第2節【新世界での新生活】
王都ジーナスの中央にある集会所は大きなテントで出来ていて、四方どこからでも入れるようになっていた。
中央に受付があり、その周囲には休憩用の椅子と机が置いてある。
テントの柱となっている部分には掲示板の様なものがあり、いくつかの木版がかけてあった。それぞれの木版の上部には太い文字で何か書いてあり、下部には見慣れた数字があったため、どうやらクエスト参加の募集を行っている様だ。中央部分にはモンスターの様なものが描いてある。
ここに来てやっと気付いたが、数字以外の文字が転生者である僕には読めるものではなかった。話している言語は日本語の様だが、書いてある言葉は英語と日本語が混じった様な文字。冒険者ギルドへの加入手続きは、ピロフォリアに手伝ってもらい、かなりの時間をかけて終えた。
新たな言語を覚えないといけないと知った途端に元々なかったやる気はさらに減った。
ピロフォリアの話だと冒険者ギルドへの登録と共に行ったアンケートに沿って二、三日で僕に合った冒険者がパーティに加わると言うが、果たして僕に合った冒険者などいるのだろうか。そもそも、僕は“合う”人としっかりと関わることは出来るのだろうか。
そんな疑問が鈍島透の脳内を支配しだす。
昔は違ったとはいえ、最近の僕は人から逃げて逃げて、逃げていたのだ。
誰とも関われない、誰とも関わるもんかと学校内で必要な必要最小限しか人と関わらなかった。
そんな僕が、誰と、一緒の生活が出来ると言うのか。
頭を振り、ネガティヴな考えを脳内から追い払う。
何か気分転換がしたいと思った時に、ふと新たな疑問が浮かぶ。
「ねぇ、ピロフォリア。冒険までにしておいた方が良いことってあるの?」
「そうですね…とりあえず防具と武器、下級でもいいのでメイルだけは必須ですね。武器は好きなものを選んでください」
「でも、金が無いよなぁ」
「心配無用です。新規冒険者さんの初期装備の資金は、ギルドが負担してくれます」
「だいぶ太っ腹なんだね」
「まぁ、限度額はありますが」ピロフォリアはそう前置きして、指を折りながら続ける「武器、ヘルム、メイル、レギンス、ガントレット、全てを下級のもので揃えて少し余るぐらいですかね」
「それじゃあ、防具屋に行こうか。案内を頼むよ」
「かしこまりました!」
自分の仕事が出来て嬉しいのか、答えと同時にピロフォリアが少し跳ねた気がした。かわいい。
鈍島透はピロフォリアの背中を追って、集会所から南の方向に歩き、三本目の路地に入った。手前から四つ目の店の前で立ち止まるとピロフォリアが「ここです」と看板を指差す。
看板には『アルモア防具店』と書いてある。日本で畏まった物を漢字で書く様に、この世界では強調したい物は日本語で書く様だ。世界の雰囲気に反していて、違和感が拭えない。まぁ、翻訳の手間が省けて楽なのだが。
ピロフォリア
店長はアルモア=クロシスという若い男性で、銀色の髪色のせいかちゃらけて居る様に見えるが、接客態度もよく、とても聞きやすい話し方をした。
ちなみに店の半分はカフェスペースとなっていて、手製のモンブランがとても美味しいのだとピロフォリアが教えてくれたので、金が溜まったら来ることにした。
ここで僕は良く見るような、一般冒険者が着けるような防具一式を買った。
「次は武器だけど…っと、これ付けて歩くのはまだ早い気がするな。ロッカー的なものは無いの?」
「そうですね、一応貸し棚というものはありますが、この道具袋を差し上げましょう。サーシャさんからの贈り物です」
そう言ってピロフォリアが取り出したのは麻で出来た小さな袋だ。僕の手のひらぐらいしか大きさはなく、とても防具が入りそうに無い。入ってせいぜいガントレットだけと言ったところだろうか。
――そこにピロフォリアはどんどん防具を突っ込んで行った。
「はへ?」
目の前で起きた違和感の
「驚かせてしまってすみません。この道具袋の中は異次元に繋がっていて、一定容量まで道具を入れて持ち運ぶことができるんです」
「そうか、アニメやゲームで武器をどこから取り出してるんだって疑問が今解決したよ」
「それなら良かったです」
その後、武器屋で中級のソードを購入した際も、僕はピロフォリアがくれた道具袋にそれを収納した。
僕はそんな風に買い物などをしながら、安値の宿屋に泊まりつつ、パーティメンバーの発表を二日待った。
新生活に相応しく忙しい二日間であった。
そして、ギルドによって組まれた鈍島透のパーティが開示される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます