第二章 のべりすとのおしごと
恋愛活動。
それは青春を謳歌せし者達が一度は憧れ、羨むもの。
オタク活動。
それはオタク達が嫁に貢ぎ、結果として日本の経済を回す活動。
かく言う俺も嫁と妹には限度なく貢ぐ。
「あ、紹介します。嫁の加○恵です!」
そう言うながらブレザーのボタンを外し、中に着ている○藤恵パーカーの絵を見せる。そして「アメ雨不愉快」を踊るのだ。
ある雨の日の事~♪
魔法以下の愉快が~♪
文化祭とかでオタク達がよくやっているアレだ。やってはみたいのだが、恥ずかしくて出来ない。
そこで、今のように脳内シュミレーションをして楽しんでいるのだ。
「たく兄…何してんの?」
「十年位前に一般人をオタクにした神アニメのEDを踊ってた」
「EDを踊るってきょうびきかねーなー」
「棒読みで言うなよ。ゼロから始める気分になんねぇだろうが。むしろ青髪じゃなくて桃髪と駆け落ちするまであるぞ」
「はいはい。信者おつー」
優鈴葉が冷たい…これが反抗期というやつなのだろうか。
「たく兄…今何時か知ってる?」
「知らん。興味もない。どうせどこも出かけないし」
「はいはい。萌香ちゃん起こす?」
萌香は優鈴葉の膝の上で寝ていた。
べ、別に羨ましくなんてないからな!ほ、ホントだぞ!
「起こしてもいいじゃないか?俺は部屋でする事があるから。じゃあな」
「あ、ちょっと!たく兄…部屋で何してるんだろ」
優鈴葉は拓哉の事が気になった。
すごく気になった。どれくらいかというと、物凄くだ。
だが萌香が寝ていたので、動けない。
「も~起きて~萌香ちゃーん」
揺すって揺すって揺すった。
萌香は起きない。
そしてまた揺する。
結論から言うと、萌香は起きなかった。
「もー!なんで起きないのー!」
優鈴葉の悲鳴にも似た叫びが家中に響き渡った。
◇◆◇
二階の一番奥の部屋に拓哉はいた。
ここは拓哉の仕事場だ。
部屋の電気を消し、カーテンを閉める。
「これでよし」
部屋を闇にする事で集中力を高めて、持続時間を長くできる。(自己調べ)
「今日中に一万文字は書きたいな」
机の自作PCの電源を入れ、B5の大学ノートを開く。
「昨日は四章まで書いたから…夏休みの後からだな」
キーボードをカタカタと叩く。
それに合わせて画面に文字列が現れる。
俺の仕事は―作家。
俗名だとライトノベル作家である。
デビューは三年前の秋。
昔からアニメやマンガなどのサブカルチャーが好きだった俺は、とあるアニメの二次創作をネットに投稿した。
驚いたことにコレが恐ろしくTwitterで広まったのだ。
PV回数は五万を超え、スピンオフとして出版されることになった。スピンオフは売れるに売れ、アニメ化という事態にまでなる。その時俺は驚きすぎて、泡を吹いた。
なんたって中学三年生が年収5000万だ。
後ろから刺されそうだろ?
そんな経験をした俺だが、不安が快感に変わる。
出版社から作家としてデビューしないかと提案され、成り行きでデビューしたからだ。
金が絡むと人格が変わるというのは事実らしい。
すでに二作品が完結し、二作ともアニメ化をした。現在、三作品目が六巻まで出版されており、既にコミカライズ化が決定している。
俺のペンネームは、「夕凪風見」だ。
(ちなみにペンネームは、スマホの名前作成アプリで作った。)
現在はBlu-rayBoxの初回限定版特典小説を執筆中である。
「はぁーつかれたー」
肩をほぐし、首を回す。そして手を休める。連続して書き続けると手が死ぬし、目も悪くなる。
適度な休憩こそが集中力を保つ唯一無二の方法だ。
休憩しているとスマホが震えた。
「ん?電話か。もしもしー」
「もしもし?香澄でーす!なななんと、たった今、BD全巻購入特典のタペストリーの絵が描き上がった~バンザーイ」
「うおぉ!マジでマジで?見せて!」
「ちょっち待ってねぇ~」
「おう!いつまでも待つぜ!」
「送ったよ~」
神イラストを早く見たくて心が踊る。自然とマウスを動かす手が早くなる。
メールを開き、フォルダを確認。
[TP01 TenbiliAllstar 3.2GB]
絵にしては重いフォルダを見つ、クリック。拓哉のパソコンはお世辞抜きで高性能だと思っている。実際PU○Gでも荒野○動でも固まった事はない。
それなのに・・・この画像を処理するのに異常に時間がかかっている。パソコンの温度は150度を軽く越えていた。
「か、香澄さん?ちょっと重すぎませんかね?パソコンが熱いんですけど…」
パソコンの危険を感じ、香澄にどうなっているのかを問いただす。
「あーごめんねぇ。テンション上がっちゃってさ~一枚絵にメインキャラを全員描いちゃった」
「ま、まじで?オールスターってそういうことなの?」
「その分ね、素晴らしい絵だよ」
「まあ待つけどさ。その間は休憩できるし」
「何書いてたの?」
「テンビリのBlu-rayBoxⅡの書き下ろし小説だよ。書き上がったらイラストレーターのお前にも仕事だぞ」
「テンビリか…私達を出逢わせてくれた大切な作品だね」
「ああそうだな。お前に会えて俺は幸せだよ。こんなに可愛い奴らと出会えたんだからな」
テンビリとは第一作「転生のSister’s believer」の略称だ。
テンビリでデビューし、北浦香澄ことK.k先生とタッグを組んだ。それから彼女と仕事をしている。
初めてK.k先生とリアルで会ったときは腰を抜かしたものだ。
だってさ、あんなにエロ可愛い絵を描く人が、俺と同い年の女性だったんだぜ?
