第11話 一番大事な質問「誰向けの話?」に答えられないようではダメダメだッ!



さて、目の前に、改めて彼の作品のタイトルとあらすじを広げる。


0.2秒でスルーされそうな文言が、再び眼前に開かれた。


――――――――――――――――――――――――――――――

 『The Irregular- Revolutionary』


 どこにでもいる平凡な男。皇琉殺。

 皇琉殺 はダークインパルサー事件に巻き込まれ、カタストロフの真実を知っていく。

 クラインにより明かされる絶望。テクナを失い閉ざされる希望。

 そんな世界で、彼は何を想い、何をなすのか……

 友情の尊さを未だ彼はしらない

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「ぎゃああああああああああ!」


 急にうずくまるほむほむくん。

 そんな中学校の黒歴史ノートを突きつけられた大学生みたいな態度をとって、どうした。


「まず、自分で感想をいってみたまえ……って、それが感想みたいなものか」


「はぁはぁ……。いや!いや!マジで!?

 今、見返すと……すっげーひどいっす!

 あれ……俺こんなにダメだったっけ?」


「うむ」


「うががが……。

 いやだってこれ、何期待していいかとか、何ひとつタイトルからわかんないすよ!

 師匠も、まず読めないし単語分からないって言ってましたよね。

 じゃあ、期待しようがない!

 あらすじも全くわかないっす!新しさもピンとこないし。

 その上、誰向けかとかも当然のようにのってない!

 ダメの見本市じゃないすか!」


「うむ」


「うみみゃあ!」


どういう叫びだ。変な女神でも降臨したのか。


「だが。それが分かるということは、それだけ進化したということだ。

 分からないまま突き進んで爆死するより、よっぽどよかろう」


「むむッ!そうっすね……

 よしッ!じゃあ、これをどう変えるか、考えるっす!」


 促しておいてなんだが、ほんとうに立ち直り速いなこいつ。

 まあ良い事ではあるが。


「うむ。その意気だ。私も相談にのるから、

 まずはちゃんとしたストーリーを教えてもらおう。

 それをもとに、私と一緒に書き換えてみようではないか」


「はいっす!」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「~で。こうなって、こうなるっす」

「ふむふむ。そういう話か。では、売りはこうかな……」

「んで、こういう感じに展開して、こう書きたくて……」

「なるほど。じゃあこういうタイトルがいいか……」

「落ちはこう締めるっす」

「そうか。じゃあジャンルはこんな感じか……」


「~こうで。ああで」

「~ふむふむ。ふむむ」

 


  ~30分後~



「……ほとんど私が全部書き換えたな結局」


「俺は無力っす!すいませんした!」


「まあ、でも」


「はい」


「……出来たな」


「……出来たっす!」


Before

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 『The Irregular- Revolutionary』


 どこにでもいる平凡な男。皇琉殺。

 皇琉殺 はダークインパルサー事件に巻き込まれ、カタストロフの真実を知っていく。

 クラインにより明かされる絶望。テクナを失い閉ざされる希望。

 そんな世界で、彼は何を想い、何をなすのか……

 友情の尊さを未だ彼は知らない

――――――――――――――――――――――――――――――

   ↓  ↓  ↓

After

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『俺は逆行して、異世界デスゲームの主催者をぶっ潰す! 』


 ある日突然、クラスメートたちと一緒に召喚された主人公。

そして唐突に始まる、現地の大量の犯罪者たちを含めた、生き残りをかけたデスゲーム。

 だがそれは、異世界の王侯貴族が、殺し合いを眺めて楽しむための、ゲームだった!

 ゲームも終盤、そのことを知った主人公は、屈辱の中、

 友人の命を賭した逆行能力発動により、改めてゲームをやり直す。


    ゲームをクリアーするためではなく、ゲームを主催者ごと破壊するために……

 

 これは死体を操る能力(ネクロマンサー)をもつ主人公が、デスゲームの根本を否定し、

 友を助け、女の子を助けながら、主催者をぶっ潰すまでひたすら快進撃を続ける物語。

 犯罪者、スパイ、暗殺者、軍……誰が敵に回ろうと、復讐のため、主人公の無双は止まらない!

