第3話 宵




「あれほど心地よい肌の女はいなかった。

 消え入るように切なく喘ぐ声がたまらなかった。

 睦み合うごとに愛しさが増す。

 この恋こそ運命であったのだと思った」






 さらわれるように連れて行かれたのは、あなたの住まう屋敷の奥の奥でありました。


 はたで見ているだけでも心揺らすあなたの寵愛を、我が身で受けることになろうとは。


 女どもの嫉妬と怨念は、それはそれは凄まじいものでした。


 どす黒く渦巻くその炎に炙られても、あなたのもたらす悦楽の炎の熱には遠く、この身を焦がすには至りませぬ。


 ただ、いつかこの手は触れることを止め、新たな女へと差し伸べられるのであろうと思うと、我が身の熱が冷め、たちまち凍えていくような心持ちになるのでした。


 いっそ、おびえて待つよりは……胎内であなたの子をはぐくみながら、ひたすらそのことばかり考えておりました。




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