第7話 カラオケへのお誘い
色々あったけど、とりあえず俺っ娘にもならずに済んで、無事マネージャーになってから、1週間が経ったわ。
麗先輩からは、色々な気の配り方を教わった。
部員の水筒やタオルの覚え方、それらを出すタイミング、どんなに汗臭くても嫌な顔はしないこと、などなど、基本的なことは一通り教わって、私のマネージャーとしての仕事も、一通り板についてきた気がする。
涼とは、部で、そしてクラスで、少しずつ仲良くなっていった。
スポーツイケメンらしい爽やかな笑顔は、いつ見てもいいものだわ。でも、恋愛対象として彼を狙っているはずなのに、中々好きにはなり切れない自分がいることにも気付くの。
どうしたものかしら、と朝の教室で物思いにふけっていると。
「おはよう、夢子」
いつもの通り、涼は、私に挨拶してくれる。
「おはよう、涼」
私も、それに対して、笑顔で返す。
「今日はあいにくの雨で、朝練ができなくてつらいよ」
「朝練と言っても、今はまだ基礎トレが中心だから、その気になれば体育館を使ってやることもできそうなものなのにね」
「そうしたくても、野球部はなかなか体育館を使えないみたいなんだ。バレーボール部やバスケ部のような、屋内スポーツ部が大抵使っているからね。この前、顧問の先生の一人が、そう言ってた」
ここは、少し明るい話題に切り替えたほうが良さそうかも。やっぱり、定番はテレビの話よね。
「そうなんだ。ところで、昨日の『コメディー・キング』、見た?面白かったよね。特に、ビーフ・ポークの漫才は最高だったわ」
「お、ビーフ・ポークか。いいよね。俺も、好きだな。あの人たちのお笑いは、学園ネタが多いから、つい共感できて、笑った後にどこか心が温かくなるんだ」
「わかるわ」
「『女子マネージャーからの手紙を受け取った野球部員』が、名前が書かれていないせいで自分宛てだと思わなくて、それで部長にもっていって、そのまた部長が勘違いして『付き合おうぜ』、って言ってきたのに対して、女子マネージャー役の相方が、『何言ってんの?』と冷たく返しながら、『どこまで天然なのよ、あいつ。そんなところも好きなんだけど』と独り言ちた場面は最高だった。
抱腹絶倒、なんて大げさな四字熟語だなと思っていたのに、気付いたら文字通りそんな状態になってたから、驚きだよね」
「うんうん」
話が合って、楽しそうな表情に変わってくれて、良かった。
「ところでさ、今度健と一緒にカラオケに行く予定なんだけどさ…」
そこで、ふと涼は言い淀む。
健と言えば、隣のクラスの野球部員ね。早速涼と仲良くなっていたのが、印象的だったわ。
涼がちょっと言いづらそうなので、私は促す。
「うん、けど?」
「その、良かったら…、夢子と、あともう一人女の子も誘って、四人で行きたいな、って思ってね」
涼は、少し赤くなっているように見える。
「なるほど」
私がそう言うと、涼は、あわてて付け加える。
「健のやつが女好きで、やっぱ男女1対1の方が盛り上がるから、とか言い出してさ。だから、良かったら、一緒に来てくれるかい?」
とってつけたような口実なので、本当は涼が私を誘いたかったんだな、と察する。それ自体は嬉しいことなので、私は言う。
「私は構わないわ」
涼の顔が、パアッと明るくなる。
「やった!それで、あと一人は、どうしようかな?」
「そうね…。花に声をかけてみるわ。後で、ラインのグループ作っておくから」
「了解」
何というのか、分かりやすいのね。それはそれで、いいところだとは思うけど。
「あ、それと、俺、女の子と一緒に遊びに行くのは、その、初めてだから…。粗相しても、大目に見てくれよな?」
ためらいがちに言いながら、結局は爽やかな笑みを浮かべる涼。
うん、いいわね。それなのに、私の胸がトクンともキュンとも言わないのが不思議だわ。
「私はいいけど、花がネタにするかも」
「ああ、確かに、そんな気がする。やべえな、何かあったら、後で健のやつとっちめるわ。あいつが女の子を誘った結果だからな」
「花ではなく?」
「あの子は、とっちめようとしても返り討ちにある気しかしないからな」
それは、確かにそうかも。
あの子は、他の人をからかったりいじったりするのが得意だからね。
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