――――――――――――――――――――――――――――――


「……元と全然違くみえるっす」

「……そうだな」

 

 というか一緒に見えたらそいつは目がおかしい。完全に原型がない。

 前者が後者をパクリで訴えても100%敗北するだろう。


「……」

「……」


「……結構面白そうに見えるっす」

「……見えるな」


 下手すると、タイトルあらすじ第一話だけの、

 期待ブクマだけでも100ぐらい行くんじゃないだろうか。


「……」

「……」


「……なんか見落としてました?俺」

「……おもいっきりな」


 スタイリッシュなタイトル目指すと、大体そうなるけどな。

 格好いい響きと、実用性の両立の難しさよ。


「……」

「……」


「あれえ?お、おかしいっすよ!なんでこんな別物に!割りと面白そうに!

 俺が元々作った話で、中身はほとんど変えてないのに!」

「他人事ながらいうが、ここまで変わるのも珍しいな」


 ふぃー……と、水蒸気の煙を、虚空に吹きかけ、一息つきながらそうこたえる。


「……師匠!一体師匠は何をどうやって!まさに俺の書きたいのそのままっす!

 なんでわかったんすか?

 ハッ、これぞまさに超能力!?俺の内面を覗き見たっすか?やはり師匠はエスパー!」

「違うから」


 ビシィっとチョップを、彼の脳天に叩き込んでおく


「くぅう……!師匠!一体何がダメだったんすか!?いや、色々あるけど、一番は何が!?

 今後のために教えてくださいっす!」


 ガバッと、食い気味にぐいぐい寄ってくるほむほむくん。

 

「近い近い!ええい、ちゃんと説明するから離れたまえ」

「ハッ……すいません。つい、熱くなって」

「いや、良いけどな。変わったということに満足せず、方法論をものにしようとする姿勢は」

「いやーはっはっは。俺、魚よりも魚の釣り方を欲しがるタイプなんで!」


 ドヤ顔がうざい。


「ドヤ顔がうざい」

「師匠、口に出てます!」


「……。そうだな、とにかく悪いところから指摘してくと」

「スルーした!!」


 知らん。大体、魚自体も私があげただろうが。

 ほぼ全部書き換えたんだから。


「まあ、デスゲームとかいう一番大事な情報を伏せてたのも変だが……

 それよりも、なんで俺TUEEE系だということを書かないのだ?

 復讐とかもだ。

 つまり『どんな話か』というとこだ。

 一番大事なところだぞ。こういうのはな」


「ええ、だって。作品テーマとかでもないし……。

 『どんな話か』、なら前のだってあったすよぅ。

 師匠、友情云々とか、なんで入れなかったんすか?」


「作品テーマってのは『どういうメッセージを込めるか』に近いからな。

 売りとはまた違うから、入れても客層を固定することにならん」


「でも、俺TUEEEとか復讐とかはいれるんすよね?なんで?」

「それは簡単だ。さっき言ったように『誰なら喜んでくれる話か』ってのを考えればすぐ分かる」

「誰なら喜んでくれるか、っすか……」


「そうだ。この話、さっき詳しく聞いた限りだと、プロローグ以外は基本負け無しなんだろう?」

「そうっす!バリバリ無双っす!デスゲームで生き返るスキル持ちですからね!

 反則っすよ。チートっすチート!

 もう、最近デスゲーム読むんスけど、主催者がのうのうと過ごすのが多すぎてイラッときて……

 誰かちゃんと主催者潰すの書けよ!って思って、でもないんで、それで、もう俺が書こうかと……」


「うむ。いい動機だ。

 ……つまり、それこそが、まさに一番大事にすべきお客だな」


「それ……?どれすか?」


「今自分でいったじゃないか。

 『デスゲームで、主催者を誰かぶっ潰す話かけよ!』

 って思ってる人だよ。

 それが、君の作品を一番楽しんでくれるお客だ」


「そ、そうだったんすねー!それが俺の作品を一番楽しんでくれるお客!」


「実際、どうだ。そういう人が来てくれたら、満足させれる自信はあるんだろう?」

「あるっすあるっす!だってそういう話書きたいわけなんで!」


「となれば、後は話は簡単だ。

 そういう人達にむけて『デスゲームで、主催者をぶっ潰す話』

 というようなのが、『分かりやすい』……いや、『探しやすい』タイトルあらすじにすれば良い。

 それが『何期待していいかわかる』ということだ」


「そっか!そっかなるほど。そう考えると、だから前のタイトルはダメなんすね!

