第一章 俺の妹と幼なじみがオタクすぎる

優鈴葉と学校をサボった日の夕方、アニメを休みなく視聴し疲れて寝てしまっていた。

俺は、インターホンの音で目を覚ました。

出なければいけないと分かっているのだが、肩に感じる重みのせいで動く気になれない。

優鈴葉が、俺の肩に頭を乗せ寝ている。

(いつも頑張ってくれてるしな。起こさずにそっとしておいてあげよう)

もし宅配便だったら申し訳ないとも思ったが、妹の可愛さに負けた。

インターホンは二回ほどで鳴りやんだ。

(帰ったか…宅配便だったらごめんなさい)

心の中で謝罪し、時計を見る。

まだ、午後五時を過ぎたくらいだった。

(もうちょっと寝ますか…)

優鈴葉の目にかかった髪をのけてやり、再び眠りにつく。


だが、そこでイレギュラーな事態が発生した。

なんと鍵を開ける音がしたのだ。両親なら鍵を持ってても不思議はないが、インターホンを押す必要はない。他に鍵を持ってるのは俺と優鈴葉だけだ。

よって、両親のどっちかが驚かせようとインターホンを押したことにして自己解決をした。

基本的に両親は寝ていると干渉してこない。

(寝たふりしときますか)

ということで、俺の五十七番目の特技「寝たふり」を使用した。

効果はバツグンだ!

足音は次第に近づいて俺の前で止まった。

音的には女性だ。

多分、母さんが帰ってきて寝ている兄妹を見ているのだろう。

年頃の男女が、肩を寄せあっていたらそりゃ気になるよな。

全然そんな関係じゃないですよ、お母様。

完全に母さんだと思い込んでいたせいで、前にいる人の声を聞いた瞬間すったまげた。


「たくちゃん、起きてるでしょ?寝たふりは、私には効かないよ」


もちろん声の主は誰か分かっている。だけど、起きるわけにはいかない。

俺のプライドが許さない!!


「起きないなら、この状況を写真に撮って内川君に見せるからね」

「ごめんなさい。すぐに起きるんで、やめてください」


脊髄反射で答えてしまい、言った後に後悔した。


「起きたなら見せない。それより答えてもらっていい?」


ヤバい…

なんか知らんが目が据わってらっしゃる。


「な、なんでございましょうか?」

「学校をサボって、ゆずちゃんと何していたのかな?イケナイ事してたらどうなるか分かってるよね?」

「なんもしてねぇよ!なんだよイケナイ事って。それなら不法侵入のお前の方が、イケナイ事してるだろ!」


声の主はスマホの画面を見せながら、ドヤ顔でこう言った。


「ちゃーんとおば様の許可は取ってるわよ」

「なぬっ」


確かにスマホの画面には歳に似合わない文章で

『拓哉の事だからきっと学校行ってないでしょう?だから萌香ちゃんが面倒見てあげてね💛鍵は萌香ちゃんの家のポストに入れとくねぇ~』と書かれていた。

あの女郎め…何歳だと思ってるんだよ。


「分かった?私は正当に侵入しているのよ」

「侵入って言うから事件性があるんだよな…せめて訪問とか、お邪魔するとか言えばいいのに」

「うるさいわね。侵入は侵入なの分かった?」

「へいへい」


紹介が遅れたが、この女は俺の家の前に棲んでいる栗原萌香くりはらもえか。あ、間違えた。「棲んでる」じゃなくて「住んでる」だわ。悪意はない。ほ、本当だからな!

少し逸れてしまったので、話を戻そう。

こいつは俗に言う幼馴染だ。

おっとそこの君。オタクのくせに幼馴染いるとかファッ〇とか思っただろ。確かに二次元の幼馴染キャラは素晴しい。優しいし料理は上手い。それに加えて可愛い。


だが、現実は違う。



萌香は、市内で一番可愛い。

待て待てそこの君、バッドを持つのはやめなさい。

そこの君も包丁を置いてください。

間違えただけだから。

改めて言おう。


現実の幼馴染、萌香は…


最高に可愛いいいい!!

こら、人に物を投げちゃいけませんって幼稚園で習わなかったの?

え?幼稚園の先生に投げろって教わった?

