第10話 ライバルは四谷大学FLAの美女
午後の講義は、特に書いて面白いというほどのものでもなかった。まだ履修選択期間だし、来週は選び直して別のところに行こうかしら。
それはさておき、これから、いよいよ初めてのサークル活動である。
一日分五コマ全て入れた結果、もう夕方の六時になってしまったけど、それでもまだまだこれから活動すればいい。
そう思って、テニスコートにいるはずのサトル先輩を探しに行ったのだが…。
「ねえ、サトル君、今度、二人でカラオケでも行きません?」
「構わないけど、今は新歓もあるし、学期初めでカリキュラムを考えるのにも忙しいし、結構先になるんじゃないかな」
「それでも、わたくしはいいですわ。待てますから」
「アヤは辛抱強いんだね」
「あんまり待たせないで下さいよ。待つ身の辛さに、わたくしの顔に小じわでもできちゃったら、あなたはどうしてくれるんですか?」
「それはそれで、アヤの大人っぽい魅力の新しい一ページになると思うよ」
「言ってくれるじゃありませんか」
「まあな」
「うふふ」
「あはは」
何アイツ。
いかにもお嬢様な感じの気取った口調で、サトル先輩に言い寄っている。
派手な化粧が美しいが、あんなんじゃ、実際の素顔はどんなものだか、分かったものじゃないわね。
とりあえず、私も入るか。
「お待たせしました、サトル先輩!」
「ああ、ミカか。
アヤ、紹介するね。こちらは、今年入ってくれる新入メンバーの一人、ミカだ。
ミカ、こちらは、俺の同期メンバーのアヤ。
二人とも、仲良くしてな」
サトル先輩、そんな爽やかな笑顔を浮かべても、同じ男を狙う女子のドロドロとした炎には油を注ぐだけですよ。
でも、いいわ…。
と思いに浸ることを許さずに、アヤ先輩は、私を見て、言う。
「四谷大学Faculty of Liberal Arts二年の、アヤですわ。
サトル君とは、小学校で一時期一緒だった時以来のお友達ですの。
これからよろしくお願いしますわ、ミカちゃん」
「ファ…?」
「Faculty of Liberal Arts、日本語では、国際教養学部というみたいね」
何コイツ。
無駄に発音のいいアメリカン・イングリッシュを使ってきて、超ムカつくんですけど?
というか、小学校の時からの友人って、これは、圧倒的なスペックを誇る美人ライバル登場ってやつかしら?
ああ、本命はどうなるか分からず、訳の分からないイカコマどもには寄り付かれ、私の大学デビューは、これからどうなってしまうのだろう?
思考が渦を巻いているが、だんまりでは私もコミュ障なイカコマになってしまうので、とりあえず、アヤ…先輩に返事する。
「駒場大学文科三類1年の、ミカと申します。これから、色々ご指導、よろしくお願いします」
「色々は知りませんけど、確かに、あなたには、これからもう少しお色気も必要かもしれませんわね。
テニスの合間に、余力がありましたら、わたくしからあなたに教えても構いませんよ。
と言っても、わたくしは何もしませんので、あなたがわたくしの技術を見て盗む必要があるのですけれども」
すごくムカつく。
色々の中に恋愛方面の意味を込めたのを察知して、色気がないと返し、しかも教えるけど何もしないと言ってのける。
確かに私はまだまだ垢抜けてはいないことぐらいは知ってるけど、いくらおしゃれな子が多い四谷大学の学生だとしても、あんまり派手に化粧しているから、アヤのすっぴんがどこまで綺麗かなんて、分かったもんじゃない。
私の持つこの流れるような黒髪は、明らかにパーマがかかって茶色く染められているアヤの髪よりは、髪質もいいだろう。
そうである以上、あなたがサトル先輩を引き寄せる小手先のテクニックは盗ませてもらうにせよ、美しさと色気に関しては、あなたを参考にする余地なんかないわね。
しかし、それを口にするほど、大人げなくはないつもりだ。
「ええ、盗ませていただきますよ。お目当てが共通らしいので、全てを学ばせていただきます。これから、よろしくお願いしますね」
「あはは、二人とも、早速仲良くなったようだな。綺麗な二人に囲まれて、俺たちのサークルは今年は大躍進間違いなしだね」
爽やかにそう言って笑う、サトル先輩。
まあ、あなたには分からない方がいい女心もあるわよね。
あなたは、それでいいわ。
待ってろよ。私の大学青春恋愛デビュー!
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