第11話 勝負予想も勝負のうち?

 うちのサークルに入る人たちがやる程度の趣味のテニスであれば、殆どの人がやり方を知っているので、指導は本当にテニスが初めての人たちを相手にしたものに限られる。


 私自身、中高はテニス部だったので、テニスのイロハは分かっているつもりであり、早速、男女ペアを組んで練習試合を行う運びとなった。


「ペアの抽選、始めるぞ」


 サトル先輩が箱を用意し、みんなはその箱の中に入ったくじを次々に引いていく。サトル先輩と組めたらいいな、と考えつつ、私もくじを引く。


 皆が引き終わると、最後の一枚をサトル先輩が取り出す。


「くじを開けて、番号が一緒の人と組むように。ちなみに俺は、11番だ」


 私は、くじの四つ折りにされた紙を開く。目に入った番号は、11番だった。


「なら、今日は私と一緒ですね、サトル先輩。よろしくお願いします」

「ああ、よろしくな、ミカ」


 やった、と小さくガッツポーズする私を、ジロッと睨む視線を感じる。


 振り向くと、お嬢様気質とは釣り合わない鋭い視線を投げているアヤ…、ああ、毎回先輩なんて言いたくないわ。

 ムカつくから、あんなのアヤでいいのよ、年上でも。そもそも他大だし。


 あ、サトル先輩はカッコいいから他大でも先輩と呼ぶけどね。


 そこへ、アヤが、多分コマ大であろう、地味な男子を引き連れて近づいてきて、言った。


「今日は、12番を引いたわたくしたちがお相手することになりますわね。よろしくお願いしますわ」

「お、今日はアヤ達が相手か。楽しみにしてるな」


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 いくつものテニスサークルが存在するため、学内で使えるコートは、サークルごとに限られているの。


 私達のサークルは、今のところ2面しか使えず、先に早い番号を引いた四組の男女ペアが、プレイしている。


 サトル先輩は、私とアヤに挟まれて、彼らがプレイするのを見ている。


「みんな、あのコートで戦っている二組のどっちが勝つか、予想しようぜ」

「わたくしは、手前でプレイしているチームが勝つと思いますわ」

「それなら私は、奥のチームを応援します」

「あら、まるでわたくしの反対を選ぶためだけに、彼らを応援するみたいな言い方ですわね」

「いえ、単純に奥のチームの方が、私には強そうに見えたというだけのことです」


 実際のところは、どちらが強いか、見ただけで分かるほど私は玄人ではない。


 事実、今のところ両者の勝負はほぼ伯仲しているようだった。


「それで、サトル先輩は、どっちが勝つと思いますか?」


 気になったので、私は声をかけてみた。


「そうだな…。俺は、奥の方が勝つと思う。

 理由はシンプル。奥のチームの方が、手前のチームほど戦っていて苦しそうではない。今は勝負が拮抗していても、そう遠くないうちに、余裕のある奥のチームの方がリードを広げるだろう。

 少なくとも、手前のチームが勝つ要素は、このままだと皆無と言って良いだろうな」


 アヤのやつ、全否定されてやんの。

 だが、そこで黙るような大人しい子だったら、ライバルにはなり得ないわよね。


「そうでしょうか?わたくしに言わせれば、男は都大会3位、女はインターハイベスト8の実績を持っている、文字通りサークル内最強の男女コンビである彼らが、負けるとは思えませんわ」

「それは過去の実績だろ?受験で離れている期間もある以上、過去の実力なんて、あってないようなものだ」


 それでも、徐々に試合は、私とサトル先輩が推した方のチームへと傾いていく。


 アヤが推しているチームも、さすがにアヤがご丁寧にも説明してくれただけの実力をかつて持っていたからか、時には鋭い反撃を見せるが、一度傾いたゲームを別の方向へ傾けさせるほどにはならない。


「ゲームセット」


 そのまま、私達が推しているチームが、勝利する。


 アヤが、悔しそうな表情を浮かべながら、言う。


「この予想という名の練習試合ではわたくしは負けましたが、あなたたちとの試合本番では決して負けませんわ。

 参りましょうか、サトル君?」


 サトル先輩と一緒に戦うことになっている私を差し置いて、彼をコートへと引っ張っていくアヤ。


「あなたも来るのですよ。私達の番なのですから」


 アヤは、そう言って、アヤ自身のペアの相手になるのであろう、やや太めで小柄な男性をも連れていく。


「今回の作戦ははっきりしていますわ。サトル先輩ではなく、まず弱いであろう女を狙うのです。お分かりになって?」


 アヤが、男に耳打ちするそぶりを見せながら、明らかに私にも聞こえるような言い方で言ってくる。


 随分と好き勝手に言ってくれるじゃないの。

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