第3節【パーティの結成】
壁にかけられた松明と、床の青く発光する魔法陣の様なものしか部屋に光源はない。
壁際に並んだ魔方陣は五つ。それぞれ簡易的な木製のパーテーションで区切られていて、プールのシャワー室の様になっている。
鈍島透はその内の一番左側の魔方陣の上に立たされた。ピロフォリアもその右隣の魔方陣の上に立っている。
ここは集会所の地下。中央の受付でパーティ発表の知らせが来たと話すと、受付嬢に奥に連れてかれ、昇降機でここまで降りてきた。
どうやらパーティのメンバーはここで発表される様だ。
呼ばれた時間よりも少し早くきたために、僕らは他のパーティメンバーが来るまで割と待たされる事となった。
それにより、僕の胸の内は期待と
新たな世界で新たな仲間と出会えるのは確かに嬉しい事である。僕の頭の中はどんな人が来るのだろうかと言う考えでいっぱいだった。
ただ、それは不安からくる物でもあるようだ。いくら僕に合う物がマッチングされるとは言え、会ったことも話した事も無い者と本当に気が合うのかと言うことは疑問であったのだ。
そしてその事以上に、今まで人間関係から逃げてきた僕が、そのメンバー達と上手くやっていけるのかと言うことが疑問を通り越して恐怖であった。
五分程経ったところで、昇降機のガガガという音が響き始める。
それにより僕の胸中は一瞬にして、すぐにでも逃げ出したいという感情に塗り潰される。
片目を瞑り、もう片方の目だけで恐る恐る正面、昇降機の方を見る。
昇降機から降りてきたのは弓を背負った
目つきは少し鋭く、髪は肩までで切り揃えられている。髪型の事はあまりわからないが、これだけは名前のインパクトで覚えている。
服装はかなり露出度の高いもので、一見すると周りの人々からは浮いているように思えるが、彼女の整った顔立ちにはとても合っていた。
彼女は何も言わずにピロフォリアの右の魔方陣の上に立った。
昇降機が上がって行く。
「ぼ、僕の名前は鈍島透。鈍色の鈍に島に透明の透で鈍島透。よろしく、ね?」
宇宙人と交信するような、威嚇してくる猫に話しかけるような、多分に恐怖の混じった挨拶となった。
挨拶は人との関係を作り上げるために大切なものと聞いた事がある。新たな世界でやっていくならば、必要な事だ。
「ん、よろしく」
極めて淡白な返しではあったが、一応意思の疎通は出来たようだ。声は顔の印象よりも低いものだった。
挨拶が出来る人は悪い人では無い、と言うのは先入観にも似た決めつけの様なもので、科学的根拠も何も無いが、なんとなくそう言う風になっている気がする。
よって彼女に勝手にいい人判定を下した。ポンッと芋判を押した音がした気がした。
思えばこれは久し振りに自分から人に話しかけた瞬間。涙が出そうになってくる。
しかし、その涙はすんでのところで再び降りてきた昇降機の音によって無理矢理止められた。
ピロフォリアを入れて三人目の仲間。最初の彼女との意思疎通ができたからか、あまり恐怖は感じていなかった。
昇降機から降りてきたのは大男。
お兄さんともおじさんとも言えないくらいの年上の男性。
背には大剣を背負っていて、それなりの装備も付けているために、歩くたびにカチャカチャという音が室内に響いた。
「おぁ。若造ばっかじゃねぇか」
挨拶のタイミングを測っていた所、大声で笑いながら彼は言った。
「こ、こんにちは。僕は鈍島透って言います。隣にいるのがピロフォリアで、その隣が…」
そういえば彼女の名前を聞いていなかったと気づく。コミュ症の僕はそこまで突っ込むことは出来なかった。
はぁ、というようなため息がして、彼女がこちらに視線を向ける。
「私はインチーナ。一応弓使い。よろしく」
と、またしても淡白な挨拶をして、元の場所に帰っていった。
「おう、二人ともよろしくな。俺はグラディオ。見ての通り大剣使いだ」
そう言って彼が手を出してきたので握手を返す。力が強い。痛い痛い。
そのままピロフォリアとインチーナにも握手をしようとして、インチーナには振られていた。ちょっと落ち込んでる様子だった。
彼がインチーナの隣の魔方陣に乗ると、昇降機で待機していたらしい受付嬢が「さて、」と話を始めた。
「この四人が新パーティです。パーティ名は後で変えられるので今は一応トオルさんの名前を使わせてもらいます。」
そう言って手元の用紙にサラサラと何かを書き込んでいく。
書き終わったのか、彼女はそれを裏返し、そこに書いてある契約の様なものを読み始めた。
「無理に仲良くなれとは言いません。慣れろとも言いません。皆さんに冒険者登録の際に答えてもらったアンケートを元に作ったパーティなので、すごく仲が悪くなるということはないと思いますが、一応パーティを抜けることもできるのでご安心ください。」
「分かりました」と僕は声に出し、他の物は首を縦に振っていたり、腕を組んで聞いていなかったり、それぞれだ。
その後も簡単にパーティシステムについての説明が続いた。
「という事で、あなた達パーティはギルドによって認められました。最後に魔方陣による登録を行うので、真っ直ぐとお立ちください」
そう言うと彼女は小さな声で何事かを呟き始める。恐らく魔方陣を起動させるためのものだろう。
足元の魔方陣の青い光が増していく。
だんだん上の方へ光が届き始め、腰くらいにきた時に一気に上へと突き抜けた。
青白い光が僕らを包む。
「――登録が終わりました。もう、帰っていただいて構いません。お疲れ様でした」
受付嬢がそう言うと、僕らは順番に昇降機に乗り地上に出た。
グラディオが伸びをして、大気を震わす様な大声を出す。
他の全員が驚いた顔をし、グラディオが笑う。
「俺の欠伸に驚いてたら、モンスターとなんて戦えないぞ」
「驚いてなんかない。ちょっと引いただけ」
とインチーナが答えると、またしてもグラディオが悲しそうな顔をした。
「ま、まぁ、仲良くしようよ。パーティになったんだし」
と僕が宥める。
なんとなくこの関係はこんな感じで続いていく気がした。
「しょうがないわね」
インチーナは組んでた腕を解くと手を差し、それから少し焦った様に「別に一緒に行動したいわけじゃないわよ」と付け加えた。
彼女と握手を交わす。おや、と思ったが口には出さないでおいた。彼女をツンデレ認定するのは怒られそうだし、僕の希望が多分に入っている気がしたからだ。
ピロフォリアも握手をしていた。
グラディオはやっぱり断られていた。
グラディオはすぐに立ち直り、ガッハッハと豪快に笑った。
「まぁ、
インチーナがため息を吐き、またグラディオが笑う。僕も少し笑って、ピロフォリアも笑顔だった。
こうして僕のパーティは結成されたのだった。
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