第4話 Web小説は、漫画もアニメも映画も超える、歴史上最高の創作媒体なんだッ!


 氷室(ひむろ)家の一室。

 引き続き頭を抱える男がそこにいた。


「タイムラグ……っすか?うーん……」


「ふむ……では逆に聞くが、火村(ほむら)君よ、

 君、なんでWeb小説家をそんなに卑下するんだ?」


「だって!そりゃあ、あれっすよ。

 こんなこといいたくないけど、例えば、ほら。

 あれっすよ!

 小説って特別な技術とか、才能とかいらないじゃないすか!」


「ほう?なんか敵を作りそうな言い方だな」


「あ、いやいや!その、イラストスキルとかそういう次元で!

 漫画とかは絶対ド素人が今日明日で公開って無理っしょ!

 でも小説は、日本語書けるなら基本誰でも書けるし。

 漫画かけたら、すげーってなるけど。小説とかあんまないし。

 上手いイラストとか書いたら、クラスでも注目されっけど

 文章かけてもオタくさくみられるだけだし……


 誰でもなれるっていうか!

 まあ、俺でもなれるっていうか……」


「そう、それだよそれ。それこそが、一番最先端である理由だ」


「え?」


「特別な技術がいらない……。誰でもなれる……。

 しかも、すぐなれる……。

 君みたいに、何も考えて無くても、技術がなくても、修練してなくても、

 ミーハーでも、ノリでも、それなりにはできる……」


「自分でいってなんすけど、凹むんで!そんぐらいで!」


「分かってないな。

 『誰でもすぐなれる』

 これが、一体何を引き起こすのか。

 これが、Web小説界に何を引き起こしてるのか?

 何故、Web小説家が素晴らしいといえるのか?

 全てはここに起因してるというのにな」


「ええッ……そ、そうなんすか?」


「そうだ。これはだな……。

 『流行りにもっとも敏感な業界』

 であることをもたらしてるんだよ」


「流行りに……敏感??」


「分かりづらいかな?だったら、『流行の最先端』っていう認識でもいいぞ。

 いいか?


 君が、アニメを見て『エヴァおもしれー!

 これ系、絶対売れる!俺もこんなアニメ作りたい!』ってなったとしよう。

 でも、それが叶うのは何年後だ?技術を高め、人を集め、金を集め……。

 普通の仕事を犠牲にして、ギャンブル気味に、叩き込む。

 しかし、全てが上手くいって完成したとしても!

 それに10年20年かかってたらどうだい?

 いつの間にか、エヴァっぽい作品は飽きられ、

 君が登場するころには、とっくに廃れてる。こんな現状だってありえるわけさ。


 ところが小説……しかもWeb小説はどうだ?

 異世界クラス転生おもしれー!悪役令嬢転生おもしれー!

 俺も書きてー!って思ったら?」


「もうその日のうちに書くっす!下手したら次の週には投稿しはじめてるっす!」


 テンションが上ってきたのか、腕を振り回す火村くん。単純なやつ。


「そうだろう?

 そうして、あっという間にたけのこのように、流行りが拡散するのがWeb小説界だ。

 『読み手』と『作り手』の境界が非常に低く、

 『読み手』から『作り手』になるタイムラグ差がほとんどない。

  ついでにいえば『プロ』と『アマ』にもほぼ垣根がない業界なんだ。

 漫画や映画は、プロとアマに大きな差がある。

 一朝一夕に絵やカメラが上手くなったら世話はない。

 だが、小説はありえるのだ。プロとアマの境目はほとんどない。

 昨日今日書き始めた人が、あっという間に書籍化……よくある話だ。

 『今日の読み手は、明日の作り手』でもある。漫画やアニメですらこうはいかない」


「な、なるほど……。

 確かに俺、流行りものみて、かきてーってなって、その日に書いたっす!」


「そうだ。覚えておくといい。

 作り手が『今はこれが流行ってる!うける!』って確信しても。

 作って届けられなければ、意味はない。


 そして小説は。読者が『これ新しい!面白い!』と思ったら……

 読者が『これうけるんじゃね?よくね?』と思ったら……

 明日には作られる!