 『皇くんが、何をなすのか……』に興味あるお客なんかいるわけないからってことで!」


「そういうことだ。さらに解ってきたようだな」


「なるほどなるほど。じゃあ、『異世界』とかいれてるのも

 『異世界ものよみたい』って人に向けてるからで。

 『逆行』っていれてるのも、未来知識で無双するのが読みたいって人に向けてるからってことすか」


「その通りだな。ついでにいえば、『ひたすら快進撃』とか

 『主人公の無双は止まらない!』とかは、そういう無双しまくりが読みたいという人が

 反応するようなワードとしていれている。

 ついでに、努力型が好きって人を排除するように入れている」


「確かに、快進撃っていうワードだと、努力で勝ち負けって感じではないすねー。

 ちょっとそういう人がこないのは惜しい気もするっすが……」


「何度もいうが、そこで色気出さないのが集客で大事なことだ。惜しくもなんともない。

 覚えておくといい。集客は、狭いほうが広くなるものだ。

 実際、努力型を好む人がきても困るだろう?

 この話、そういう、負けたり勝ったりみたいな話を期待されて、それに応えれると思うか?」


「いや~それはキツイんじゃないすかねえ。別に努力は言うほどしないっすから……

 あと、俺が書きたいのは、別に主催者と勝ち負けする話じゃなくて、圧倒的に叩き潰す話ですから。

 勝ったり負けたりとか、そういうのを期待されても困るっすよ。

 それに、デスゲームっていう話の展開上、

 努力パートや修行パート~みたいなのを長々入れるつもりも全然ないっす」


「だろう?要するに『俺TUEEE系統』だ。そういうのを好む層に刺さりやすいとみた。

 だから、そういうのを匂わせるタイトルあらすじにしたというわけだ。

 むしろ、あらすじに直接『俺TUEEEです』と書いてもいいぐらいだ」


「ええっ、いいんすか?そんな直接!先がわからないのが楽しいんじゃ!?」


「俺TUEEE好きは先が分かるのが楽しいから、この手の作品なら問題ない。

 彼らが楽しみにするのは描写や過程であって、結末じゃないからな。

 ワクワクしたいが、ハラハラしたいわけではない。

 だいぶ前に感情の話をしたな?小説の役割の話だ。

 彼らが求めてるのはワクワクやスカッとだ。

 ワクワクさせれれば、ハラハラの必要はない」


 逆に努力好きの人は、結末を伏せる戦いを好むように思う。

 常に伏せるべきと言う人もいるが……これはその人がそういうタイプなのだろう。

 結末が分からないと安心して読めない、という人は多い。

 私は、これは素人相手だからというのも大いにあると思う。


「はえーそうなんすねえ」


「まあ、それがターゲット理解ということだ。

 『こんな作品を待ってたんだよ』といってもらえるような、タイトルとあらすじ……。

 それが、お客の方を向いた文章というものだ」


「なるほど……」


「この『誰向けの話か?』というのは、『どんな話か?』という質問に

 答えるのが苦手な人向けの質問だな。初期の君みたいな」


「うっ……。返す言葉もないっす!」


「まあ気にしなくてもいい。

 どんな話か?というのを、作者自身よく解ってない……

 というか、頭の中にはあるが、言葉にイマイチできないというのはよくあるからな。

 実際、君も別に、最初のあらすじ案で、『どんな話か?』を説明したつもりになってただろう。

 しかし、実際には良く分からない説明になっていた」


「うーん。そうなんすよねえ。

 ダメだってのが解っても、実際どこを抜き出せばいいかがよく分からなくて……」


「その時に『誰に向けての話か?』『誰に来てほしいのか?』という質問だと

 上手く引き出せる事が多いぞ。

 これは重要なレッスンだ。

 レッスン9『誰向けの話か?』これをターゲッティングという」


「レッスン9!

