たとえ恋を知らなくても

過去に仲違いをしてしまった幼なじみが海で死んでしまい、その直前には謎めいた言葉で残された留守番電話が。

主人公の聖良はその死の真相を知るために、恋を理解できないまま同級生の青井と恋人ごっこをしてゆくのですが、ダイレクトに伝わり響いてくる文章に、展開に、感情に、夢中になっていく自分がいました。

恋愛感情を持たない聖良と三原。(恥ずかしながらアロマンティックということばを、この話を読んではじめて知りました)
恋をしている菜々子と青井。

登場人物たちは等身大の高校生で、10代という感受性豊かな年頃。その中でも聖良はどこか大人でおなじ頃の子とはちがった感性を持ち、けれどもそれはなにひとつだって間違ってはいないのです。たとえば、菜々子の家で居心地悪そうにしている聖良の感情はすごくリアルでしたし、最終話の彼女の視点だって言葉にはうまくできない"何か"を感じるとおもいます。

たとえ恋を知らなくても生きていくことはできるし、恋を知っていて恋に恋していたとしてもまたおなじく。
どの感情もほんとうで、うそもなくて、そこには正解もない。

恋愛、青春と、ミステリーと。
絶妙に折り重なったすてきな物語でした。

その他のおすすめレビュー

朝倉さんの他のおすすめレビュー134