第2節【天使ト転生】
白い世界に赤いカーペットが連綿と続き、その両端に白い柱が等間隔に有る。
そこに居るという感覚だけがある世界。
VRゴーグルを付けてゲームをしているような、別の世界を覗いているような感覚。ただ、視線は動かせないし、手の感覚もない。さらに気付いた事は、身体が無いという事。
何故前に進めているのかは分からないが、何となく前に進まなければならない気がして、前を意識している。
時間の感覚は無く、その上いつまで経ってもゴールは見えない。そもそもゴールを知らない。
もしかして、後ろの方向にゴールがあったのではと考え始める。
後ろを向くと、今までは無かった壁がある。どこまでも白い壁。行き止まりを意味する壁。
仕方なく元向かっていた方向へと再び進み出す。
もう一週間くらい経っただろうか。時間の感覚がないから、もしかしたらまだ二十四時間くらいしか経ってないかも知れないし、逆に既に一ヶ月くらい経っているかもしれないが、とにかく長いこと前に進み続けた。
なぜか疲れというものは感じない。身体が無いからか。こっちの方が効率がいいのでは無いか?現実世界に導入すべきだ。
そこで、前に壁が出来た。
いつの間にか、気付かない内に、だ。
壁の中央に唯一光の反射が鈍いものがある。ドアだ。木製のドア、良くあるドア、見慣れたドア、隣に接した世界に行けるドア。
今までよりもスピードを上げ、ドアのところまで向かう。
この先に天国があろうと、地獄があろうと構わないから、とっとと死なせてくれ。そんな気持ちでドアノブを捻り、否、手は無いのでそう念じただけだが、とにかくドアは開き、中に入る。
少女が居た。
美少女が居た。
死ぬ前にこんな娘とお付き合いがしたかったなぁと思う。そんな美少女。
美少女の頭にはよく見る光る輪っかがあり、背にはよくそれで体を支えられるなというほど小さな白い羽が見える。
「あぁ、すみません。転移の設定を変えている途中で、予定にない方が来たものですから。遠い道のりを、ご苦労様でした」
「いえいえ、何も問題はありませんよ」と、口が無いので心で言う。
「あら、お優しいんですね」
どうやら心で念じた事が通じるようだ。
「そんなことありませんよ。怒るのが苦手なだけです」
「そうでしたか。――では、儀式を始めさせていただきます」
そう言うと、彼女は座っていた椅子から立ち上がり、虚空からバインダーのようなものを取り出した。それを開き、まず一言告げる。
「あなたは、死にました」
少しの驚愕と安堵を感じる。
そして天使は、僕の人生を、後悔を、怠惰を、羞恥を読み上げた。
「もう一度言います、あなたは死にました。ですから、あなたには、その後の世界で転生を待ってもらいます」
彼女は手元のバインダーから目線を上げると、僕の目があるはずの所をじっと見る。
「先程言ったように、一般的に見てあなたの生前の行いは、とても良いものでした」
確かに、良い人と呼ばれる存在を目指して、努力をしていた覚えがある。ただ、その記憶が本当にあった事なのか
「
知らないうちに僕は素晴らしい行いをしていたらしい。少女の顔も驚きの表情をしていた。「この人が」などと思っているのだろうか。嬉しいなぁ。サインでも頼まれるのだろうか。
「ですが、あなたは地獄へ行ってもらいます」
驚きの理由はそんな善人が、人として酷い死に方をしたからだった。
地獄へ行かされる理由、それは聞かずとも分かっていた。僕がした最初で最後の、とても悪い行い。
自業自得という言葉が頭に浮かぶ。
「自殺は、――いけませんよねぇ」
彼女の声音は、
「とにかく、まずは地獄へ行ってもらいます」
少女の奥に現れた鈍色の門が、その隙間から神々しい光を放ちながら開く。
いつの間にか僕の体が現れており、彼女に促されるままに門の向こうへ向かって歩く。
現実世界に対して地獄と表現した僕だ。本当の地獄はきっと現実世界ほど精神的に苦しみは味合わないだろう。
やっと楽になれる。
「その世界の管理人はサーシャというものです。少し癖が強いのお気をつけて」
その忠告に首を縦に振って応え、ついに門をくぐる。
そして息を飲んだ。
その先にあった世界は、地獄と思えないほど美しく、虹色に輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます