第7話 超新星ノヴァルダーA 後編
(……ゲキ……)
――ふと、昔の事を思い出す。
我がロガ星軍が地球への侵略戦争を始めてから、もう1年になる頃。私達は、目立った戦果を得られず……戦線は膠着状態が続いていた。
原因は分かっている。あの地球人の
「ベラト姫、御安心下さい! 必ずやこの私めが、今日こそ奴を仕留めてご覧に入れます!」
「ロガ星に栄光あれ! 姫様に栄光あれ!」
それでも兵達は口々に、私に向かってそう宣言しては宇宙に翔び立ち――誰1人として、還っては来ない。私は毎日の様に身を清め、ロガの神に兵の生還を祈り続けていたが、それが実ることなど一度もなかった。
「い、や……もう、いやっ……!」
そして、戦死者リストに載る名前が増える度。私はこうして、人払いを済ませた寝室に顔を沈め、嗚咽を漏らしている。誰にも聞かせられない、私の本心を。
――元々ロガ星は、侵略戦争など望んではいなかった。だが、我々の優れた軍事技術に胡座をかく軍部に押され、気づけば私はロガ星軍の
それでも軍部が実権を握り、戦争を始めてしまった以上、父も民も軍を応援するしかないし、私は兵達を鼓舞する為に象徴を演じ続けるしかない。負けた先に待ち受ける陵辱に、晒されない為にも。
――だけど、それでも。私の為にと口にして死んでいく兵達に、私は何もしてあげられなかった。
軍を止められなかった私に、命を賭ける価値などあるはずがないのに。彼らは純真な眼で私を見つめ、愛を叫んでは散って逝く。
誰が、そんなことを望んだの。誰が、死ぬことなんて望んだというの。
「お願い……これ以上、死なせないで……! こんな戦い、もう、終わらせてっ……!」
軍の頭目として、それはあってはならない思想だった。王女としても象徴としても、私は余りにも愚かで、弱い。
それでも私には、願うことしか出来なかったのだ。私の為に命を賭けるのではなく、私の非力なこの手を引いて――共に生きてくれる「誰か」が現れることを。
――しかし、その「誰か」が。敵であるはずの
私の願いを満たした彼を、心の底から愛してしまうなど。
◇
戟が「サルガ三銃星」の妨害を抜け、宇宙の彼方へ飛び出た頃。ベラトは媚薬責めによって、すでに憔悴しきっていた。
――上気した貌と、荒い吐息。そしてたわわに揺れる汗ばんだ果実が、「責め」の激しさを物語っている。
やがて、彼女の肢体に喉を鳴らし。サルガは鍛え抜かれた己の肉体を露わにすると――彼女の上に覆い被さって行った。
「ふふ、この調教に屈しない女などいない。ロガ星軍は、まだまだ戦える! さぁベラト姫、貴女の身も心も――『
「あ、はぁ、ぁ……」
そして、桃色に染まる頬に舌を這わせ――耳を舐めた後。完全に彼女を屈服させるべく、その唇を奪おうとしていた。
サルガの強面な貌が迫り、その影が桜色の唇を覆い隠していく。
(……ゲ、キ……)
だが、そんな中であっても。長時間に渡る、媚薬の責めを受けても。
姫君の胸中に馳せるのは眼前の
◇
――開戦から2年間。ベラトはロガ軍の象徴として兵達を鼓舞するだけでなく、戦闘機パイロットとして前線を飛ぶこともあった。その方が、彼女を守ろうとする兵達が沸き立つからだ。
そのカリスマ性を利用して士気を高めるためなら、彼女の身に降りかかる危険すら厭わない。そんな軍部の思惑に押し流されるまま、パイロットとして兵達と共に飛んでいた彼女は――幾度も戟の
防衛軍のエースパイロットとして立ちはだかる彼に、ベラトは焦燥と悲しみを露わにしつつ――幾度となくレーザーを撃ち込み続けていた。何度巧みにかわされ、何度情けを掛けられ見逃されても。
ロガ星軍の象徴として、王族として、負けるわけにはいかないと――ひたすらに声を張り上げて。まるで、自分にそう言い聞かせるかのように。
だが、その御題目は1年半後に彼女自身によって破られてしまった。絶えず続く戦いや疲弊していく兵達の姿に耐え切れず、軍部を脱走してしまう形で。
そんな彼女を保護する形で、戟は初めて戦闘機に乗っていない彼女と対面したのだが――あくまで地球人は敵と認識していたベラトは、保護を申し出た戟に対しても警戒を露わにしていた。
――私は、戦場から逃げ出しました。もはや王女としても、ロガ星人としても失格です。地球人の施しなど受けません、それ以上近づけば自害します!
――そんな震えた手で、何が撃てる? 今の君の腕じゃあ、俺はおろか自分の胸にさえ当てられやしない。
――あなたに一体、私の何が分かるというの!? ロガ星の王族として生を受け、戦うしかなかった私の何がッ!
エンジントラブルで墜落し、炎上する乗機から救出されても。ベラトは戟の手を振り払い、手にした
だが、他者の痛みにさえ敏感なほどに繊細な彼女では、その手の震えを鎮めることは叶わず。戟の神妙な眼差しは、彼女の胸中に沈む「恐れ」を看破していた。
――王族として、か。……ベラト。君とは何度も
――!?
――王族じゃなかったら、君は戦わなかったんじゃないのか。そんなに震えてまで、戦う理由がなかったんじゃないのか。王族だとか姫だとか、そんなことじゃない。何にも飾られていない、君が戦う本当の理由を……俺はまだ、一度も聴いたことがないんだ。
――知った風なことを、言わないでッ!
長い戦いが生む疲弊によって、失われたはずの感情に火が灯り。ベラトは慟哭と共に、戟に向けて光線銃の引き金を引く。
だが、本能的に彼を害することを忌避していた彼女は、戟の顔を撃ち抜くことは出来なかった。正確に狙った――つもりだった銃撃は、彼の
そして、そのように彼女からの銃撃を受けても。顔に消えない傷を負っても。戟はなおも、真摯な面持ちでベラトに歩み寄っていた。
明星戟という男には、家族がいない。過去に地球で起きた怪獣軍団との戦争で両親を失って以来、孤児院で育てられてきた彼は、施設に残る幼い
それは「身近な人々を守るため」という極めて俗人的な理由であり、ベラトが背負う王族としての大義には遠く及ばない。
――私だって……私だって、初めからこんなこと……!
――知ってるよ。だから助けたんだ。君が、こんなことを望んでいなかったことくらい。
――地球、人……。
だが。そんな俗人的な理由こそが、ベラトにとっては何より必要だったのだ。
軍部に幼馴染を殺され、両親を囚われ、彼らの言いなりに大義を叫ぶしかなかった彼女は、家族を守るためという本音を、誰にも明かすことができなかった。
――戟だよ。俺は、明星戟。
――ゲ、キ……。
そんな彼女の胸の内を、戟は見透かしていた。彼女は初めから、戦いを望んではいなかったのだと。
そしてベラトもまた、戟のそんな在り方を羨んでいた。ただ求められるままに望まぬ戦いを続ける自分よりも、家族のためにと戦える戟の方が、よほど眩しく視えていたのだ。
やがて、彼女は光線銃を落とし……先程まで敵だったはずの、眼前の地球人に己の身を委ねる。
その道を選んだ彼女は、間も無く味方であったはずのロガ軍に狙われてしまうのだが……その出来事が、彼女にある決意を抱かせたのだ。
自分の苦しみも浅ましさも、全て見抜いた上で受け止めてくれた、彼のために愛も心も捧げる。故郷にすら捨てられた自分にはもう、その道しかないのだと。
◇
――そんな懸想が、ふと脳裏を過ぎる中。彼との想い出を塗り潰さんと、欲深き男の顔が迫る。
あとほんの少し近付かれるだけで、誰にも許したことのない唇を、奪われてしまう……その時だった。
『ベラトォオーッ!』
「――!」
この宇宙戦艦に迫る、戟の声が響き渡り――我に返った彼女は。
雪のように白く艶やかな美脚を、爪先から振り上げ――自分を支配しようとしていたサルガを、勢いよく蹴り飛ばす。
「――はぁ、ぁああッ!」
「ぐほぁッ!?」
その眼はすでに――かつての気丈さを取り戻していた。
「ばッ……馬鹿な!? こ、こんな馬鹿なことがッ……!」
「……こんな、責めに膝は折りません。私の心はもう、決まっています!」
「おのれ……何もかも、あの地球人のせいだ!」
身体を惑わせるだけでは、彼女は堕とせない。そう思い知らされたサルガは激昂し、牢から走り去ると――艦内に格納されていた、多脚型ロボに搭乗する。
「蠍」を模した第19号「ノヴァルダー
Sは勢いよく艦内から飛び出し、目前まで迫っていたAと対峙する。すでに戦艦の砲台は全て、彼の手で潰されていた。
