第13話 試合終了、新歓と帰路のこと
美しいだけのアヤは、油断さえしなければ、私の敵ではなかった。
あまりにも模範的である分、隙も分かりやすい。中高の部活の試合で戦ってきた人たちよりも球速やフォームでは優れているのに、却って戦いやすかった。
サトル先輩のサポートもしっかりしていたため、私達は、着実にリードを広げていった。
アヤの表情を見ると、いよいよ余裕がなくなっている。
そして、最後の球をアヤが打ち損ねる。
「ゲームセット」
決着がついた。
「やったな!ミカ、君は、テニスもしっかりできるんだね。すごいなあ。今までで、一番ペアとしてプレイしやすかったよ」
はしゃぐサトル先輩は、ちょっと可愛らしいが、そんなところもまたカッコいい。
というか、今、私が一番だって言ってくれたよね?サラッと言われ過ぎて一瞬気付かずにスルーしそうだったけど。
「ありがとうございます。そう言って頂けると、嬉しいです」
言いながら、自分でもよく分かる。今、私は赤面している。
そこへ、アヤがやってくる。
「今日は、なかなか楽しかったですわ。この国で試合に負けたのは、いつ以来でしょう。いい経験にさせていただきましたわ、ミカちゃん。
でも、次は必ず勝ちますからね。あんな泥臭い球は、紳士淑女の嗜みではありませんから」
そう言っているアヤの瞳には、暗い炎が宿っている。どうやら、曲がりなりにも勝負欲に火が付いたらしい。
次は、少しは私も苦戦するかもしれないわね。
そんなことを思っていると、もう一つのコートで行われていた試合も終わったらしく、人が集まってきた。
大方のメンバーが集まったところで、サトル先輩が言った。
「今日はお疲れ様。
新歓コンパの予定だが、みんなのグーグルフォームへの記入結果をもとに、来週の水曜に行おうと思う。詳しい集合場所や時間等は、追ってライングループに流すから、よろしくな」
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他のメンバーより遅い5コマ目の終了後に活動開始した分、サークル活動の1日目は、割とあっさりと終わってしまった。
サトル先輩と少しだけ距離が縮まった一方で、強力なライバルがいることもはっきりした。
この方面では、まだまだやるべきこと、やれることは多そうだな、と考えつつ、私は帰りの電車に乗り込んだ。
結構遅い時間帯であるにも拘らず、学生が多く乗っていて、意外と息苦しい。
ふと視線を感じたので、見たら、そちらにはタケル君がいた。
また何やら一人でもごもご言っているけど、幸いここは人の壁で阻まれているから、見なかったことにするわ。
それにしても、今日は一日、充実していたものだった。
明日以降も楽しみだな。
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この時間帯の電車に、偶然乗り合わせた彼女を見てしまった。
俺の頭の隅っこに引っ込んでいた虫が、うずき始めた。
何とかして、歌を捧げないと。
だが、目の前の人の壁、電車の揺れ、そして走行音が、俺の思考をまとめ上げるのを阻む。
「ああ、どうしたらよいのだ…。今日こそ恋文を捧げて、ちょうどいい時間だから、いい飲み屋にでもご一緒したいところなのに…」
成人年齢の引き下げに合わせつつ、高校などに配慮した形で、俺らが19歳になる年度からの飲酒・喫煙が解禁された今の日本では、飲み会での飲酒が黙認されてきたとはいえ、やはり違法だった昔の大学1・2年生とは異なり、堂々と飲むことができる。
だからこそ俺は、和歌を捧げた後、二人の時間を過ごせる場についても、この頃はいろいろと調べているのだ。
この電車が向かっている渋谷の街にも、色々と面白いところはある。
加えて、渋谷から山手線に乗ってしまえば、新宿、池袋、恵比寿、上野、東京、有楽町、更には穴場として原宿と秋葉原など、いくつものデートを想定できる遊び場が見つかる。
だからこそ、今日こそは、彼女にまず一首捧げなければ…。
と思っていたら、目が合った。
「チャンスか?…ああ、何故思い浮かばないのだ?」
呟いているうちに、彼女は、何事もなかったかのように視線を外してしまった。
ああ、今日もお前は、俺から逃げてしまうのか?
迫りたくても、人の壁が許さないこの状況。逆転は、絶望的だった。
人混みの 流れにたとえ 裂かれても 我らも末に 逢わんとぞ思う
本歌取り臭いけど、やっぱりまだまだ出来は微妙だと思う。
いつか聞いてもらえると信じて、研鑽しなければ。
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