第6節【違和ト目的】
――何かがおかしい。
「ほんでトオル、これからどうするんだ」
グラディオのその質問がされたのは三十分前。昼食を済まし、一息ついていた頃。ついでに言うと、ダンジョン探索から二日後。
火の付いていない暖炉の前、コの字に置かれたソファの真ん中の部分に座って考えている振りをしてそれだけ経った。
いや、考えている振りではなくしっかり考えてはいる。ただ、それはこれからの事ではなく、これまでと“今”の事。
「はぁ、ダメね」
インチーナの呆れた声は
「トオルさん?」
ピロフォリアの呼びかけに反応がない事を確かめると、グラディオとインチーナは部屋から出て行った。ピロフォリアは晩飯の買い出しに商店街に行った様だ。
かくして鈍島透は広い部屋の中に独りとなる。
違和感の原因、それは先程まで周りにいた三人にある。誰かと仲良くする事、それは僕自身が嫌い、逃げてきた事だ。
確かに、必要最低限の他者との関わりはあった。この世界で生きる為に必要な事が仲間づくりという点では、誰かと関わっているというのは別におかしな点は無い。
ただ、それは何となくで出来た上部だけの関係でも良いはずなのだ。最悪、モンスターを倒す時だけ一緒にいればいい。
なのに何故、インチーナがツンデレである事を確認しようとした。何故、グラディオの過去を慰めた。何故、ピロフォリアが時々サーシャと交信することを気にする。
これでは家族の様ではないか。
目的を果たせれば良いだけの短い関係に、何を求めると言うのだ。
僕は独りを好んでいたのではないのか。
この気持ちは何だ。
解らない。分からない。ワカラナイ。
――自分が、分からない。
美味しそうな匂いで眼を覚ます。
いつの間にか眠っていた様で、ソファで横になっていた僕の上には毛布がかけられている。きっとピロフォリアだろう。
部屋の入り口に近いところに置いてあるテーブルの上には赤い鍋に入ったシチューが置いてある。
まだ少しグツグツと言っていて、白いクリームの中で煮込まれた少し焦げ目のついた肉が美味そうだ。
隣に置かれた名前の知らない野菜のサラダも彩り豊かで、手作りのドレッシングと共にその新鮮さを主張している。
作ったのはインチーナとピロフォリアだと言う。
インチーナの料理は美味しい。前にグラディオが聞いた時に、このパーティに入る前に一人暮らしをしていたからと言っていた。この世界で一人暮らしというワードは少々浮いている気もしたが、色々あるのだろう。
テーブルのお誕生日席に座る。一応パーティのリーダーなのだからと言われて最初に座ったら定位置となったのだ。
グラディオに教えてもらった食事前のお祈りをして、シチューを食べ出す。
口の中で肉の汁とクリームが交じり、見た目以上の美味しさを感じる。
「ほんでトオル、これからどうするんだ」
グラディオが昼と同じ質問をする。ダンジョン探索の際に僕が言った事だ。これからの事を決めよう、と。
「それについてなんだけど」とふと浮かんだ疑問をぶつける。「ギルドがパーティをいくつも作っている目的って何なの?国の警備とかだけで冒険者に防具代支給したりしないでしょ」
そんな事も知らないのという顔が三つ並ぶ。
「魔王のせいだ…」
グラディオが答える。
先日グラディオが言っていた、仲間を奪った敵、魔王。なんとなくそんな気はしていたが、やはりそう言う事だったのか。
パーティを増やし、数打ちゃ当たるの精神で魔王を倒しに行かせる。その為に大量の資金が出ていると言うのは分かりやすい。
そういえばと、パーティを組んだ日のことを思い出す。あの時グラディオは魔王討伐の話をしていた。まるでジョークの様に。あの頃はまだ仲間を失ったばかりの空元気ってやつだったのだろうと思うと、なんとなくモヤモヤした。
異世界転生モノのお約束、魔王を倒して世界に平和を。ありきたりな展開だ。
こっちに来た初日にピロフォリアが言ってた大きな脅威ってのも魔王のことなんだろう。
「――何か大きな脅威が無くては平和は保たれません」
思い出したその言葉に引っかかりを覚えるが、その理由は分からない。
とにかく魔王討伐が目標となるのなら、しなければならない事がある。
「じゃあ、まずは経験を積まないといけないのと、お金だね」
「そうね。今のままの装備じゃ魔王になんて勝てっこないし、技だって足りない」
と、インチーナ。
「よし、スライムでも狩るか」
と、グラディオが言うと全員が「それは辞めて」と口にした。
スライム狩りの後、インチーナの怒りが荒れ狂い、普段は冷静なピロフォリアが壊れかけていたのは別の話。
先日のダンジョン探索の報酬もかなりの額ではあったが、四人分の装備を揃えるとなるとまだ足りない。
そんなこんなで僕らの意見はまとまり、しばらくの間はスライム以外で雑魚敵討伐クエストを多数こなし、経験値とお金を稼ぐと言う事が方針として打ち出されたのだった。
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