虹色の君と@異世界

幻典 尋貴

プロローグ【天使ノ声】

「――あなたは死にました」


 声とそれを発した少女の姿、そしてそこに居るというだけがある世界。

 まるでVRゴーグルを付けてゲームをしているように、存在がふわふわとしている感覚。ただ、ゲームのように視線は動かせないし、手の感覚もない。そもそも、五感を感じ取る機関がないのだ。


「ですから、」声の主はえーと言って続ける。「あなたには、その後の世界で転生を待ってもらいます」

 彼女が手元のバインダーの様なものに挟まった紙をちらと見る。

「あなたの生前の行いは、とても良いものでした」

 確かに、良い人と呼ばれる存在を目指して、努力をしていた覚えがある。ただ、その記憶が本当にあった事なのかはおぼろげになり始めているが。

他人ひとの手本となる生き方を心掛け、まぁあなたは知らなかったでしょうが人の死を止めた事――運命を動かした事は、天界でも多くの者に知れ渡っています」

 知らないうちに僕は素晴らしい行いをしていたらしい。少女の顔も驚きの表情をしていた。「この人が」などと思っているのだろうか。

「ですが、」続くその言葉で驚きの表情の意味を、直後に知る。「あなたには地獄へ行ってもらいます」

 その理由は聞かずとも分かっていた。自業自得ってやつだろう。それは僕がした最初で最後の、とても悪い行い。


「自殺は、いけませんよねぇ」


 彼女の声音は、さとしているとも、納得から出たものとも取れる様なものだった。

 自殺、そう自殺だ。

 生きることへのやる気をなくした僕は、鍵をかけた自室の中で、大量の薬を飲んだ。

「とにかく、まずは地獄へ行ってもらいましょう」

 少女の後ろに現れた鈍色の門が、神々しい光をその隙間より発しながら開く。

 いつの間にか僕の体が現れており、彼女に促されるままに門の向こうへ向かって歩く。

 地獄ならば、痛みやら苦しみやらで何も考えずに生きられる。辛いだろうけど、現実ほどじゃ無いんじゃなかろうか。

 あぁ、やっと楽になれるのか。

「その世界の管理人はサーシャというものです。少し癖が強いのお気をつけて」

 その忠告に首を縦に振って応え、ついに門をくぐる。


 そして息を飲む。


 門の先にあった世界ものは――

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