4 現在 2
あの事件以来、我が家はすっかり様変わりをした。我が家とは家と言う意味ではなく家族はという意味だ。
帰宅してカバンを自室に置き、暗闇の中を居間目指して手探りで進む中私はそんなことを考える。
仕事をしているときはまだましだ。他人の目があり、することがあれば、それに集中できる。しかし、人間いつでもどこでも気を張って生活しているわけではない。
ぼーっとしているときもある。そのときにいつも考える、事件が起きる前の日いやその朝に戻り姉に警告しておけば、我が家の全員が全然違う人生が待っていたのではないかと。
私が居間に到達し明かりをつけるとテーブルの上には、母の作ったラップのかかった冷めた夕食が置かれていた。白いごはんは炊飯器の中だが保温はされていない。
母親の”電気消し病”はかなり深刻だ。電気を消すと脳内快楽物質が出るらしい。
しかし、これはあの事件が起きてからの変化ではない。私が物心ついた時からそうだった。
こういったことに無頓着な姉は母とよく口論になっていた。
今となっては良い思い出だ。
どす、どす、と階段の方で音がする。
母だ。
どうやら、私が帰宅したことで寝入りっぱなの母親を起こしたらしい。
悪いとは思うがこればかりはしょうがない。
あの事件以来、母はめっきり老けた。というか自分の大きな勢力を事件の方に向けた結果いろんなことを諦めていっていると言っても良い。見た目、自己実現、家事、自分が楽しむこと、何かわからないが生きる上で最も重要なこと。心療内科にもかかっている。
奪われたのは家族だが、母の心の中の大きな物がぽっかり失われた気がする。
一瞬だが居間で立ちすくむ私とトイレに行こうとする母とが向かい合う形になる。
今の母はまるで、白髪の幽鬼だ。
母は、無言でトイレの電気を付け入っていく。
なんと声をかければいい。
わからない。
どうすればいい。
わからない。
家族を失ったのは私も同じなのだ。犯罪被害者の会のパンフレットにはなんと書いてあったのか覚えていない。思い出したくもない。もうあれから五年だ。たった五年か?。
しかし、よくよく考えれば当然かもしれない。
4人居た家族をその半分、2人失ったのだから。
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