 こんな速度で作られる創作物(ストーリーもの)が他にあるかな?


 漫画でも1話1ヶ月。1冊作るのに何年かかる?世に出す前に流行りが廃れたりはしないのか?

 アニメなんて個人で作れるもんじゃあない。まず流行の後追いさ。

 『良いと思ったものを、世に出すまでの時間の短さ』

 これこそがWeb小説の最高の利点であり、強みだよ。

 流行に乗ってみっともない?


 バカを言うな。流行を意識せずして、何が小説だ。

 その反応速度こそが、小説最大の強みであり、消えない理由なのだ」


「なるほど……」


「そういう目でみると。アニメや映画に対して、こんな事を思ったことはないか?

 『今これをやればウケるのに……。何故やらないんだ?』とか」


「ああ……あるっすあるっす!」


「あれはな……気付いてない可能性ってのも勿論あるが。

 もう一つは、気づいても動けないってのも大きいんだ」


 ふぅ……と電子タバコの煙をゆらかす。

 水蒸気でできたそれは、通常の煙よりも儚く速く虚空に消えていく。


「どんなにクリエイターに、時代の需要を読むセンスがあろうとも。

 それを反映させる媒体に『速度』がなくては意味がない。

 そしてその速度は、コストが軽くなるほど早く、重くなるほど遅くなる。

 そしてコストが最も軽い媒体は、Web小説。

 ゆえに『時代の最先端は、Web小説にあり!』そういえるわけだな」


「おお……!

 あれ?ということは……もしかして、もしかして映画とかって!

 こういうとアレですけど、流行遅れ、が多いんすか?」


 ふむ、いいところに目が届く。


「よく気づいたな。そのとおりだ。

 Web小説が一番速いというなら、次に速いのは、まあライトノベルや一般小説だろうな。

 まあ一般小説はオタクコンテンツとしてはちょいと潮流が違うがね。

 その次が、漫画だね。そしてその次が、1クールアニメ。最後が映画かな。


     【Web小説→ラノベ→漫画→アニメ→ドラマ・映画】   


 流行は、まあ乱暴にいってしまえば、この順番に伝播してくのさ。


 それぞれの媒体で『面白いのひらめいたぞ!』って人がそれを作り始めて。

 世にでてくる順番が、こうだからな。

 どうしても映画は製作速度の順番で遅れる。今日明日で完成などせんからな。

 まあ、媒体ごとの得手不得手もあるし、時代を先取りする人もいるし、

 化物みたいな製作速度の人もいるからこれが全てではないけどもな、ま、概ねね」


「概ねすか」


「概ねだ。まあ、原理原則というやつだな。

 細かい例外なんかはいくらも見つけれるが、

 例外を軸に語っても仕方がない。私がしてるのは本質の話。

 枝の話でも葉っぱの話でもない、幹の話だ」


 特に媒体の得手不得手はでかい……

 まあ、語ると長くなるし、面倒だからここではいわないが。


「あっ……!じゃ、じゃあ!

 俺閃いたんですけど!……もしかして!

 『Web小説をみていれば、次にアニメとかで何が流行るかは分かる……?』ってことすか?」


「ほう……、素晴らしいね。大体そのとおりだよ。

 火村君とは思えない推理の冴えだ」


「やったぜ!褒められた!」


 褒めてない。褒めてないぞ。可愛いからいいけど。


「そうだなー。ちょっと前の例でいうと、ソード・アート・オンラインとかね。

 ふふふ……私は初期からあれをリアルタイムで見ていたけど、

 絶対に一般でもウケると思っていたぞ。

 Webでウケるものは一般でもうけるのは当たり前なのだからな。

 特にラノベ好きとアニメ好きは、好みがだだかぶりであるわけで。


 それを昔いったら、WebだからウケるだのWebの読者はレベル低いからとか

 色々言われたが……ふふふ。今頃あいつらどんな面をしてるやら……ふふふ。

 そうそう、SAOの作者さんのHP乗っ取られ&盗作告発事件を知ってるか?

 あれは実に面白かった……センスあるのは明白なのに、大体……」


「師匠!戻ってきて!師匠!

