第4話 小夜




「玉のような男児。

 我が子は初めてではないが、手元で慈しみたい子は初めてだった。

 愛しそうに子を抱き乳を与える女を見るのが、新たな楽しみとなった」






 あなたの子は愛らしく、我が身から生まれたことが信じられぬほどの命のみなぎりを感じました。


 幸いに乳の出が豊かでしたので、乳母が入り用になることはなく、あなたに見守られながら子に乳を与える幸せは言葉に尽くせぬほどでした。


 もしやこのまま幸せが続くのではと、そのように思いはじめた頃。


 あなたが子守の娘を連れて来ました。


 年は十二か三と聞きましたが、咲きそめた花のような、思わず手折りたくなるような風情の見目好みめよい娘です。


 子は歩きまわるようになると乳を離れ、子守の娘によくなついて外へ遊びに連れ出されるようになりました。


 あなたは子の離れた我が身を抱き寄せ、愛しく思うと睦言むつごとを口にしましたが、あまりに多くの戯れを見てきたために、信じるどころか疑いの心ばかりが育ち、あなたが去る夢ばかりみて枕を濡らすのでした。


 桜の花はいよいよ白く、それを見るにつけ、我が身が子を孕むことはもう出来ぬのだと悟りました。




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