投げることを幼稚園の頃に教えられるのって、五郎よりも英才教育だな。なんか長さ計りたくなってきたわ。メジャーでな。

全国のオタク諸君。

世界は広いのだ。三次元にも可愛い娘はいる。別にオタク達同志を裏切ったわけじゃないぞ。勘違いするなよ。まあとにかく、変な奴が入ってきたのではなく幼馴染が来ただけだ。


「それで萌香は何の用だ?」

「貯まってたプリントとか色々持ってきあげたわよ。もうちょっとでテストあるんだから来なさいよ。まだあの事を気にしてるの?」


あの事。随分と抽象的な言い方だが俺には伝わる。

答えることを忘れ、俯いていた俺を気遣ってか話を変えてくれた。


「今日私の親帰ってこないからここで夕飯食べていくけど、いいよね?」

「ああ、お好きにどうぞ」

「ゆずちゃんを、そろそろ起こす?」


俺は少し考えてから、首を縦に振った。


「優鈴葉、起きな。晩飯萌香が作ってくれるらしいぞ」

「ふぁぁあ…おはよう、たく兄。萌香ちゃんが作ってくれるって本当?」

「私、そんな事言ってないんだけどね。はぁ、仕方ない。今日は私が作ってあげるわ」


最初は口では嫌がっていても、優鈴葉の顔を見てやる気を出した。

(我が妹ながらあっぱれだ。将来はきっと沢山の男を泣かせるのだろうな…)


「何を作るつもりなんだ?家には何にもないぞ。なんたって今日は、優鈴葉と食いまくったからな」


ドヤ顔で答える。


「ゆずちゃんが制服着てるから、帰ってきて疲れて寝てるのかと思っていたのに。まさか二人でサボってアニメ見てたなんて…」


眉間に右手を当て、「困った兄弟だポーズ」(命名俺氏)をとっていた。

(ヤバい本日二回目のヤバさだ)


「どうして私も誘ってくれないの!!今日見てたのってロク〇カよね。私もずった見たかったの知ってるよね?誘ってよ!!」


あまりの迫力に何も言えなかった。

早口なのに一度も噛まないのにも驚いたが、それよりもいつもの雰囲気から逸脱した気迫にさらに驚く。


「わ、悪かったよ。次からはちゃんと誘うよ」


皆さんもお気づきであろう。

あるいはデジャブを感じたであろう。

はい!こいつもオタクです!!かなりのオタクですよ。

どれくらいかと言いうと、小野田〇道レベルだ。

そもそも、オタク度を表すのにオタクキャラを使ってる俺も終わってるな。


「アニメは私が見るんだ!!今日、ここでぇぇ!!」

「唐突に悲しき主人公のセリフを吐くんじゃねぇ」

「またアニメが見たいのか!?あんた達は!」

「優鈴葉もやめろおおお!シン・ア〇カは途中で降ろされただろ?俺達だって降ろされるかもだぞ!」


メタ発言は叩かれるんだぞぉ!

なんかテンションがアレだが、気にしないでくれ。

変な気分になってきた。

やらしい方ではない。

超美少女の二人が、今なおアニメキャラのセリフで会話をしているこの状況…そうかこれが混沌カオスというやつか。

はっはっは!!これが運命石の扉の選択だ…


「二人とも、落ち着いて落ち着いて。とりあえず晩飯の買い出しに行くなり、メニュー考えるなりしよう」


今はこの状況を脱するべく考え出したのが、飯の話だった。

我ながら捻りのない提案だと思う。


「そ、そうね。ごめんなさい、取り乱したわ。この失態、万死に値する!」

「謝罪にネタを混ぜるのやめような…」

「俺が…ガ〇ダムだ!!」

「優鈴葉さん。流石に二回目のこのくだりは面白くないよ」


疲れてしまったのか、いつも通りのツッコミが出来ない。

この二人何なの?最近ガン〇ムにハマってるの?

あ、分かった。

昨日ビルドダイ〇ーズ見たからだ。

主人公機がダブル〇オーだしね。

あ、脳内ではツッコめるのね…


「たくちゃん、買い出しに行くわよ」

「お、おう」


俺が脳内でツッコミをしている時に、二人で晩飯の話をしていたらしい。


「じゃあ優鈴葉、行ってくるわ。なんか必要な物あったらLINEしてくれな?」

「りょーかい。いってらっしゃーい」


最愛の妹へしばしの別れを告げ、家を出る。


「ほんの数十分、会えないだけでしょ。そんな顔してたら気持ち悪いよ」

「うるさいぞ萌香」

「え、鍵閉めるの?ゆずちゃんは、家にいるんでしょう?」

「無視かよ。もしものためにな。優鈴葉は可愛いから何があるかわからん」


割とマジで危ないのだ。

二年前、優鈴葉は誘拐された経験を持つ。

犯人が優鈴葉を誘拐した理由は、可愛いからだった。

その時は何もなかったから良かったものの、以降かなり気を付けている。


「相変わらずのシスコンめ」


言われ慣れたので、無視して話を変える。


「で、どこに何を買いに行くんだ?香川にそんな大きな店ないぞ」


言い忘れていたが、俺たちが住んでいるのは香川県善通寺市。

有名なものは特にないが、空海の生れたところだ。

え?田舎なのに、何で標準語なのかって?