 顔が暗黒面に落ちかけてるっす!女の人がしちゃいけない顔に!」


「……ハッ!

 ……コホン。むふん。


 まーそういうわけだ。

 アニメ好きとラノベ好きとWeb小説好きは、ほぼ好みがかぶっている。

 SAOの連載開始はもはや18年ぐらい前になるが、その頃から爆発的な人気だったぞ。

 ラノベは8年遅れでそれを受け入れた。

 アニメはそこからさらに4年遅れた。トータル12年の遅れだ。

 それで、今更今の時代は俺TUEEEだのなんだのがうけるとか言ってたりしたから

 それはちょっと認知が遅いと思うね。

 そんなものはもう、18年前から分かっていたんだからな」 


「へー……ていうか師匠……やっぱ結構年食ってるだけあ……

 ひぃっ!な、なんでもないっす!」


「……」


 ……水蒸気を吹き付けてやろうか。


「何もいってないっす!すいません!」


「……ま、そういうわけだ。事実、ラノベの流行はそのまま遅れてアニメにもいっただろう?

 今、Web小説の流行が、遅れてラノベへ。

 そして、アニメへ。そういう流れが起こってるだけだ。

 だからアニメファンが流行を語る頃には、ラノベの流行はそれ何年前の話?ってなってるし、ラノベの流行を語るころには、Webは1歩さらに先へ言っている。


 人外転生ものとか、悪役憑依ものとか、そのうち他媒体でも流行りだすんじゃないのかい。だから、卑屈になることなど何もない。


 『Web小説家は流行の最先端にいる!』


 流行の開拓者というわけだな。そこを意識すべし!というのが私の持論だ」


「師匠……!俺!なんかすっげー元気でてきたっす!

 アニメとか漫画に卑屈になる必要は、なかったんすね!

 俺は今、流行を生み出す場所にいるんすね!」


「うむ!そのとおりだ!」


「漫画だけ読んでる人よりも、アニメだけ見てる人よりも、

 流行を先取りしてる場所にいるんすね?

 誰よりも時代の先をみてるんですね!」


「うむ!そのとおりだ!」


「ということは、なろうとかの流行りが正義であり、

 なろうとかで流行らないのは、一般でも流行らないとかも言えるわけっすね?」


「うむ!それは言えないけどな」


「えぇ……」


 身を乗り出し拳を掲げていた火村が、盛大にその行き場をなくす。


「なんでっすかぁ~。さっきまで言ってたのと違うじゃないすかぁ~」


「別に違わない。私が言ったのは、

こっちで当たったものはあっちでも当たるというだけで。

 こっちで当たらないから、あっちでも当たらないという話ではない。

 媒体の違いがあるからな。文字のみという媒体では、

どうしてもカバーできないジャンルはある。

 詳しい話はまた今度にでもするが」


 ホラーとかが代表だ。ああいうのは映像作品のほうが強い。

 自動で進むし、音とか使えたほうが強いに決まってる。


「うーん。ということは、

『流行の先端ではあるけど、流行を網羅する立場ではない』ってことっすか。

 それは、文字では限界があるジャンルがあるからだと」


「まあ、そのとおりだ。中々理解がはやくてよろしい。

 先端の1つではある。だが先端の全てではない。

 付け加えるなら、手の早い媒体は文字以外にもあるからというのもある。

 漫画もツイッターレベルで雑に書くならいうほど遅くない。

実際、ツイッター1コマ漫画みたいなのは、小説に勝るほどの速度性能があるだろう。

 16ページ商品レベルに書き込むから遅くなるんであってな。

 実際エッセイ漫画みたいな気楽な分野は非常に筆が速い人も多い」


「うっ、たしかにツイッターのエッセイ漫画系は、めっちゃ速いっす!

