第7話 曙




「我が子と思うのは唯一人。

 我が妻と想うのも唯一人。


 子は育ち、我は老いた。

 妻の元へ旅立とうと思う。

 薄紅の花が散りはじめたら」






 どれほど老いて枯れ果てても、犯した罪が消えることはないのです。


 ここには、あなたが堕ちて来るのを待つ女ばかり。


 誰もが消せぬ想いに身を焦がし、ゆるすまじと手を伸ばして待ち構えています。



 我が身の半分もまた、女たちに混じって血眼となって手を伸ばしております。



 しかしながら。

 もしも、桜の木に戻されたもう半分があなたを救ってくれたなら……この想いは成就するのではないかと淡い予感がありました。



 あなたは満開の桜を見上げ、紅く染まった花びらが散る中で刃を振るいます。


 根本に血を吸わせて冷たくなっていくあなたから、光の玉が抜け出てきました。


 花群れから必死に伸ばした手でその光を包み込むと、地獄の女どもは泣き叫び、怒りに打ち震え、仲間であったはずの我が身の半分につかみかかって八つ裂きにしてしまいました。




 それからどれほどの時が過ぎたのか━されど、ほんの一瞬の間であったのかもしれませぬ。


 気がつけば、我が身は若く美しいあなたを抱いて天へと昇っておりました。



 遥か下に目を凝らせば、もう花を咲かせることのない枯れた桜の木の下に、老人の屍が転がっているのが見えます。



 もしも来世というものがあるのなら、人でも桜でも構いませぬから、あなたと同じものに生まれたい――そう願うばかりでございます。



(完)



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見上げれば薄紅の花時雨、我が想い人の血を吸いて咲く 奈古七映 @kuroya-niya

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