KOMABA物語
如空
第1話 駒場大学初登校
「さあ、晴れて今日は駒場大学の登校初日、天下のコマ大生としての初日だわ!ああ、なんて素晴らしいことでしょう。重度の花粉症の私でも、春の空気がすがすがしく感じられるわ!」
入試以来、初めて通る駒場の門の前で、私は期待に胸を膨らませて、はしゃいでいた。
「ミカはいつも通りのテンションね。私は、大体入りたいサークルが決まっているから、煩わしいったらありゃしないわ」
傍らでそう語るのは、私の高校時代からの友達のリサ。
小柄で可愛らしい天然パーマのいい子なんだけど、時々ちょっと冷めた目をしたり、思わぬところで熱を挙げたりする、ちょっと不思議なところもある子よ。
「煩わしい?カッコいい先輩見つけて、大学デビューするいいチャンスじゃないの」
「いい?あなたも知ってるでしょ?私達女子学生は、スクラム組んだアメフト部員に囲まれたりする男子ほどしつこくは狙われないものの、それでも運動系のサークルからはかなり長々と勧誘されるんだから。その話は、先輩から散々聞かされているでしょ?」
「それは知っているわ。でも、それだって面白いじゃないの。こんなにちやほやされるのなんて、今しかないだろうしさ。だから、楽しもうよ、リサ」
私は、乗り気でないリサの前で、笑ってみる。
せっかくの大学デビューだもの、楽しく行きたいの。
「はあ、しょうがないわねえ。私は、このサークル勧誘オリをうまく切り抜けなければいけないのよ。この後デートもあるのに」
「あ、理三に行ったショウ君だっけ?いいよね、余裕がある子たちは、天下のコマ大専門進学塾の『グリーンスチール』を受験勉強じゃなくて、恋愛の場にしちゃってるんだから」
「まあ、私達は文三だし、ショウは天才だからね。学内では高校から入ってきたぽっと出にちょっと押し負けてたみたいだけど、それでもあの学校の学年トップクラスだったことには変わりないし、理三も余裕というところよ」
駒場大学は独特の教育システムを採用している。
前期は文科系・理科系各三類に分けられ、それぞれの科類には、おおよその学部との対応性があるのだが、最初の二年間で希望が変わった場合は、別の学部に進学することも選べるの。
この正式名称は進学選択なんだけど、昔の正式名称が進学振り分けだった名残で、未だに学生たちは、「進振り」って呼んでいる。
この進振りでの対応学部は、文科三類、つまり文三なら文学部か後期教養学部で、理科三類、通称理三なら、医学部医学科なの。
理三だけ、対応する進学先がやけに具体的で、かつ人数も100人と、他の科類に比べて圧倒的に少ないため、この科類は、名実ともに日本最難関だと言われている。
実際は理科一・二類の子も結構な数が理三の合格ボーダーラインを越えていて、上位にはそんなに差はないんだけど、下位のすそ野が理三は極端に絞られていることで知られているわ。
リサの彼氏、ショウ君は、その理三ですら軽々と受かるだけの実力があったって訳。
「それはそうね。ショウ君は日本トップクラスの男子校のトップだったわけだから。
でも、その話を聞いて、あの辺で鼻血吹き出して真っ白に燃え尽きてる男子学生がいるから、そろそろやめた方がいいんじゃないかしら」
私達が所属していたのは、争う余地なく日本一の女子高だったから、別にショウ君のような子の存在を聞いても何とも思わない。
だけど、地方から出てくる子、特に公立出身の子は、自分だけが苦学して、やっとのことで高校でたった一人の東大合格者になったんだ、という自負がすごく強いから、楽々受かる人たちがいるという話を聞くと、すぐああなってしまいがちらしいの。
まあ、私も先輩から聞いただけで、実際に見たのは初めてだけどね。都市伝説だと思ってたわ。
でも、これでよく分かったことがあるわ。公立組からは、私達は現実世界の人間であるにも拘らず、チート保有者扱いされているらしいわね。
リサと違って「グリーンスチール」にも通っていない私なんて、恋愛一つまともにしたことがない、青春とは無縁のおっさん化した生徒ばかりの女子校で、非リア、サブカル漬けの6年間を過ごしてきたのに、ね。
あ、脱線が多くなり過ぎたわね。
そうそう、私がこれから話そうとしていたのは、私が愛することになる男の話。
大学デビュー、青春の話なのよ。
それなのに、こんなに大量の前提情報を詰め込んで語るなんて、どうも私も、典型的なコマ大脳の持ち主、隠れ「イカコマ」のようね。
これじゃあ恋愛にはならない。さっさと次に進みましょ。
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