 今日あった出来事を、今日あげてるというか!」



「それにやる夫スレというのもある。マイナーだが、こっちも手軽さじゃ中々のもんだ。

 やる夫スレ系の流行→ラノベ・漫画への移動・流行という流れもそのうち見れるだろうよ。

 ……というか、いくつかは事例あったな。そのうち、それも当たり前になるかもな。

 私見だが、原作者としてスカウトしたい人材はあそこゴロゴロいるぞ」


「やる夫スレ……なるほどっす。そっかー」


「まあ、とはいえ、それを踏まえても、やはり量産性は随一と言わざるをえないがね。

 ゆえにこそ、私は小説や文字媒体は素晴らしいと思うのさ。

 この強みを、とにかく覚えておくんだよ」


「はい!」


「だが逆も言えるがね」


「逆……?」





「小説の強みは、製作コストの低さ。

 そこから得られる『速度』というのは話したな。

だが、逆にいうと……『速度』を生かせない小説は

強みを大幅に削っているということだ」


「あっ……」


「単に流行に乗っかる、取り入れる速さだけじゃないぞ。

お客の意見を取り入れて修正したり、舵切りを変えたり。

そういう『バージョンアップの速度』も強みなのだ。

が、そこらへんを一々鈍らせてると……強みを殺す。

『妄想の鮮度』という最高の財産を腐らすことになる」


電子タバコの煙を、ふっと吐き出す。

水蒸気で出来たそれは、あっという間にかき消えていく。


「良いと思ったのを即座に取り入れれるからこその強さだ。

 製作に何年もかけていては、そのメリットを殺すことになる。

 速さと貪欲さは、常に意識しないと、他媒体に遅れをとってしまうよ」


「うっ……覚えときます。速さっすね!」


「そうだ。速く書き、速く見せ、速く反応をもらい、速く書き直す。

 これこそが、小説が他より圧倒的に質を高めれる随一の理由だ。

 漫画なら書き直しに1ヶ月かかるところ、1日でできる。

 創作とは作り直しの連続だ。ここを生かすことこそ、小説家の強みだ。

 Webならなおのことな。修正が早い、ということは大切な武器だ。

 この武器を腐らせてはいけない」


「修正を恐れない!ってことすね!」


「そうだ。むしろ、それこそを武器にする勢いだ!

それこそが強みなのだから、大いに利用しよう。

 速く、そして、失敗を恐れない。それこそが、Web小説の強みだ。

強みを活かしてこそ、良い商品が生まれる」


「むしろ武器にっすね!了解っす!」


 一切失敗しないという人がいたら別だが……。

 そんな人はいない。だからこそ小説は強い。

 創作の速さ、書き直しの速さは、間違いなく武器といえる。



「さて、Web小説家の素晴らしいところはここだけではない。

 ……まだ、大事なものが残っている」


「『最高の量産性や、最速の流行性』に加えて、ま、まだあるんすか?

 一体なんなんすか?

 おらぁワクワクしてきたぜ!」


「ふふ……。そう急かすな。

まあこれは『商品としての強み』というより、旨味、といったほうがいいとこでな」


「旨味!」


「それはだな……『もっとも人生一発逆転を狙いやすい創作ジャンル』でもあるからだ。

 そう、アメリカン・ドリーム的なやつだ」


「アメリカン・ドリーム……ですか?」


「そーだ。

 最初に君がいったよな?

 ラノベ市場とかは、漫画市場やアニメ市場よりも小さく、映画とは比べるべくもなく

 もっとも売れてるラノベですら、中堅の漫画と同じような売り上げ。

 ワンピースなどの売り上げにはとても及ばない……と」


「え、ええ。言いました。あれも悔しいっす。

 別に売り上げで負けたからどうってわけでもないけど、奴が偉そうにしてんのが……」


「確かに全体収入としてはそうかもしれない。

 だが、その視点には『代償』が欠けてないか?

 個人の生活としては、どうだろうな?」


「代償?と、生活……ですか?」


「そうだ。例えば、先程のSAO(ソードアートオンライン)の作者。

 川原氏は、普通に仕事の傍ら作品を書いていた。

ついでにいうと、投稿作はさらに別に書いていた。他にも書いていた。

 これを8年以上続けた。その文量たるや何百万文字クラスだ。

 そしてそれを一気に10何冊分も放出し、連続刊行して

 今では累計2000万部近い売り上げ……一冊50円の印税としても10億になってるがな、

 漫画でこれを狙うのが、片手間で出来るだろうか?

