ほんとうに知らなかったものは何だったろう?

心から生まれいでた何らかの感情があるとして、それに名を付け、定義するのは誰か、そして、感情を定義するとはいったいどういうことなのか。

これはとても健全でまっとうな「青春小説」であると思う。主人公、聖良は友人のことを理解したくて、けれど「恋がわからない」と言って、懸命に「恋」を知ろうとする、その中で自分は恋ができない人間なのだ、と考えたりもする。結論を急ごうとするところも、明確な答えを知りたがるところも、自分を定義しようとするところも、まさに十代のみずみずしい高校生だ。

だが、結局のところ、他者と自分は違う存在であり、その感情含め究極には理解しあうことができない。

おそらくある年齢に達したとき、人はみんなこの苦しみに直面してゆくのではないだろうか。この物語は、聖良がまさに直面したその瞬間と過程を描いている。
「おとな」(か、あるいは十代の感性を失ってしまった人間)を自認する私に言わせれば、その結論は人それぞれ。だからこそ自らの答えにたどり着いた聖良の勇気を讃えたい。

聖良は「恋」がわからないという。それが他者との断絶として聖良の前に立ちはだかり、苦みを与える。だから彼女は「恋」を知ることで他者を理解しようとする。
けれども、彼女がほんとうに知らなかったものは、果たして「恋」だったのだろうか?

ぜひとも、聖良の感性のみずみずしさ、その彼女の見つけた答えを噛みしめてほしい物語である。

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