両者はやがて宇宙戦艦の艦上に降り立ち、互いに一歩も譲らず睨み合う。
「おのれ、地球人! 貴様さえ、貴様さえいなければッ!」
「彼女はもう……いや、初めから戦いを望んではいなかったんだ。終わらせてもらうぞ、全て!」
「黙れ! ――デストロイスパイクッ!」
紫紺のボディを持つSの尾。その先端に備わる鋭利な槍が、Aの胸に迫る。背部と肘のジェットで姿勢を制御し、それをかわしたAは背後に回ると――胸のアーマーを開き、無数の赤い弾頭を連射した。
「流星群ミサーイルッ!」
「ぐはっ……おのれ!」
「――うぁあッ!」
その爆撃を浴びても、Sは諦めず長い尾で薙ぎ払い、Aを打ち据える。だが、Aはすぐさま体勢を立て直して高く飛び上がり――急降下を敢行しながら、両翼上部に内蔵された武装での機銃掃射を仕掛けた。
「このッ――ケンタウルスバルカーンッ!」
「ぐおぁぁあッ! ――いつまでもッ……調子に乗るなァッ!」
しかし、サルガはS特有の優れた防御力を活かし――その強襲を乗り切って見せた。戟は急降下爆撃の要領でAの機体を持ち上げ、Sの頭上を通り過ぎようとする。
そこが、狙い目だった。長い尾を持つSの背後に回ろうとした、その一瞬の隙を突き――ついにSの尾が、Aの胴体を巻きつけて捕らえてしまったのだ。
「がぁッ!?」
「ハッハハハ、ついに捕らえたぞ馬鹿めが! ノヴァルダー同士の戦いに、
凄まじい圧力がAのボディを襲い――口元を覆うシールドの隙間から、血のように赤いオイルが噴き出てくる。
「ぐぁ、あ……!」
「フハハ……終わりだ地球人! 今度こそトドメを刺してやる!」
2年間に渡り最前線で戦ってきた、手練れの
身動きが取れないAの頭上に、Sの鋭い尾の先が迫る。
――それはまさに、ベラトの幼馴染が彼の手によって殺された時と、寸分違わぬ
Aに「無力」の2文字を突き付けた、必殺の体勢。このままでは戟も、同じ運命を辿ることになる。
まさに、絶体絶命――その時だった。
『ゲキーッ!』
突如ロガ軍の宇宙戦闘機が飛来し、Sの顔面にレーザー砲を浴びせたのである。マゼンタとシルバーを基調とする、その流線型の機体はまさしく――ベラトの専用機であった。
思わぬ一撃で怯んだSの隙を狙い、Aは尾を振り払うと――先端の槍を手刀で切り取ってしまった。
「ベラトッ!?」
「ゲキ、今です!」
「……よしッ!」
「ぐあぁッ! お、おのれぇッ……!」
そして、なおも戦おうとするSを黙らせるように。その顔面を、投げつけた槍で突き刺してしまった。
しかし頭部を貫通されてなお、サルガは屈することなく戦いを続けようとする。Sの胴体が展開し、腹部から巨大な砲身が顕れたのはその直後だった。
「……あれはッ!」
「ベラト姫……あくまでこのサルガの物に、ならぬというのであればッ!」
「くッ――!?」
自らの軍門に下らぬなら。みすみす、地球人に渡すくらいなら。その傲慢さに満ちた「一撃」を放つべく、Sの腹部に荷電粒子が集束して行く。
無論、そんな超火力を浴びればベラトの戦闘機などひとたまりもない。戟はサルガを倒すことよりベラトの護衛を優先し、彼女の盾になろうとする。
『エクシウム――ブラスタァァアッ!』
「な――!?」
だが。荷電粒子砲の充填が完了し、発射を実行する――瞬間。
背後から突き刺さる眩い閃光が、Sのボディに裁きを下す。
紫紺の蠍は後方から飛んで来た熱光線に貫かれ、荷電粒子砲の発射機構を破壊されてしまった。
「……!? あ、あの巨人は……!」
「あ、あれが銀河憲兵隊……!」
Sの装甲に守られた荷電粒子砲を容易く吹き飛ばす、金色の熱光線。
その正体は突如、Sの背後に現れた光の巨人「ルヴォリュード」が、腕をL字に組んで放つ必殺の一撃――「エクシウムブラスター」であった。
半月程前に地球に現れ、50m級もの宇宙怪獣を葬ったと言われる謎の巨人。その雄姿を目の当たりにして、息を飲む戟の近くで――「銀河憲兵隊」の雷名を知るベラトは、その噂に違わぬ威力に戦慄を覚えている。
(……流、星……?)