口から心臓が出るかと思ったわ。
「なぁ、ヒロインと主人公が愛を確かめ合うセリフってどんな感じだ?」
「ノベリストがイラストレーターにそれを聞く?」
「女性の意見も聞きたいなぁーと」
「うーーん」
香澄は電話越でも分かるような、考えてる擬音を出した。
「分かりやすいシンキングタイムだな」
「やっぱり自分がドキドキするセリフを言ってみれば?」
「なるほどな。一理ある」
「でしょ?ほらほら、言うてみ~私が上手く相手してあげるから」
「そうだな。じゃあ…」
拓哉は愛を確かめるセリフを考える。
王道かもしれないし、ありきたりかもしれないが、一つしか思い浮かばない。
のどを鳴らして、声を整える。
「あ、愛してるよ」
「うん!私もよ」
ボンっ!
恥ずかしさのあまり倒れる二人。
二人とも同時にダメージを受けまくる。
しばらく立ち直ることが出来なかった。
なんとなく居た堪れない空気になる。
二分ほどで立ち直り「は、恥ずかしいっての。今のは忘れよう」と切り出す拓哉。
「そ、それがいいね…」
「「は、はははは」」
そのあとは普通に話をして過ごした。
◇◆◇
「なぁ」
「どうかした?」
「今何時だ?」
「えーと…昼の3時だね。おやつでも食べようかな」
「それは勝手にやってくれ。お前が絵のデータ送ったの何時だったけ?」
「正午くらいかな。昼ご飯食べた後だったしね」
「俺の記憶違いじゃないのか…」
「どうしたの?」
「いやその…開けてないんだけど。絵のデータ…」
「んん~?」
声から察するに、満面の笑みを浮かべているころざろう。
想像するだけで腹が立つ。
「だからデータ…」
「当たり前だよ。だってそれ爆弾メールだもん」
香澄の発言で世界が止まったような感覚に陥る。数秒が何時間にも感じられた。
「は?ナニイッテンノ?」
「だーかーらー爆弾メールだってば。知らない?絶対に開けない、パソコンを壊すだけのメール。拓哉なら知ってると思ってたけど」
「・・・・・・」
マウスを動かす。動かない。
キーボードを叩く。動かない。
タッチパネルを触る。動かない。
香澄が拓哉び話しかける。動かない。
ただの屍のようだ。
「なぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃをしとるじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
マイクがハウリングし、不快な音が響く。
「たく兄うるさーーい!」
下で萌香の枕になっている妹に怒られた。
妹よ。
どうか兄を嫌いにならないでおくれ。
「ああチクショウ…ごめんよ優鈴葉、愛してるぜ!」
「たく兄マジきもい」
返答はあまりに冷たいものだった。
「おい、どうしてくれんだよ。妹に嫌われちゃったじゃねぇか」
「シスコンの兄はコワいねぇ~」
「茶化すな。なにが目的なんだよ」
拓哉はなんとかパソコンを復活させるべく暗中模索しながら、敵意を香澄に向けた。
「私はただ君をお話したかっただけだよ。君のことをもっと知りたいだけ」
「それなら最初からそう言え、馬鹿野郎。言ってくれれば何時間でも付き合うから(俺だって香澄と話したいんだから」
「最後なんていった?」
「な、何でもない!!」
(声に出てたのか…危ない危ない)
「それよりも!本物のデータは?」
「それなら私の家に見に来れば?」
「え、めんどくさ」
思わず本音が出てしまった。
気を悪くしていなければいいけど。
「そういうと思ったよ。でもね、たまには歩かないと駄目。よって今日の夜は私の家に来ること」
「拒否権は?」
「あなたに自由と、その他諸々の権利はないわよ」
「俺には日本国憲法が適用されないのかよ」
「無利益じゃないじゃないからいいでしょ。夕食はご馳走、するわよ。もちろん私の手料理でね」
「分かったよ!五時に金蔵寺駅に行く。要るものあったら早めに言ってくれよ」
「ほいさー。じゃあ待ってるね」
「へーい。また後でな」
通話がキレたスマホの画面を見る。
通話時間が三時間を超え、四時間へと近づいていた。
「よっしゃああ!香澄家で飯!薄々感づいてたけど、俺の事好き好きじゃね?まぁ人の事は言えんか…」
拓哉はテンションが最高潮になっていた。
服を着替え、荷物を準備する。パソコンバッグにノートパソコンと充電器、B5の大学ノートを入れる。
タンスの扉の鏡で身なりを確認。
準備が整ったので、部屋を出て階段を下りる。
「あ、あれ?た、たく兄でかけるの?」
妙にソワソワした妹が、階段下で右往左往していた。
「ああちょっとな。友達と会ってくるよ。晩飯はいらねぇからな」
「と、友達?」
「そんなに驚かんでくれ。悲しくなるから。じゃあ、行ってきます」
玄関の扉が閉まる直前に、妹と萌香の雄叫び聞こえた気がした。
が、放っておいた。
拓哉はまだ知らない。
これからの逃れられない修羅場のことを。
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