第2章〜始まりの異世界生活@虹色の世界〜
第1節【案内係――ピロフォリア】
オーロラのような模様が広がる空。ただ、下地の色は普通の空と同じような薄い
街の中は動物と人間を混ぜたような見た目の亜人が闊歩していて、時々見慣れた人間の姿も見える。
少し歩き回った所、此処はかなり大きい街の様で、雰囲気としては中世ヨーロッパを思わせる。
目の前の景色が現実だということが飲み込めない。
周りの人達の僕に対する視線がやけに多い事に気づき、どうやら僕の着ている服に原因がある様だと続いて気付く。
僕の着ているのは高校指定の青に赤いラインが入った、正直言ってダサいとしか言わざるを得ないジャージだった。
ついでに左手には何故かスマートフォンを持っていて、誰かの電話番号を表示しながら、太陽の光を反射して輝いている。ただ、この世界でスマートフォンを持っている者は居なさそうだった。静かに電源を切った。
どうやら死亡当時の服装をそのまま再現しているらしい。スマートフォンもなんとなく握ったのだろう。
それにしても、この世界の雰囲気と合わなすぎる。どこかで新しい服を調達しないといけなさそうだ。
「とは言ってもなぁ…」
悲しすぎてついつい声に出してしまったが、お金がない。お金が無ければ衣食住のどれも確保できない。
そんな風にウンウンと唸っていると、不意に右手の路地から僕を呼ぶ声が聞こえた。
「
少年の声であった。
声のする方にいるのは紺色の罰印の描かれた布を顔に巻きつけた少年。少し驚きの声が出た。
「その反応を見ると、これは取った方が良さそうですね」
そう言うと、少年は布を取ろうとする。
「いや、別にいいよ。ちょっと驚いただけだから。」
「そうですか。では、このまま話させていただきます。」彼は名刺のようなものを差し出しながら続ける。「私はこの世界の案内係のピロフォリアと申します。困ったら私をお呼びください」
聞いていなかったが、どうやらゲームのチュートリアルみたいに案内人まで派遣しているらしい。とても異世界初心者に優しい。
「ちょうど良かったよ。この世界で日本円は使えるの?服を変えたいんだけど、お金が無くて困っているんだよ」
「よくある質問ですね」彼は右手の人差し指を立てる。「現在日本円を持っている場合は、私がこの世界の通貨に両替させていただきますので、ご安心を」
答え方がなんかのQ&Aコーナーみたいな奴だなと思った。
「そうか、それは良かった。ここに1,592円あるんだ」
「それなら、3,662レーボです。こちらでは一円が2.3レーボですから」
「助かったよ。ところでもう一ついいかな」
「はい、なんでもお聞き下さい」
正直、この世界で一人というのは心細い。慣れるまででも、自分を知っている人の側にいたいと思った。だから、
「しばらく、僕がこの世界に慣れるまででいい。一緒についてきてくれないかな?いや、無理だったら良いんだけど」
そう言ってしまった。
彼はしばらく考えると、手を差し出してきた。
「分かりました。サーシャさんがそうしろと言っているので」
サーシャって言うのはこの世界の管理人だったか。どうやら、この少年はそのサーシャと更新ができるらしい。
兎にも角にも、ピロフォリアが仲間になったというのはとても心強かった。
しかし、この服装のままではやはり目立つということで、ピロフォリアに聞いた近くの服屋で適当なものを選んだ。
元の学校のジャージよりはマシだろう、安いシャツとズボンを買った。シャツが1,010レーボで、ズボンが900レーボだった。残金1,752レーボ。
「しかし、人間は他国へ来ると性格が変わるというのは本当ですね」
と言い出したのはピロフォリアだ。そもそも元の世界の僕を知っているのか疑問に思ったが、神と交信できる力を持つ者だ。何ができてもおかしくはない。
「そんなに違うか、僕」
「だって、元の世界で他の人に話しかけられたとしたら、わざわざ話そうと思いましたか」
確かにそうかもしれない。元の世界でなら、たとえ年下であろうとも他の人に関わろうとはしなかった。
「まぁ、心の根は変わらないようですから安心しました。たまに居るんですよ、異国に来た途端に乱暴をしだす輩が」
彼の語調が少し強かったため、かつてそういう人から迷惑を掛けられたのだろう。
僕もそういう奴は嫌いだったが、関わろうとしなければスルーできただけ、幸せだったのかもしれない。彼は案内係だ。そうは行かなかったのだろう。
「俺はさ、この世界で何をすれば良いんだろう」
「流石にそこまでは案内出来ません。が、」
「が?」
「一つ言えることは、仲間が必要だという事です」
こういう世界で最初に仲間を探すのは一般的なものなのだろう。先日観たアニメでもそうだった。そうか、あのアニメの最終回は観れないのかと少し悲しくなった。
「それで、どこに行けば仲間を探せるんだ」
「この道の先に、集会所があります。そこで、冒険者ギルドへの加入をして下さい」
「戸籍とかそういうのはいらないのか」
「こちらでご用意してありますので、ご心配なく。とにかく、ギルドへ加入すれば二、三日で自動的に相性のいい冒険者がパーティへ加わるという仕組みになっているので、透さんは何もしなくていいわけです」
「そうか、近代的だな」
「そうかもしれませんね」
「冒険者ギルドがあったり、パーティがあったりするってことは、敵モンスターもいるわけか」
「それはご自分の目で確認して頂かないといけませんが、何か大きな脅威が無くては平和は保たれません」
彼の考え方はあまり好きでは無かったが、間違えではない。
「そうだ、この街はなんていう名前なんだ」
「王都ジーナスです。この世界で二番目に大きな街です」
「そんなにでかい街なのか。迷子になりそう」
そういうとピロフォリアは笑顔になり、言う。
「僕が付いているので安心してください」
こうして、鈍島透の異世界世界は幕を切った。
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