――
「ぐお、ぐぬぉおぉ……! 銀河憲兵隊まで出て来おったか……! だが、私の戦いは終わらぬ! 全てを手にするまで、決して終りにはさせぬわッ!」
一方。荷電粒子砲に集束していたエネルギーは度重なる暴発を起こし、Sのボディをさらに傷付けていた。サルガはもはや、虫の息である。
――しかし。過激派の頭目である猛将は、退くことを知らず。
その身を投げ打つように、ベラト機に迫ろうとしていた。ならば――戟の選択は、一つしかない。
「……そのためにはベラト姫ッ! 貴女が必要だったのにッ! ベラト姫ぇえッ! なぜ、なぜ貴女は我々をッ――!」
妄執だけに突き動かされ、ベラト機に向かい突進して行くサルガ。
――その哀れささえ漂う姿に、引導を渡すべく。ベラトと頷き合う戟は、全てに決着を付ける為――握り締めた操縦桿を、一気に倒した。
彼の意思を汲むAは、両肘のジェットを最大出力で噴射すると――二つの鉄拳を突き出し、猛進していく。
「平和を愛する、この人と添い遂げる。それが、私が選んだ道だからです! ――サルガ!」
「シャトルブースター・パーンチッ!」
その拳圧は顔面に突き刺さった槍をさらに深く沈め、Sのボディを押し潰し、破壊して行く。
Sを貫通したAは、さらに直進し――巨大な宇宙戦艦をも、撃ち抜いて行くのだった。
――それはまるで。亡きベラトの騎士へと捧げられた、手向けのように。
「うぉあぁあぁッ! お、のれ……地球人ッ! おのれ……ミョウジョウ・ゲキぃいぃいッ!」
かくして戦艦は轟沈し、全ての敵が宇宙の闇に爆散して行く。それがSと――将軍サルガの最期だった。
『……我々は、地球人の力を見誤っていたのかも知れんな。あの男の「光」、しかと見届けた』
『明星さん……!』
その結末を見届けたルヴォリュードは、明星戟が見せた「守るべきものを持つ者」の光を、己の眼に焼き付けていた。
彼と一心同体となり、共に戦った少年もまた――戟が齎した「光」を目にして、微笑を浮かべている。
そして、己の役割を果たした銀河憲兵隊の戦士は。ノヴァルダーAの勝利を讃えた後、遥か彼方へと飛び去って行くのだった。
平和を望む人々に宿る、心の「光」を守るために――。
◇
――その後。
戦いを終えたAは、ベラトが乗っていた戦闘機を抱えて帰路についていた。Aのコクピットで身を寄せ合う2人は、互いの甘い高鳴りを感じつつ、地球を目指している。
そんな彼らの眼前では、応援に駆けつけてきた防衛軍の宇宙艦隊が、出迎える準備を終えていた。戦争を終わらせた
「終わったな。……さっきは助かったよ、ベラト。あの巨人にも、感謝しないとな」
「……あなたなら必ず来てくれる。そう、信じていましたから。そんなあなただからきっと……銀河憲兵隊も、力を貸して下さったのでしょう」
「ベラト……」
「……ゲキ」
だが。2人にとって、今最も「欲しい」のは救援ではなかった。
目の前の艦隊から視線を外し、見つめ合う彼らは。やがて待ち侘びた口付けを交わし――互いの舌を絡ませて、愛を確かめ合う。その時が来てようやく、ベラトは在りし日の笑顔を取り戻していた。
最後の徹底抗戦派であるサルガが倒れた今、もうロガ星人を戦わせる者も地球人を攻め立てる者もいない。指導者を失ったロガ軍はもう、武器を捨てるしかない状況だ。
今ならば彼らに虐げられていたベラトの両親も、権力を取り戻してロガ星を元通りに出来るだろう。王族を苛んでいた軍部の闇はもう、完全に切り払われたのだから。
戦争が終わり、地球から脅威が去っただけではなく――ロガ星もまた、本来の穏やかな国へと生まれ変わって行けるのだ。双方にようやく、平和に向かって歩み出せる時が訪れたのである。
その事実が生む、身を焦がすほどの歓びゆえか。あるいは、サルガに盛られた媚薬の影響か。
ベラトはかつて、自分が付けた頬の傷を撫でると――貪るように激しく、戟の唇を求め。その色香と吐息に当てられた戟もまた、彼女の愛に応えんとしていた。
――しかし、彼らは気づいていなかった。この会話がすでに、防衛軍艦隊に傍受されていることを。
