「あなたがすき」、その想いが苦しい。

物語は、死の報せからはじまる。
菜々子という幼馴染を失った聖良は、疎遠だったはずの彼女から、奇しくも最期の言葉を聞くことになった。留守番電話に残された「失恋した」という言葉は、菜々子の死が自殺だったのか、それとも事故死だったのかという疑問を聖良とわたしたちに投げかけた。

読んでいて非常に、心動かされた。
青春小説のジャンルが示す通り、高校生たちの剥き出しの感情がぶつけられるから。

聖良と菜々子、そして青井、三原。
永遠に重なることのない想いが、彼女たちの交わす「好き」という言葉の下で渦巻いている。
「好き」が何を意味するのか、人それぞれにまったく異なる(と思われないかもしれない)その感情が引き起こす深刻なすれ違いが、この作品に登場するキャラクターたちを打ちのめしていく。
見ていてとてもつらかった。
どの「好き」も、「恋」も、誰を傷つけるつもりもないものだったから。
悪人はひとりもいない。
ただそれぞれの在り方で生きている高校生たちが、互いを理解したいと切望しながら、本質的にわかりあうことの不可能性へとがむしゃらに近付いていく。その危うさ、あまりにも素直な感情が、端的な文章でもって真っすぐにぶつかってくる。
刺さる、響く。更新されるたび、すこし緊張していた。

わかりあえないということを知る、その孤独は、きっと彼らにはまだ不安すぎる。
だからこそ『恋を知らぬまま死んでゆく』のラスト手前のエピソードがあまりにも優しくて、わたしは涙が出そうだった。
そんな関係はこの世に存在するのだろうか?
存在していてほしいからと願うからこそ、わたしはこの作品がとても「好き」だ。
だってわたしはひとりで、他人と関わり合いながら生きているから。

彼ら、彼女らは相互理解の不可能を超えようと足掻いていた。
それこそが生きることだといえばそうなのかもしれない。
と、ここまで書いて胸に刺さる。

「――ああ、そうか。」

菜々子はもう、どこにもいない。
こうして気がつかされる、物語冒頭の決定的な死。
ようやくたどり着いた感情の先に、本当の断絶がある。
生きた人間なら、傷つけあって、苦しみながら、好きでも、好きじゃなくても、理解できなくたって、一緒にいられるのに。
菜々子は死んでしまったのだ。
何度も何度も、聖良とともに確認してきたはずのその事実を、はじめて知ったかのように衝撃を受けた。

とても端正な物語構成だ、なんて、読み終わってすぐは考える余裕がなかった。
それこそ、聖良のように、「恋しいのかうれしいのかさみしいのか幸せなのかわからないまま」、物語を終えるしかない。
他人と生きていくこと。何百遍も考えたかなしさを、さみしさを、不安を、正面きって突きつけられる。
その素直さ、率直さこそが、『恋を知らぬまま死んでゆく』が何よりも誠実で、素晴らしい作品であると思う所以だ。

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