第3節【目覚め】
異質さを持った人間は、恐れられ、排除される。ただ、その中でも美しさというものは例外らしく、多くの人に受け入れられることが多い。
「あの人は綺麗だ」「あの人は可愛い」といった感情は妬みにもなり得るが、多くの場合は憧れとなる。
目の前に眠る少女はまさにその、美しいを体現したような少女であった。
絹のようなその髪は光を反射し虹色に輝き、細い腕や足はすらりと長い。かと言って身長はそれほど高くはなく、鈍島透より少し低いくらい。
その容姿は、鈍島透の好みにもドンピシャであった。
まるで美術品を眺めるような目をした鈍島透の中に戸惑いが生まれていた。その原因、それは――。
「僕は…」
いつしか捨てたはずの、人を好きになる気持ちの再発を感じていた。
そういえば、人と関わることを辞めた僕がまず辞めたのが人を好きになる事だった。
それまで好きだった
――あぁ、そうか。
そう考えると、
周りの空気を読むことにいつしか疲れた僕は、周りの空気を読む事を辞めたんだ。
空気を読書と言う壁で遮断していた。
鈍色の世界を作り出していたのは、もしかしたら自分なのかもしれない。
「――んぁ」
虹色の髪の少女が起きる。
彼女が起き上がるのとともに、その髪は緩やかに下に落ちる。
「目を、覚ましたんだね」
声を掛ける。
今まで聞いたことのない程の速さの心臓の鼓動に、その音が漏れてないかと心配になる。そして目線は、自然と下を向く。
「ここは?」
「車借屋のおじさんが貸してくれたんだ。ほら、君が急に倒れたから」
「そっか、そうだよね」
彼女が手を握るのが見える。そんなに恥ずかしかったのか。じゃあ、僕は出て行ったほうがいいな。
「もう、大丈夫そうだね。僕は行くよ。仲間が待ってる」
そう言ってドアノブに手をかけた途端、彼女が呟いた。
「待って」
「…」
「ありがとう」
後ろを向かず、静かに部屋を出た。
今このまま仲間に会ったら馬鹿にされるだろうなぁ。
きっと僕の顔は真っ赤に染まっている。
それは僕に向けられた初めての、感謝の言葉だった。
車借屋のおじさんに礼を言い、馬車を借りて街を出た。魔物から助けてくれたからと言って、少し安くしてくれた。
もちろん、魔物を倒したのは僕ではなくあの虹色の髪の少女であるため、断りはしたのだが、最終的にこうなってしまった。
まぁ、倒そうとしたことは確かだから良いのだろう。
当初の予定よりかなり安く借りることのできたこの馬車は、それなりに上等な作りのようで、揺れをあまり感じない。
本当は物凄く高い馬車なんじゃないかと少し怖くなった。
これも
「あ」
「どうしたんですか」御者台のピロフォリアが尋ねる。
「いや、なんでもないよ」
そういえば、彼女の名前を聞いていなかったなと思い出す。ただ、僕は旅をしている身だ。もう一度会う保証もない。別に良いかと少し笑う。
本当に静かな夜だった。
仲間達の寝息と馬車の走る小さな音だけが聞こえ、窓の外には満点の星空が広がっている。
今初めて気付いたが、昼間の幻想的な空と違って夜は普通だ。
星の配置は結構違う様だが、ぱっと見現世と変わりない。
だからこそなのか、少しの安心があった。
星空を駆ける馬車に涼やかな風が吹き抜ける。コトコトという音が心地よい。
僕は眠気に誘われ、ピロフォリアに断ってから、周りの仲間とともに眠りについた。
――夢の中で、自分自身を見た。
あの時の続き。
薬を飲んでも死んでいない僕が、今まで通り鈍色の生活を送る夢。
かつて好きだった娘にも軽蔑の目で見られ、避けられる夢。
違うんだよ、もっとこうやれよと突っ込みを入れたくなる様な、苛々とする夢。
妙にリアルで、目が覚めた後も頭から離れなかった。
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