも私の気に障るのね?」

 リリスは溜め息を吐き、愛美に意識を向ける。顔色もがらりと変わり、怒りを露にしている。


「あんたがあたしの気に障ってるの間違いよ」

 愛美はそっくりそのまま言葉を返す。


「そういう正直なとこが嫌いなのよ……で?何しに来たの?」

 リリスは餌を食べれず、ご機嫌を損ねたかのように彼女を睨む。


「アンタごと……隠し持ってる実を全て潰すッ!!」

 愛美は電磁浮遊を使い、空中間を猛スピードで走り抜ける。

 そして左腕の雷爪らいそうで、リリスに殴りかかる。


炎焔防御フレアバリア!!無駄よ、一度負けた敗北者が何を言ってるのかしら?」

 リリスは赤く燃えたぎる防御壁で、彼女の巨大な雷爪を防ぐ。


「はあああぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 愛美は右腕の雷爪も振りかざす。


「ぐッ……!いくら強くなろうと、私には叶わない。愛した弟にも一生それは届かないわ……!」

 強い電圧と強い力。それに焦ったリリスは彼女を挑発するが……


「好きに言えば良いじゃない!あたしの事を考えてくれる人は……あたしが命を懸けても守るわッ!!」

 愛美は強い意志を、真面目な表情でぶつける。


「愛美……ちゃん……」

 紫英莉の意識は明確になり、体の感覚も元に戻る。そのままバランスを倒して前に倒れた。


「し、紫英莉……!」

「大丈夫よ!あんたも服着て!逃げて助けを呼ばなくちゃ……」

 勇也の心配する声を振り切り、地面に落ちた自分のパンツを拾って即座に穿く。


「も、もう大丈夫だ……!」

 数秒すると、勇也もズボンを穿き終わったそうだ。


「逃がさないわッ!!」

 リリスは胸元からピンク色の鎖を取り出して紫英莉達へ放り投げようとする。


 彼女がそれを振りかぶろうと、彼女の顔の横に見えた時……


『バァァァン!!』

 重たい銃声のような、雷のような轟音が鎖全てを残さず射貫く。

 本人以外はそのうるさすぎる音に耳を塞ぐも、しばらく音が聞こえない。


 見た目で判断するに電磁レーザー。

 愛美の骨翼の先端から放たれるエフェクトだと気付く……レーザー、レールガン、破壊光線とも違う。

 十秒以上空気に残り続けるソレは、もっと危険な物だと分かった。


 持続的に青色を帯びた白いレーザーがリリスの髪の一部を貫き、壁に綺麗な丸い穴を開けたのかかなり遠くから外の光が見える。

 リリス本人は目を点にして驚愕している。


「ここまで可能になるってことは、どういうことか分かるわよねぇ? かぁーくぅーごぉー?? そんなものあたしの顔を見て、あると思うのかしらァ?」

 愛美は口角を上げて笑い、イリスへ力の差を見せ付ける。


 私達も目を点にして見とれていた。

(そういう覚悟を決めろって意味で言ったんじゃ無いんですけどぉぉぉぉ!?)

 彼女にアドバイスしたことを少し後悔した。


 けれどそれで今守られている。リリスに牽制、圧倒していると思うと誇らしい。


「や、やっぱり心配だし逃げる訳には……」

 勇也は出会った時のように彼女を心配している。


「足手まといよッ!! 回路だのを敷いて交渉材料にしたってこと分からなかったの!? あんたは今! 年下のあたしに舐められてんのよ! 悔しかったらもっと強くなりなさい!」

 愛美は背中を向けたまま叫び続ける。

 その声に反応して周囲の電撃がバチバチぶつかり合う。


 ビクッと勇也の体が震え上がり、紫英莉を抱き抱えようとした彼の下腹部がまた膨らんだ。

「ふ、踏まれたくないですッ!」


(体は正直……きも……)

 彼がマゾ属性であると少し察してしまう。



 そして紫英莉達は肩を支え合いながら、気付かぬうちに破壊された檻を潜って入り口の方に逃げ出した。

(私達を守ってくれたのに……ごめんなさい……)

 愛美に対して、非力による申し訳無さを感じていた。

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