第13話 それぞれの反応
涼からの告白を聞いても、物足りないには物足りない。だが、せっかく付き合おうと言っている相手を、断る気にはどうもなれなかった。
大物ルーキーでイケメンとなれば、部のマネージャーである私とは、恋愛小説や少女漫画に言わせれば釣り合うだろう。
それに、付き合ってみなければ分からないこともあるかもしれない。
いつの間にか脇から差し出されたメガホンを手に取って、私は答える。
「いいわよ、涼!お付き合いさせていただくわ!これからもよろしくね!」
涼は、飛び切りの笑顔を浮かべて、言う。
「おう、任せとけよ、夢子!」
こうして、私達の付き合いがいよいよ始まったのであった。
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試合に勝ったので、約束通り告白したら、OKが出るには出た。
だが、どうも夢子は俺のことをそこまで想ってはいないのではないかと不安になる。
俺の中では、朝から夜まで、野球のことを除けば、お前のことしか考えられなくなっているというのに。
野球については、勝てるところまでは行きたいと思うが、正直甲子園などを狙おうとまでは思っていない。
高校野球に青春の全てを捧げたければ、俺は、推薦入試への打診が来ていたいくつかの強豪私立校に入ることもできただろう。
だが、俺は、野球を一部としつつも、あくまでも高校生として過ごせる学校生活を楽しみたいと思って、バランスの取れた共学であるこの公立高校に入ることを選んだ。
その高校入学初日に、俺の心を一瞬で奪ってしまったのが、あの夢子だったのだ。
授業中に時折見せる、まるで何かを夢見ているような姿。カラオケにおける思わぬ波長の合致。
そして、懸命にマネージャーとして、自分自身汗をかきながら、俺たちへタオルを差し出してくれる姿。
夢子の一挙一動は、俺の心に着実に染み込んでいった。
俺っ娘で部長と付き合っている麗先輩も、あの口調と見た目のギャップが可愛いといえば可愛いが、夢子は、それこそ少年スポーツ漫画に出てきそうな、王道、正統派の可愛らしいマネージャーであった。
夢子のために、勝てるところまで勝ちたい。
俺が何とか野球のことを考えていられる理由は、その一言に尽きる。
結局のところ、俺が考えているのは、夢子、お前のことだけなのだ。
それなのに、どうしてお前は、受け入れてくれはしても、お前自身が感じてくれるそぶりを見せてはくれないのだろうか?
ああ、付き合えることになったというのに、まだ何かが足りない気がする。
俺の、何が足りないのだろうか?
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「ふーん、やるじゃないの」
今から既にせっせと予備校通いしている彼氏との昼間のデートの都合がつかなかったから、暇つぶしに試合を見に来たあたしは、涼の夢子への告白を聞いて、ふとつぶやく。
夢見る夢子ちゃんなのに、夢を見続けた結果だろうか、涼という、野球部のイケメンルーキーの心を掴むことができた夢子。
あたしには彼女が求めている「真実の愛」とやらにたどり着くことなど、できそうに思えない。
だから、あたしと同じように楽しければいいと思う彼氏と付き合っている。
あいつと一緒にいると、なかなか楽しいものなので、おおむね満足している。
その意味では、夢子のことを別にうらやましいとは思わなかった。
今日も、夕方からのデートの予定は入れているしね。
「でも…、夢子は、まだ何か夢を見ているような顔なのね。今の状況でも十分すごいと思うのに、この上更に何を望んでいるのだろう?」
今の状況を見てもなお物足りなそうな夢子を見て、私はまたもや独りごちる。
あるいは、展開が早すぎて、まだ実感がわいていないのかもしれない。付き合いが進めば、もう少し彼女も満たされるかもしれない。
とりあえず今は、クラスで話すいいネタを直接見られただけでも良しとした方がいいのかしらね。
今後のあんたたちの展開は、ゆっくり楽しませてもらうとするわ。
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「今日から涼と付き合うことになったわ」
「マジか。おめでとう」
「ありがと 笑」
喜びを表す絵文字と共に送られてきたラインメッセージに、幼馴染として言うべきことを返信すると、簡潔な礼が帰ってきた。
喜びが溢れて、画面の向こう側で本当に笑いがこぼれたのか、社交辞令の「笑」を付けただけなのかは、正直僕には分からない。
だが、11年間秘かに想い続けてきた夢子が、遂に彼氏を作ってしまったのだと思うと、ふと寂しくなった。
別にそのことで僕と彼女の関係が変化するわけではない。
だが、寂しくて、僕自身は、文面とは裏腹に祝う気にはなれなかった。
僕から見ると、彼女は、夢のような恋愛を追うあまり、何かを見失っているような気がしてならなかった。
イカロスのように高く飛び過ぎて、やがて落ちてしまうようなことが、なければいいけど。
ダメだな。なんか、寂しいや。頭がこんがらがってきた。
ああ、幸せになれよと言えるほど、僕はまだ大人じゃないんだなあ…。
僕は、頭と胸がいっぱいになって、寝転がったままスマホを机の上において電源を切ると、そっと枕に顔をうずめた。
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