 1人で、コミック10冊以上の書き溜め(書き直しほぼいらないレベル)を仕事と平行してできたかな?

 しかもその間に、他の作品も数作仕上げているのにだ」


「それは……」


「Web小説家の代表が、川原氏であるなら、

 Web漫画の代表はワンパンマンのONE氏だろうな。

 だが、氏は失礼ながらあの絵とあの更新速度ですら、

 段々仕事などの両立がきつくなり、漫画家をやめる瀬戸際までいってたらしいな。

 アイシールド21の作者の説得でギリギリ踏みとどまったようだが。

 いわんや、そんなスカウトがない他のWeb漫画家はどうだ?

 私は時々思うことがある。

 もし漫画が、小説ぐらいの手軽さで書けていたなら、彼らは消えていなかったかもと」


「……」


「『億クラスの収入になるかもしれない作品を、片手間の時間で作れる』。

 こんな夢のある話が、他の業界でそうそうあるか?

 知っているか?ラノベ作家が賞を取った時には、兼業を進められることも多いそうだ。

 そんなのが漫画でありえるかな。

 間違いなく、連載を本気でやりたいなら仕事やめたまえってなるだろう。

 リーマンと兼業してるまともな連載漫画家なんていないだろう。


 夢か、生活か。大当たりか、大外れか。まさしくギャンブルだ。

 ハズレたら何も残らない。安定との両立はできない。

 夢もいつまでもおえない。金もかかる。

 年がいったらもう諦めなくちゃいけない。家族もできるからな。

 アニメーターなんてもっと酷いもんさ。

 安定どころじゃない。まずマトモに生きれるのか?という環境だ」


「……俺の場合、まず親が反対するかもっす」


「そう。それが普通だ。でも、小説界隈はできる。できるんだ。

 安定を取りながらも、一攫千金を、夢を追える。

 趣味の延長線上に、夢がある。

 趣味の時点で、親の説得に苦労した、

 なんて小説家の話があるかい?ほとんどないだろう。

漫画はよく聞くのにな。いつまで漫画描いてるんだ、と。

 だが小説はない。何故なら安定との両立が可能だからだ。

 売れる、その瞬間まで兼業が可能。下手すると売れた後でも可能だ。

 漫画やアニメは、仕事という賭けの延長線上だ」


「そっかー。そうきくと、なんか夢のある場所っすね!」


「そうだよ。夢に時間制限がないだけでも、素晴らしいことだ。

 家族をもったら、当てれてない漫画家志望やアニメーター志望は、相当きつくなるだろう。

 漫画を捨てることを迫られるかもしれない。

 家族か、夢か。その択をつきつけられるかもしれない。

 しかして小説はそうじゃない……労力コストが非常に軽いからな」


「そう考えると、凄いホワイトな場所にも見えてきました……!」


「その上、あたった後も違う。

 ワンピースの作者は、連載開始からこっち、ずっとまともに休日がないそうだ。20年ほど。

 睡眠3時間で、食事以外は全て仕事。まあ半分はやりたくてやってる部分はあるだろうが、

 いくら億万長者でも、ちょっと考えてしまわないか?

 休日がある漫画家は、大抵分業制が徹底的に進んだ漫画家が多い。

 でも、SAOの作者は、多分旅行なんか割りといってるはずさ。休日が十分にあるということだ。

 まあ、Web連載+仕事ってしてたころから、隙あらばサイクリングとかしてた人だしな。

 彼以外でも、ラノベ作家は旅行好き多いし、そもそも旅行先でも仕事できるからな」


「ううっ、師匠。俺、休日は欲しいっす!

 やっぱここって、素晴らしいんすね!」


「当然だよ。

 実際、例えばなろうからは1500作品ほど書籍化されてるしな……。

 素人がデビュー1,2ヶ月で書籍化もある。漫画でこんな速度でできるか?

