第14話 主題科目「仮想起業してみよう」

 必修科目や選択科目と比べて、自由奔放な内容になりやすい分だけ、学生からの人気も高い、主題科目。


 今日は面白そうな選択が少なかったから、その主題科目を入れてみることにしたわ。


 主題科目は、必要単位数は少ないけど、ものによっては座禅したり、フィールドワークに出かけたりする、中々発展的な学習ができる科目で、私が試しに出てみたのは、仮想的に起業してみる主題科目だった。


 教室に入ると、既に中には学生が何人か待っていた。


 主題科目は、内容が興味深く、質の高い授業である分だけ、学生一人当たりの教えての作業や負担が大きくなりやすい、と聞いたことがある。

 そのためか、受講人数を絞っていることも多く、この科目の場合は定員は二十名。一学年三千人だから、随分と少数精鋭で固めようとしているものだと思う。

 その選別方法が抽選じゃなかったら、だけど。


 初回はとりあえず集まった人全員を受け入れて、抽選の結果は来週以降に出る仕組みとなっている。


 定員を越えて、なお集まってくる人たちの中に、誰か知り合いがいないかと探してみたが、起業に興味がある人が私の周りにはいなかったらしい。


「ブヒッ!」


 生憎、何も、ではなかったようだ。


「あ、愛してるよ!ミカ」


 突進してきたのは、もうおなじみのブタオ、いえ、フミオ。


 迫ってくる巨体から私を守ってくれるリサは、この場にはいない。このままでは、私は押し倒されてしまうだろう。


 大昔の先輩たちがやらかしたことのせいで、ガラス張りの近未来的な、コマ大が本腰を入れて建てた建物は、理想の性教育棟などと揶揄されている。

 噂に聡いコマ大生がうっかりこの状況をツイートでもしたら、このまま歴史ある1号館すらも、1強姦になってしまいかねない。


 でも、リサのように力がない私は、どうしたらいいのよ?


 少しパニックになりかけたが、何度もやられているから、動きが分かってきた。発情モードに入った豚、いえ、彼にできるのは、猪突猛進のみだ。


 ならば、ルートから外れればいいはず。


 迫りくる巨体の進行方向を瞬時に割り出した私は、さっと横に避けた。


「ブヒヒッ!?」


 笑っているのか鳴いているのか分からない声を上げたフミオは、勢い余って、そのまま教室の壁にぶつかる。

 やれやれ。これで壁に穴でも開いたら、大変なことね。


 そんな彼が壁から離れ、トボトボと席を取りに行くのを見ているうちに、時間になったらしく、担当教授が入ってきた。


「えー、それでは、第一回の『仮想起業してみよう』の講義を始めたいと思います。まずは、資料を配りますね」


 配られた資料には、起業という手段を選ぶことに対する様々な考え方が記されていた。


 プリントが学生に回る間に、プロジェクターをセットし、パソコンで作成したパワーポイントのスライドを流し始めた先生は、話し始める。


「まずは、そもそも起業した方がいいのかについて考えたいと思います。起業すること自体が目的になっていたり、成功した起業の先に見越せる高額収入が目的になっていたりするのなら、起業という考えはやめた方がいいです。

 何故なら、起業はあくまで、ビジネスを行うための手段でしかないからです…」


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 初回は、あくまで導入が中心で、シラバスに書かれている仮想企業ソフト『シブコン・バレー:国内起業シミュレーター』を使って実際に仮想起業することはなかった。


「出席確認も兼ねて、今回の感想を書いていただきます。今回の出席確認が取れた人たちの中から抽選を行おうと思っていますが、今回の講義を聞いて引き続き受講したいかを選んだうえ、その理由や、講義内容について考えたこと、感じたこと、質問などを自由にご記入ください。

 原則平等に抽選しますが、飛びぬけて面白い内容を書けている人がいれば、優先的に受け入れる場合もありますので、たかが出席確認用などと侮ることのゆめゆめなきように」


 講義の終了五分前になると、教授はそう言って感想用紙を配り始めた。彼は続ける。


「抽選結果は、今週の金曜日までに、学内掲示板に掲示します。

 当選した受講者は、次回からは『シブコン・バレー』の中で実際に起業していくこととなりますので、ノートパソコンを持参し、今回の資料の最後のページに掲載したURLから、実際にこのソフトをダウンロードしておくこと。いいですね?」


 大方、情報教育棟を使えなかったのね。ノートパソコンを持ち運ぶのは地味に重くて大変なんだけど、それは仕方ないか。


 とにかく、今は、私がこの講義を受けたいということが伝わるような感想を書かなくちゃ。

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