 『誰向けか?』なるほど!」


「ターゲット選定……。

 これは、本当に大事だぞ。100回いっても1000回いってもいい。

 これが設定されてない商売は100%コケるといっても過言ではない。

 それぐらい大事だ」


「えっ……なんか、今までと雰囲気違うっすね……。

 そ、そんなに大事なんすか?」


「ああ。そんなに大事だ。超大事だ。


 『誰向けの商品なのか?』


 これは全ての、ありとあらゆる商売の根幹をなす問いだ。

 ここを違えたら、全てが連鎖的に失敗する。

 いいかい。商品の善し悪しは、客が違うだけで評価も全て変わるんだ。

 ここは、強く、強く、強く!意識せねばならない。


 ここだけは、おちゃらけはなしだ。

 マジで、大事なんだ。

 良いかな?」



「わ、わかったっす……!

 そこまで師匠が言うなら、脳みそに、刻みまくるっすよ!」



「そうだ。誰向けか?は、書くときに、超大事になることだ。

 逆にいうと、誰向けか、がハッキリしないタイトルは、大体失敗してると言っていいな。

 自分の書きたいことだけに注目すると、結構なりやすいことではあるが……」


「そんなにあるっすか?」


「まあ、タイトルあらすじがダメって作品の8割はこれだといっても過言ではないな。

 作品の説明はしている。しかし、誰向けなのかがピンとこない。

 あるいは、作品の中身と違う人を呼び込んでいる」


「違う人すか」


「例えば、幼女人気だからといって、タイトルやあらすじに幼女要素いれたものの、

 本文には幼女を愛でるようなシーンが殆ど出てこないとかだな。

 これではロリコンが激おこがっかりする。がっかり客の集客など、100害あって1利なし。

 目先の人気ワードだけみてると陥りやすいが、最強と書いて負けまくったり、

 努力ものと書いてチート無双だったり、こういうタイトルはしょっちゅうある」


「うっ……こころあたりが!」


「集客できるからいいじゃん!って思うかもだが、前いったように

 一瞬の集客にはよくても、長期的には敗北する。

 長期的には、客を呼べない集客になる。

 特になろうは評価ポイントの存在がでかいからな。それを取り逃すのは得策ではない」


「OKっす!」


 本当いうと、嘘ではない……ぐらいならOKだったりするが

 そういうグレーゾーンのラインの調節はとても難しい。それに習得する必要もない。


「まあそういうわけだ。誰向けの話か、そして、何を期待していいか。

 そこを意識して書けば、それなりのタイトルあらすじができあがるだろう」


「なるほどっす!今度から、それを意識して頑張るっす!」


「うむ。頑張ってくれ。期待してるぞ。

 いいかい、繰り返すが、わかり易さが第一だ。それは全てに優先するのだからね」


「大丈夫っす!

 分かりやすく、面白く、新しく、っすよね!

 あざっしたっす!」


 ビシッ!とキレイなお辞儀をするほむほむくん。

 うむ。態度で表すのはいいことだ。

 まあ、今度また炊事と掃除と洗濯でもやってもらおう。


 そんな思惑を、煙にのせて吐き出す。

 ふぅ……。


「何か悪寒が!」


「……勘の良い奴。しかし、長話したせいで大分時間たったな……。

 ふむ、今日は作ってもらおうかとおもったが、ちょっと疲れただろうし

 飯でもたべにいくか?

 焼肉とはいわんが、ラーメンぐらいならおごってあげよう。

 ここらへんに美味しいラーメン屋があるのでな」


「マジっすか!師匠最高っす!

 なんて名前のラーメン屋っすか?」


「……。

 ザ・ラーメン、だ」


「なんか、今までのが台無しになる名前っすね……」


「いうな」


味は良いのだ。味は。

 


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※一周回って斬新である可能性が微レ存……?

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