第6話 初めての教室にて
色々あったけど何とかお目当てのイケメンを見つけられ、ひとまずは無事に終わったサークル新歓の翌日。
早速講義が始まるので、シラバスを片手に、私は興味がある講義が開催される教室へと移動していたわ。
駒場大学のキャンパスは、都内の大学としてはかなり広い部類に入るので、このただの移動がまた意外と大変なのよね。
井の頭線コマ大前駅にほぼ隣接する駒場Iキャンパス、そこから少し離れたところにあるという駒場IIキャンパス、更には本郷と弥生、そして浅野の一角の敷地をぜいたくに使っている本郷キャンパスなど、いくつものキャンパスが存在するのだけど、中でもこの駒場Iキャンパスと本郷キャンパスは、かなりの広さを誇っている。
駒場は、本郷ほどではないとはいえ、それでも端から端まで歩くのは意外と大変で、講義選択次第では、短い休み時間の間にその距離を移動しなければならないのだから、想像するだけでも嫌になるわ。
この点、キャンパスこそ広けれど、基本的に学部ごとに建物が固まっている本郷の方が、まだ移動は楽かもしれないんじゃないかしら、とちょっとだけ想像する。
とはいえ、今日の最初の講義は、正門からさほど遠くない13号館を使うから、今の移動はそれほど大変でもなかったわね。
ちょっとした広場を抜けて、建物の入り口にたどり着いた私は、改めてシラバスを確認する。
「さて、と…今日の講義、認知脳科学の教室は、2階のようね」
入った教室は、比較的大きなもので、恐らく3階まで吹き抜けにしているのでは、と思われるほど天井が高かった。
席を探そうかと思っていると、何かこちらに迫ってくる気配を感じた。どこかで知っている男の気配。
「ブヒッ!愛してるよ!ブヒヒッ」
振り向くと、なんかフミオが猪か何かのように突進してきて、怖いんですけど!?
「ヒイッ!」
私は、恐怖からつい声を漏らしてしまう。
突進してくるフミオ。イカコマルックスなのに、どうしてそこだけ無駄に大胆なのよ?
公衆の面前で抱き着かれるのは嫌よ。サトル先輩に知られたらどうするつもりなの?
思考が渦を巻く。
その時。
「待たせたわね。フミオ、あなたには私のミカに手を出そうとしたツケは、きっちり払ってもらうわ」
私とフミオの間に颯爽と割り込む、小柄な影。
ショートな黒髪が、なかなかかわいらしいシルエットの一部となってフィットしている。
リサ、その無駄にカッコいい登場の仕方は何なのよ?
そんなことを考えていると、割り込んだ影にして私の親友であるリサは、突進してくるフミオの両腕をむんずとつかみ、まるで踊りでもあるかのようにくるりと半回転させる。
「ブヒヒ!?き、君もかわい…」
「黙ってあっちに行ってなさい」
リサが、半回転させたフミオの尻を蹴り飛ばす。
「ぼ、僕にはそんな趣味はないのにい!」
リサよりも大きく、少しばかり太ってすらいるはずの体が、勢いよく飛ばされ、教室の扉にぶつかる。
それにしても、リサは、こんな力いつから持つようになったのかしら?
私が疑問に思っていると、リサはほっと一息ついて、言う。
「一件落着ね。大丈夫だった?ミカ」
「私は大丈夫だけど…」
「そっか。怖かったわね」
微妙にかみ合っていな気がするんですけど。
「いいけど、その力は何なのよ?」
「ああ、これは、合気道の力ね。相手の突進力を、そのまま跳ね返してやった。ああいう形でなければ、立派な片想いなのにね」
「片想いなんて、されても困るわ」
「そっか。ミカは、私ほど恋愛慣れしてないもんね。でも、慣れれば、どんな形であれ、好かれるということ自体には、悪い気はしなくなるものよ」
「リサは、慣れているのかしら?」
「ええ、私は間違いなく、この大学でもトップクラスのヒロイン枠だからね。ギリギリまでフミオを泳がせて、遅れてきたのもそのためよ。
ほら、よく言うでしょ?ヒロインは遅れてくるものだ、って」
全て計算済みの演出という訳ね。助けてもらったのはありがたいけど、なんかちょっとムカつくわ。
とりあえず、遅れたことは間に合ったから許せるけど、やっぱりこれだけは譲れない。
この物語は私の物語で、私が語り手なんだから、ヒロインはリサじゃなくて私のはず。
次から、リサのこと表現するときの言い方を、ちょっとだけダーク寄りに変えてやろうかしら?
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