第4話~ロリニートと思春期大学生~

「で、私達って勿論文無しよね?」

「本読むのに財布は持たないだろ」

 彼に全うな意見をぶつけられる。


「な、名前……」

 やはり彼女は気恥ずかしいのか口ごもってしまう。


「君から名乗ればいいじゃないか」

 確かに男の言う通り、名前を聞きたいのなら自分から名乗るのは常識だ。


「わ、わかったわ……!わ、私は村上 紫英莉しえりよ!」

「よろしくなシェリーちゃん。いや、ハーフロリビッチ選手」


 彼女もその言葉には頭にカチンときたようだ。

 拳を握って眉をひそめて目を閉じる。


「ご、ごめんごめん……」

「許さない……!」

 ふん、と紫英莉はそっぽを向いて怒った振りをする。


「んで……あんたは?」

「ん?俺か?俺はたちばな勇也ゆうやだ」

 勇也はわざとらしく、かっこつけたセリフ回しで自己紹介をする。

(な、なんか一々素振りが腹立つんですけど……)


「私は二十歳はたちよ。あんたは?」

「にじゅういち~だいがくさんねんせ~~」

(ぐぅぅぅ……!こ●してぇ……!)

 彼は口を尖らせ、煽り口調で答える。

 普段冷静な彼女とて頭に血が上る。


「んであんたはこっからどうするの?」

「あれ?職業まだ聞いてないなぁ??」

 まだ彼は紫英莉を煽ってくる。

(ああぁぁ~~!イラつく!)


「驚きなさい!アフィリエイター且つV―――バーよ!」

 ゲーム実況者であることは伏せてしまった。ごめんなさい。


「うわ……無職だ」

「ぐすん……」

 やっぱりそう貶してくるので泣いた振りをする。


「別にここじゃどっちも無職だろ……!」

 彼はそっぽを向いて腕を組み、恥ずかしがりながらも元気付けてくれる。

(へっ、ちょろいな)


「わ、私達って素手でモンスター狩れる?」

「君は、無理だな……」

 勇也は一度顎に手を当て考えるが、やっぱり決まった答えが返ってくる。

「デスヨネー」


「こ、こういう時はまずギルドだろ!」

(いけるとこまでこいつで姫プするか。まあ冗談だけど……)



 なんやかんやで商人達に道を聞き……聞いてもらい、ギルドらしき場所へ辿り着いた。


「わあ……鉄製」

 それは鉄製のガッチリとした建物で守衛もいるほどだった。

 でも守衛は階段に座り、子供達の話し……遊び相手になってあげている。


「わ、わぁ……おじさん!あの人!あの人おっぱいすごいよ!」

「お尻もすげぇ……」

 子供達は紫英莉の体を見て鼻を伸ばしている。


「こ、こらこら……!冒険者にそういうこと言っちゃあかんぞ?」

 守衛にもチラリと見られた……


「お前のソレいつ解けるんだよ……」

「わ、分かんないし……」

 勇也に能力の事を聞かれるが、正直全く分からない。



 彼女達は女性職員のいるカウンターに向かう。

「ギルドにようこそ!……い、妹さん……ですか?」

 女性職員の胸は普通のCサイズ程だった。


「いや違います。他人です。いや、迷子です」

「違うでしょ……!」

 紫英莉は彼の太ももを指で摘んで注意する。ぷにぷにしていた。

(意外とこいつも貧弱?)


「…………」

 勇也はこちらをニヤニヤしながら見守っている。


(じゃあ話せって事!?)

「あ、あの……私達丁度この街に来たときにお金スラれちゃって……何か仕事とかお手伝いってありますか?」


「酒場を当たってください」

 お姉さんは笑顔でそう答える。絶対個人的な思念があるような気がした。

(し、辛辣ぅ……!)


