世に蔓延るチートどもを、鋼鉄の猛虎で叩いて砕く!

 チート勇者と称する侵略者に魔物たちが壊滅させられた異世界を舞台に、そのチート勇者のチートに勝るとも劣らない力を持つ少年が、魔物を統べる姫と共に、西の果てにあるという、でっちあげられた理想郷へと向かう物語です。

 少年・テツオが持つ力とは、第二次大戦中に実在したケーニヒスティーガー戦車。

 しかしチートだと感じられないのは、剣も魔法も、如何なるスキルも効かない鋼鉄の装甲を持っていながらも、それが「無敵である」などと明記されておらず、またこのケーニヒスティーガーは、確かに第二次大戦中の最強戦車という説もあるのですが、その鈍足振りはヒトラーを失望させ、現代の戦車には何の影響も与えなかったとまでいわれている事を、私が知っているからでしょうか。

 それがずっと私の中で尾を引いていきます。テツオとケーニヒスティーガーを追うチート勇者の追撃に、いずれ装甲を突破され、砲撃を防がれる未来が来るのでは…と思わされます。

 でもそうなったとしても、テツオとケーニヒスティーガーは共にあると確信させられるのは、ケーニヒスティーガーが強力無比であると描写されていない代わりに、テツオのケーニヒスティーガーに対する思いが描かれている事に感じます。

 電撃戦では役に立たずにヒトラーを失望させ、戦況を覆すような活躍はなかった戦車だけれど、その格好良さを誰より知っているテツオは、どんな事になっても共にあり、見捨てない事を確信させます。

 この思い入れこそが、チート勇者との違いだと私は思います。

 チート勇者にとっての剣や魔法、スキルに懐いている想いは「強力である」ただ一点のように感じます。ケーニヒスティーガーを破壊できるスキルが現れれば、きっと今まで使っていたものを投げ捨てるのではないか、と。

 逆にテツオは、レオパルト2やセンチュリオンといった現代の戦車が手に入るとしても、ケーニヒスティーガーを捨てるようなシーンは想像からできません。

 このアンチテーゼ、兎に角、痛快です!

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