「……終戦早々、イチャついてんじゃねぇぞ……」
散々気を揉んでいた戦友のダグが、艦内でボヤいていることを。
「……若いな、あいつら」
「……あのバカが……」
「……何やっとらーすか、全く」
――さらに。宇宙艦隊に合流していたヒュウガ駆動小隊の面々まで、艦内で呆れ返っている。周りの整備兵やオペレーター達も、なんとも言えない表情であった。
「……悠依も心配してるだろうし、そろそろ俺も帰るかな。達者でやれよ、戟」
一方。秋葉原基地に潜んでいたサルガの尖兵達を、1人残らず撃破した「拳帝」は。戦いの終わりを悟り、微笑を浮かべて
「……明星さん、お幸せに」
「おーい流星、何してんだ! 早く行かねーとチケット売り切れんぞっ!」
「わかったよ甚太、今行くってば!」
――そして。巨人と別れ、地球に帰還した少年は。何も知らない友人をよそに、「兄貴分」の婚姻を祝していたのだった。
◇
そして、この戦いから1ヶ月後。地球とロガ星との間に、改めて終戦協定が結ばれた。
戟はロガ星との国交を守る防衛駐在官として、新生ロガ星軍の主要基地に着任。地球を代表する親善大使に選ばれた師の友人・
以来彼は、故郷である地球の孤児院に手紙と仕送りを送りつつ、終戦直後の混乱期にあるロガ星に真の平和を取り戻すべく、日々奔走している。
一方、ベラトは事実上の人質であったとはいえ、旧ロガ星軍の指揮官として侵略戦争に加担していた責任を負う形で――王位継承権を妹の第2王女に譲渡。自身は戟の補佐官として、公私共に彼を支えていくことに決めたのであった。
――そして。仕事中であろうと、プライベートであろうと。
ふとした拍子に
◇
『アルタ……無謀です! あなたでは――!』
『ご安心ください、姫様。僕が必ず、この戦いを終わらせて見せます!』
戦争が始まる前に我が母星で起きた、あのクーデターの日。
私の幼馴染であり、専属騎士でもあり。そして、婚約者でもあったロガ星の青年士官・アルタは。私に勝利を宣言しながらも……敢え無く命を落とした。
私に忠誠を誓う兵達も。彼も。私自身の弱さが……死へと追いやってしまったのだ。
かつて地球に宣戦布告する前、ロガ星で起きた軍部によるクーデター。その暴走を止める為、彼はノヴァルダー
彼が操るノヴァルダー
それまでAは「闇を斬り払い、この世に光を灯す勇者となる存在」と預言される、正義の象徴だったのに。その預言を大きく裏切る末路を辿り、民衆の不安を煽る結果を招いてしまった。
以来、ロガ星にとってAは「無力な正義」の象徴として、忌み嫌われる存在となってしまった。だから私が地球との終戦協定を結ぶ際、平和の象徴としてAを差し出すことに……ロガ星軍も反対しなかったのだ。
――その後、「彼」の活躍によってサルガが斃れたことで、ロガ星にも地球にも平和が戻り。私の為に戦いを終わらせたいという、アルタの願いは果たされた。
だが……彼と共に戦ったAの汚名だけは、灌がれないままだった。
かに、見えた。
終戦から間もなく。婚約者であるミョウジョウ・ゲキが住む官舎に身を寄せていた私は、彼に連れられ地球の都市――東京に足を運んでいた。
そこで見せたいものがあると言う、彼に案内された先で。私は、言葉を失ってしまったのである。
なんと地球の民の間では、「無力な正義」だったはずのAが――戦争を終わらせた正義のロボットヒーローとして、大々的に報道されていたのだ。
――それに、理解が追いついた時。私は、気づけばゲキの胸で泣いていた。Aの人形を手に公園で遊ぶ、無邪気な地球の子供達を見て、私は泣いていた。
(やった……やったよ、アルタ……! あなたは、やっと……!)
そう。彼を喪ったあの日から、2年の時を経て。私を愛した幼馴染は、この遠い星でようやく。無力という汚名から、解放されたのだ。
私を悲劇から解き放ってくれた、
それを実感した時、私の頬を伝った雫は。
もう二度と流れないとばかり思っていた――「歓喜」の涙だった。
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