第4節【スライム狩り】
神様なんていなかった。
理不尽に叩きつけられた僕は、土の上で仰向けに寝転がっている。
このまま太陽が落ちてきて焼け死ねないものかと、何度も願う。
羞恥と後悔。それだけが頭の中をグルグルと回る。
僕の目も回る。
初心者冒険者が初心者冒険者になるためのクエストは僕に現実を認めさせるには十分なものだった。
――事の発端はグラディオの一言。
「じゃあ、スライム狩りにでも行くか」
パーティ結成から二日間。僕らはギルドから与えられたパーティ専用の家、ハウスの掃除をしていた。その中でグラディオが元々パーティリーダーをやっていた事が明らかになったり、インチーナがやっぱりツンデレ属性を持っていることが分かったりしたのだが、それが終わった頃、いつも通りの豪快な笑い声を上げながらグラディオはそう言った。
僕はまぁ、スライム狩りは初心者冒険者の経験値集めには良いと思ったので「賛成です」と手を上げた。
ピロフォリアも僕が良いならと言って手を上げた。
ここで既に多数決的にはスライム狩りに行くことは決まっていたのだが、インチーナはパーティ内唯一の女子なので彼女の意見によっては僕らの意見も変わらないでもない。まぁ、彼女がどうするかはこの二日間で分かりきってはいるが。
インチーナは「しょうがないから、雑魚狩りに付き合ってあげる」とやっぱり賛同した。
そうして僕らは王都ジーナスを出てドラフライの森に入った。
森内をしばらく歩いたところで、地面から生える様にスライムの群れは現れた。
雑魚敵のイメージの付いているスライムはやはり水色をしていて割と可愛い。
僕がスライムを切るのを躊躇っていると、グラディオは一歩前に出て背から大剣を抜き、そのままの勢いで叩きつける様にスライムを切った。
スライムの成分が飛び散る。
その大剣捌きはとても巧みで、元々他のパーティのリーダーだったと言うのは本当らしい。グラディオはあの性格なので、僕ら全員がその事を疑ってたに違いない。
そのままグラディオは僕らに見本を見せる様にバッサバッサとスライムをやっつけて行き、十五匹いたスライムの群れを壊滅させた。
「ほれ、可愛いからって気を取られてたらやられるぞ」グラディオが後ろを振り向き言う。「後ろ、次の群れだ」
僕は瞬時に後ろを振り向き、腰の鞘から剣を抜く。
ピロフォリアはどこからともなく現れた杖を構え、インチーナは後ろに飛んで弓を構えた。
僕は飛びかかってきたスライムを薙ぎ払う様に切る。
次の一匹は、ピロフォリアが燃やした。
燃えるスライムに気を取られ、横から飛んできたスライムに驚き、硬直してしまう。
僕にスライムがぶつかるすんでのところでインチーナの弓が貫く。
相変わらずグラディオは華麗な大剣捌きで残りのスライムをやっつけていた。
「次だ」
グラディオの短い合図。
僕は剣を構えようとする。
そこで異常に気づく。身体が動かない。
どうやら僕にかかったスライムの成分が再結合して僕の体を取り込もうとしているらしい。
動けば動くほど体力を削られる。
他の者たちは目の前のスライムたちで精一杯になっていてこちらに気付かない。
新たなスライムが飛びかかってくる。くっつく。
いつの間にか僕は巨大なスライムの着ぐるみを着た様になっていた。
目の前が片付いたのか、ピロフォリアがこちらを見て何かを言っている。
スライムのゴボゴボと言う音に消されて何も聞こえない。
グラディオは僕ごと切ってしまう可能性を考えてなのか、切ろうにも切れないと言う様な苦い顔をしている。
インチーナは珍しく驚いた表情をしていて、弓使い初心者の彼女も僕ごと貫いてしまうリスクを考えてか、攻撃してくれない。
最後に残ったピロフォリアは少しの躊躇もなく魔法の詠唱をし、僕ごとスライムを焼いた。
流石子供。容赦無い。
――そして冒頭に戻る。
僕はスライムにさえ勝てないという羞恥と、来なければ良かったという後悔。
インチーナがアハハと笑っている。その笑顔は悔しいがスライムなんて比べ物にならないくらい可憐だった。普段からこうしてれば良いのに。絶対本人に言えないけど。怖い。
なんて考えているとスライムの残党がインチーに襲いかかる。
今度は先程よりも素早くピロフォリアが動く。
スライムごと焼けたインチーナは不満顔だ。
グラディオが頭を掻きながらこちらに向かって来たので、立ち上がる。
「悪かったな、トオル。説明忘れてたわ。スライムは核をやんなきゃダメなんだ。そうしないと、こうなる」
もっと早く言ってくれと思ったが、流石に笑っていない所から反省の念が見えるので、「まぁいいよ」と返しておいた。
「あと、二人とも」と僕とインチーナを見てグラディオは人差し指を立てて話す。「スライムは下級モンスターだけど、雑魚では無いからな。次からは油断するな。殺されるぞ」
「スライムは下級モンスターの中で最上位の強さを持ちます。毎年スライムによって数百人が殺されています」
とピロフォリアも続けた。
ピロフォリアへの信頼ポイントが一つ下がった。
殺されるという言葉の迫力にやられ、僕らは次からスライムに出会ったら戦わないで逃げることを決心した。
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