「ま、まあ一応初心者用のクエストはあるにはあるんですが……」

 お姉さんは気まずそうにそう答えると、手に持った大きい端末を見せてくる。

(こ、これってあのア―――社の……)


「ふぇ?スライム百匹……?」

「そうですね……今のところはそれしか……」

 職員のお姉さんも困ったような表情を見せる。


「そ、装備支給とかは勿論無いですよね?」

「ええ、でも装備無しでどうやって街に?」

 紫英莉が恐る恐る彼女に装備面を聞いてみると、逆に怪しまれてしまう。


「だ、大丈夫です!受けます!お、俺こう見えても力もあるし器用なんで!」

「は、はい……三日以内でお願いしますね……?」

 二人は書類に署名だけしてさっさとギルドを後にした。



「戦闘よろしく」

「シェリーちゃん?お前も戦うんだよ?」

 勇也は掠れた声を出してふざけてくる。

(あー殴りてぇ……けど絶対勝てない)


「それとよろしく!だけじゃあ戦えないなぁ……年上にはちゃんと礼儀。ね?大人なんだし分かるよね?」

 あまりに上から目線が酷いので、もうこの人とはやっていけなさそうだ。


「私酒場で働こうかな……」

「わ、悪かったって……!タメでいいよ!」

 落ち込む振りをしながらそう答えると、慌てて謝り始めた。

(こいつ案外DV気質だな……)


「ねえ、ジャンケンで帰れるなんてでたらめだよね?」

「まあそうだな」

 昼下がりの街を歩きながら帰れるのかを相談してみる。


「なんで私達騙されちゃったのかな」

「モテたかったんだろうな」

 確かに勇也の言う通りだ。

 支配欲と性欲、単なる仮想世界への欲望でここに来たんだろう。


「ねえ、本当にあんたも同じのにしたの?」

「違うよ」

 あっさりと否定する。

(なんなんだコイツ……)


「じゃあなんなのよ……」

「実はな、この右手は……」

「おい」

 ニヤニヤしながらそう言うので嘘だと分かってしまう。

(コイツ……明らかに嘘なのが腹立つ!)


「いやぁーやっぱ二刀――」

「おいコラ」

 紫英莉は本当にそうであってほしかったと思うが、嘘を吐き続けられる方の気持ちになってほしい。


「●ックスで相手をヤバくするスキルだ」

「う、嘘でしょ……?」

 紫英莉は彼から一歩距離を置いて、自身の体を腕で守ろうとする。


「本当だ」

「はぁ……」

 彼の楽しそうな微笑みを見て溜め息が零れる。そして歩幅を元に戻す。


「その……人に好印象を与えられる感じのやつなんだ……」

 彼は恥ずかしそうに、またもみ上げを人差し指で掻きながら答える。


「メンヘラなの?」

「違うし」

 無表情なので違うことは分かった。だがやり返す時にはやり返したい。


「あー、さてはぼっちか」

「あんたもだろ」

「うっ……」

 地雷を踏んで言葉のブーメランが返ってくる。



 街の外に出て、ちょっと歩いてみたは良いものの……

 草原にはスライムどころか魔物が一匹もいない。


「嘘でしょ?」

「嘘であってほしいな?」

 二人して嘘だと願うしかない程、平和な光景だった。


「試しに誘惑使ってみろよ」

「やだ……!」

 紫英莉は胸を隠して後退りする。


「あとギルド行く前からずっと、チラチラパンツ見えてるよ」

「分かってるわよ……!」

 彼は余計な一言を告げ、また彼女はイラついている。

(なんで体戻らないのよ……!)


「試しに使ってみろよ。もしかしたらスライムになるかもしれないぞ?俺はお前みたいのがタイプだったからさっきはそうなったのかもしれないな」

「へ……?」

 突然のタイプ発言にドキッとしてしまう。


 でも彼は嬉しそうにほくそ笑んでいる。

「ただ私の裸がもう一回見たいだけでしょ……」

 体を隠してそうはいかないぞと応戦する。


「じゃあ俺が使うか?」

「スッポンポンになったらセクハラだから。守衛さん呼んでくるから」

 前以て紫英莉は彼に背を向ける。


「お前が子供達にスッポンポンにされるの間違いじゃないか?」

「ぐぅぅ……!」

 彼はまた煽ってきた。紫英莉は背を向けたまま悔しそうな表情をする。


「じゃあいくぞ?スライムよ!俺をすこになれ!」

(なんなんだコイツ……)