簡単なことだよ。作者が方言で書くのが、だるいからだよ。

*先程、だるいと申しましたが香川県在住です。バリバリ讃岐弁です。作者が出てきて良いのかよ、と思ったそこの君。羅生門にも筆者は登場するから大丈夫だ、と作者は思ってます。


「行くところは決まってるよ。〇ナカだよ」

「隠せてるようで、隠せてないのがミソだな」

「〇ヨシでもいいよ?」

「どっちも隠せてねぇよ」


どちらも地方スーパーだ。香川県ならどこにでもある。

正直どっちも取り扱ってるものは変わらない。


「じゃあ、近い方の〇ナカだね。寒いし鍋にしようよ」

「名案だな。〆のうどんも忘れるなよ」


季節は十一月の下旬。鍋と炬燵が恋しくなってくる。

香川県民が鍋をすると、ほぼ百パーセント〆のうどんがある。中華麺ではだめなのだ。

うどん麺でなければならない。

「ゆゆ○」でも放課後うどん食ってたろ?

香川県民は、それぐらいうどんが好きなのだ。

ちなみに、俺が最も好きなうどんは「冷かけうどんネギ抜き天かす多め+コロッケ」だ。季節によっては温いのでもいい。

一番美味しい食べ方がある。

それは、麺を食い終わった汁にコロッケを浸して食う食べ方。汁を吸ったコロッケがたまらん。もちろん最初に入れて、麺と一緒に食うのも美味だ。

香川県民は大抵、自分の好みのうどんの食し方を持っている。多くの場合それを、十歳までに見つける。

香川県がうどん県と呼ばれる所以は、ここにあると俺は思う。真偽は定かではないが…


「何鍋にする?家にモロニーちゃんはあったと思うけど」

「たくちゃんは、モロニーちゃん鍋が食べたいの?」

「いや全然全くこれぽっちも、そんな気はない」

「そりゃそうだ。アレ味ないもんね。じゃあ普通の豚肉鍋にしようか」

「それでいいよ」


買い物を済ませた俺たちは、帰り道にある本屋に寄った。

今日は新刊発売日から三日後だからだ。

香川県は早くて二日、遅くて一週間ほど発売日から入荷が遅れる。

早く読みたいのならネットショッピングを利用すればいいのだが、本屋で見て買うのが好きなのだ。


「あ、新刊で出てるな。悪い萌香、ちょっとレジ行ってくる」

「それなら、ついでにコレもお願い。お金は後で払うから」

「あいよ」


四冊の本を手に、レジへ向かう。


「2436円になります。文庫本にカバーお付けしますか?」

「あ、はい」


あるあるだと思うけど、ラノベとか買うとカバー付けてもらうでしょ?

でもマイカバー付けるからさ、紙のカバーが大量に余るんだよね。持って帰る時の汚れ防止としては有能だけどな。


「お待たせ。ちゃっちゃと帰って飯食うぞ」

「半分持ってよ。重いんだよ」

さほど入ってない袋を「重い」と言ってらっしゃる…女という生き物はそういうものなのだろうか。


「半分だけな」

「わー本当に半分だけやー」


ぶつぶつ文句を言う萌香を無視し、帰路に就く。

(今日は好きな物が食えそうだ。優鈴葉が作ると俺の嫌いな物を出しやがるからな。)


「あ、言い忘れてたけど。豚肉鍋には、ネギたっぷりだからね。ネギを肉につけてから鍋に入れるからー」

「な、なんだと!!ふざけるなよ、ネギなんていらねぇよ!!あんなの他の物の味を、ダメにするだけだろ!!」


俺がネギ嫌いな事を分かっててやってるな。


「分かった分かった。それよりもロク〇カ見るからね!」

「へいへい。今日泊ってくんだろ?」

「え?でも…その…アレだし、ね?」


いや、なんで頬染めて困ってるんですか。

アニメ見るなら泊ってかないとダメでしょうに。


「(たくちゃんってもしかして、私の事好きなのかな…絶対そうだよ!でなきゃ高校生にもなって、泊まってけ何て言わないよね!って事は私…襲われちゃう!?)」


※萌香さんは単純で馬鹿です。


萌香が首を振ったり、足踏みしたり、かなりヤバい奇行に走っているんだが…見方を変えれば、喜んでいるようにも見えなくもないけど。


「お、おい萌香?」

「な、何かな?どどどうしたの?」

「それは、俺のセリフだ。動揺しすぎ、しっかり歩け。荷物持ってやるから」

「はわあああ(たくちゃんが私の手にぃぃぃ!!もう確定じゃあん!私の事、絶対好きじゃん!!)」

「(なんか知らんが、萌香に話しかけるのやめよう。もうなんか怖いよ)」


二人の理解が食い違っている事に気付かないまま帰宅した。

その夜の食卓には、ネギと戦う拓哉の姿があったという。


「(たくちゃん!!私はいつでも告白持ってるからね!予約は承ったよ!)」

「は、はくしゅん!な、なんだ?」


寒気と殺気がした拓哉でした。

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