 いくつかはアニメ化され、成功もしている。

 素人が夢を見る場所としてなんともいいことじゃないか」


「いい時代っすねぇ」


「まあ、ここは時代そんな関係ないといえばないがね。

 別に、書籍化ラッシュが来る前から、これは見えていたことだからな」


「そ、そーなんすか?」


「そうだ。ラノベと違って、自由に発表できるんだよ?いつでも審査してもらえるんだ。

 しかも、審査員とかいう少数じゃない。直接買うであろう、直接の読者に、大量にだよ。

 こんないい場所が他にあるかい?

 金もかからないから、何度でも、何度でも、当たるまで失敗が、ノーコストでできる。

 時間だって他の媒体に比べたらかからない。

 そして、ここでトップ取れるなら、それはもう世の中でも当たるさ。

 特にオタク系コンテンツに関しては、ネットと一般でほぼ差がないといっていい。


 ちゃんと目端のきくひとは、今の書籍化ラッシュの前から、

 Web小説界隈を、ラノベの賞の投稿前のテスト場所として使ってたよ。

 今は目に見えやすくなっただけで、役割は昔からそんなに変わってないさ。

 こんなにも、実力をあげやすく、かつテストしやすい環境はそうそうない」


「そっかーそんなにいい場所だったんすねー……」


「そうだ。

 ゆえに少なくとも、なろうが消えることはあるかもしれない。

 だがWeb小説という界隈が消えたり寂れることは、ほぼありえない。

 人類が文字を友達とする限りね」


「なるほど……」


「だからこそいえる。

 まとめよう。

 Web小説は、最多の量産性をもち、

 最短で流行りの最先端に位置することができ。

 最速で書き直しに対応でき、

 最大の収入コストパフォーマンスをもつ、

 『最高のストーリー具現化媒体である』とね」


「こんなにあったんすね!

 最多にして、最短。最速にして、最大……ゆえに、最高!

 なんかかっけーっす!」



「そうだ。カッコいいのだ。

 改めていうが、 ストーリーを求めるのは人類の本能、

 その人類の本能に最も貢献する媒体こそ、Web小説だ。

 Web小説は素晴らしく、ゆえにWeb小説家も素晴らしい。

 そして、他媒体にはない、圧倒的な武器を持っている媒体なのだと。

その強みと誇りを認識してこそ、良い商品ができる」


「おお……師匠!」


「何だい」


「なんか燃えてきました!

 俺、今まで、卑屈になりすぎてたっす!

 これで……これで……!」


「ああ」


「これでハヤブサのやつに、言い返すことができます!!!やったぜ!」


「……」


「……あれ?師匠!?なんか怒ってません?

 ……。……あ、師匠!顔、顔こわいっす!

 あ、あれ、あれっす!言葉の綾です!えっと、もっと胸をはれます!って意味で!」


「……はあ……。まあ、いいけどね。

 しかし君も物書きなら、言葉にはちゃんときをつけることだ」


「はい!大丈夫っす!ハヤブサにあっても、もうぐぬぬしません!」


「……。

 いくら技術がいらないとはいっても、

 君はもっと、語彙力を鍛えるべきかもしれんね」


 それともある意味、語彙があることになるんだろうか?

 ぐぬぬする、という動詞?はアリかナシかについて、

 考えてるうちに、火村は「失礼しましたー!」と出ていった。


 来るときも突然なら、帰るのも突然だ。


 でもどうせ、また、すぐなんかぶつかると来るんだろうなー……


 全く、退屈しない奴である。


 ため息をつきながら、窓から、ダッシュで帰る火村を眺めたあと、

 私は薄暗い部屋の中、作業に戻るのだった。 



■■■■■■■■■■■■


■■■■■■■■■■■■


 カタカタ……カタカタ


 ある日のこと、お互いのPCの音が部屋に響き渡る。

 何をしているかというと、

 私はコピーライターの仕事を。

 彼は、自作小説を書いている。

 特にお互い邪魔しない、ただ作業するだけの時間だ。


「……そういえば、火村君」


「なんでしょう?師匠」


「師匠はやめ「いやっす」……。

 ……前いってた君の隣のやつのことだけど。ハヤブサって、中々カッコいい名前だね。本名?」


「ああ、あれはハヤいブサイクって意味す。略してハヤブサ」


「えぇ……」

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