第3章〜4人の冒険者@天色の世界〜

第1節【不安定な胸中、不気味な影】

「もう歩けな〜い!」インチーナが大声を上げ、叫ぶ。「何で王都で馬車を借りなかったのかしら!」

 太陽が真上に登っている草原の中、僕らは昼食をとるために木陰に座り、食べ終わったところだ。

「そんなこと言ったって、今更だろ。何だったら戻るか」とインチーナの叫びに対してグラディオが言い、「今から戻るとなると、再び二日間歩くことになりますが」とピロフォリアが無意識の意地悪を言う。

「もう知らないっ」

 結果、インチーナが拗ねてしまった。

 こうなると面倒くさい。インチーナが拗ねると、僕ら男性陣は何も出来る事がない。

「じゃあ、置いていっても大丈夫だね」

 本当は言いたく無かったが、こうでも言わないと全く動いてくれないのだ。

「しょうがないわね、付いて行くわよ」

 不貞腐れた様子ではあるが、渋々承知してくれたようであった。

 王都を出てから丸二日が経った。

 ここまでの道のりには、王都警備隊の活躍のおかげで上級の魔物は居ないため、淡々と低級・中級の魔物を倒すというような日々であった。

 パーティ内の会話も雑談程度のもので、だんだんとこの冒険に飽きを生むようになって来た。

 出来るだけお金を節約したいと無理を言って、馬車を借りるのを王都から一番近い町にし、そこまでは徒歩で向かうことにしていたのだが、早速インチーナが文句を言いだしてしまう始末。

 活動資金は十分に有ったが、この先何が起こるかわからない。

 王都で馬車を借りると、良い馬が当たる確率は高いが、普通の車借よりも高いと聞いたため、それならばと町で借りる事を提案したのだ。

 ピロフォリアによるとその町には今日の晩には着くようだし、最悪はインチーナを引きずっていこう。

 そう言うと、インチーナはしっかりと立ち、「しょうがないわ。さあ、行くわよ!」と歩き出した。

「はーい」と三人は答えると、荷物を片付けてインチーナの後について行った。

「これで今日の夜ご飯が不味かったら、もう着いて行かないからね」とインチーナ。

「それは困る、これでもお前はこのパーティの唯一の花だからな」

「そうですね、戦力としてもとても助かってますし」

 そんな風にグラディオとピロフォリアが褒めると、インチーナは少し頬を赤らめ早足になる。

「そ、それならしょうがないわね。魔王を倒すまでだからね」

「あれ、照れてる?」と僕はからかう。

「そんなわけ無いじゃなひっ」

「痛い、痛い」

 インチーナの強いパンチを喰らった。

 ガッハッハとグラディオも大声で笑っている。

 こんな穏やかな会話の中でも、僕は考えてしまう。

 果たして僕は本当にやりたくない事をやらされているのか、と。

 王都出発を提案した際に、僕がリーダーとして先頭に立つ事を強いられているからと自分を納得させたはずなのに、ウジウジ考えてしまう。僕の悪い癖だった。

 今ここで生きている事を悪く感じていない、それは確かだ。ただ、もう一度現世に戻りたいとも思わない。

 あの世界は前言ったように地獄だ。

 僕への無関心を超え、最早敵とでも捉えられているかのような空間。

 僕が異物であったために成り立っていたであろうあの教室は、恐らく僕が消えてもボロ谷がいれば成り立つ。

 どうせ僕は居ても居なくても同じだった。

 この世界にいても救われないと、生きるやる気を無くして自殺する様なやつは居なけりゃ良いと自分でも思う。

 この世界で、僕は初めて僕を必要としてくれている人に出会った。

 それが僕で無くても変わらないだろう事は分かっているが、嬉しかった。

 この世界ならば、彼らとならば、僕は生きて行けると思った。

 この二日間でした、いっそのこと魔王だって倒せなくて良いとも考える様になった。

 このままこの関係を維持して、ずっと一緒に居たいと思った。

 僕にとっては、魔王を倒すと言う目標自体が必要だった。




「あれが新しい冒険者ね」

 黒いフードを深く被ったマント姿の女が岩陰に隠れ、鈍島透を観察している。

「ふぅん、普通って顔をしているわね。ブサイクでもなければ、イケメンでもない。まさに普通」

 口調はどうでも良いような感じではあるが、その口角は上がっている。フードでは隠し切れないその可憐な微笑みは多くの者を魅了するであろう。

「まぁ、良いわ。あなたも…」

 そう残し、彼女は光とともに転移魔法で消えて行った。

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