恋を知らぬまま生きてゆく

高校三年生の聖良が、疎遠となっていた幼馴染み・菜々子の死の報せを受けるところから、この物語は始まる。
ドライな聖良とは対照的に――言葉は悪いが、菜々子はいわば「恋愛脳」とされるような人物だった。そして彼女が死んだのも、どうやらその恋が原因らしい。
しかし聖良は、いくら菜々子が死んだ理由を知りたくても、そもそも恋がどんなものなのかわからない。だから知ろうとするのがこの物語だ。

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物語の途中で、聖良は無性愛者ではないかという可能性が示唆され、やがて、「アロマンティック」は彼女の自認にもなっていく。

セクシャルマイノリティを題材にした作品は昨今様々にあるが、その中でも異性も同性も恋愛対象としない無性愛者が本作のテーマのひとつでもあるが、それがすべてではない。
そもそも、異性愛、同性愛や両性愛、そして無性愛など、性的指向、ひいては恋愛指向と呼ばれるものは個人に依拠するところが大きく、はっきりとカテゴライズできるものではない。(もちろんこれは一例だが)男性が好きだけど○○なら女性もOK、みたいに。グラデーションの上に私たちは存在していて、それはとても個人的な問題なのだ。
聖良は恋がわからないかもしれないし、それゆえに他者について想像が及ばない部分もある。けれども、それが「どう」という話ではない。
彼女は幼馴染の死にとまどうひとりの人間だ。幼馴染について知ろうともがく、等身大の高校生でしかない。そもそも、私たちは他者に対してある種の解釈や共感をすることはできても、心から理解したり、分かり合えることはないのかもしれない。誰もが異なる過去や歴史を、思想や価値観を持っていて、そのすべてを知ることはできないのだから。
その上でどう生きていくかが、「恋を知らない」聖良のまなざしを通して描かれている。

聖良が「恋」という理解できないものを希求することで、他者と関わることの痛みが描かれた物語。『恋を知らぬまま死んでゆく』は、とても美しい青春ミステリーだ。

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