 後ろから光が漏れる。確かに彼女の時よりは清純そうな演出だった。


「いい?」

「いいぞ」

 もう既に声が甲高い。察しがついた。


 振り返るとそこには笑顔なピンクのスライムが一匹。

「うわ、性転換した」

「そこかよ!」

 でもスライムなんて見るのは初めてで、ちょっと興味がある……というか悪戯してみたくなる。


「うわぁ……触っていい?」

「いいぞ、ロリビッチ」

 彼も楽しそうにぴょんぴょん跳ねている。

(楽しそう……)


 彼は横から一センチ程の手のようなでっぱりを出してくる。

「えへへ……ぷにぷに」

 それをちょんちょんとつついてみる。冷たくて確かに気持ち良い。


「ぬふふ」

(ま、まさかコイツ……まさかね?)

「でさ、あんたが変身してどうやってスライム倒すの?」

 近くに放置されている綺麗に畳まれた彼の服は非力さを意味している。


「あっ……あはは、わぅっ……!」

 もう一度つついてみると変な声を出している。

(もしかしてコイツの今の状態って全身の感覚がアレなんじゃ……)


「キモッ!!」

 そう考えた途端気持ち悪くなって悲鳴を上げる。後ろに尻餅を突いてしまう。

「いきなりどした?」


「どうしたもないわよ!変な声出すってことはあんたの今の体って……」

「まあソレに似てるな」

 紫英莉の体は一気に青ざめ、彼の服につついた指を擦る。


「お、汚物扱いすんなよ……」

 彼は悲しそうな声を上げるが、それは汚物以外の何でもない……

「汚物じゃない……!はぁー、私が変身しなくて良かった……」


『ドドドドド……』

 なんか地鳴りが聞こえる。まさかこれって……


 森の方から数千体はいるであろう色んな色のスライムの群れが、ぴょんぴょん跳ねて近付いてくる。


「んじゃ、後はよろしく」

「へ?」

 彼は紫英莉の体に飛び付き、虫のように一瞬にしてワンピースの中に潜り込む。


「ひぇっ……!?」

 全身の冷たい感触が……ヌメヌメした感触が気持ち悪い。

「うわぁ……すげぇ……!えっど……ぷにぷに」


 ピンクの液体が彼女の胸の間に挟まっている。

「ひいやっ……やだやだやだぁ……!」

 彼女は体を丸め込んでスライムを掴もうとするが、素早さのパラメータが全く彼に追い付いていないらしい。


 つまり全身掴めないまま、全身を揉みほぐされていく。


「やだっ……!チ――押し当てんな!変態!死ね!!」

 私は屈辱に耐えきれず暴言を吐いてしまう。


「いや違うからな?ただのスライムだからな?粘液だから」

「キモいキモいキモい!!だってそれって――メンじゃん!やだやだやだ!!」

 彼は弁明するもそれは余計気持ち悪さを増すだけだ。


「女の子がそんなはしたない事言うなよ……」

 彼は呆れた様子で喋りながらしっかりと私の右おっぱいに張り付いてくる。

「はしたないのは、ひゃんっ……!どっちよ!てか何で体の中に入るのよ!!」


「おい!奴ら来るぞ!ブラになってやるから逃げろ!!」

 彼は甲高い声で小さく叫ぶがそれどころではない。


「なんでブラに、いやっ……らめっ……!」

「奴らにもみくちゃにされるぞ!」

 ブラジャーになると言って彼は固定しているわけではない。しっかりと揉んでくる。

(この変態!バカ!)


「しょれはあんたも……あっ、やらぁ……!一緒じゃない!!」

「だから早く逃げろ」

 やっと形がフィットしたけど、服が濡れて違和感しかないまま街へと走り出す。


「へなへな走るな!」

 スライムブラはおっぱいを揉みしだく事で、彼女を馬のように走らせる。


「あ、そ、そこらめっ……!覚えてなさいよバカぁぁあああ!」

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