第2話 そもそも小説とは何のためにあるか、君は答えられるか?

元々なろう攻略としてなろうに投稿していたものなので、ご了承の上お読み下さい。

知識自体はネット小説全般に使えると思いますが、会話はなろう中心に行っています

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 さて、何から語るか……。

 そうだな。

 テクニックから語ってもいいが……、それでは軽い案件になってしまうだろう。

 ここは1つ、アレをわかってるかどうかをまず確認させてもらおうか。


「では、早速レッスンを始める前に……1つ君に質問しよう。大事な質問だ」

 

 一息つき、火村君の目を見つめながら、真剣な面持ちで言葉を投げかける。


「は、はい!な、なんっすか?」

  

 それに対し、私の雰囲気を察したのか、姿勢を正す火村君。

 うむ。態度が真面目なのはいいことだ。


「世の中には、数多の小説があり、お金をもって取引されている……。

 趣味として小説を読むことは万人に認知されており、実際万以上の人に売れる!

 一発あてれば、億の収入も夢ではない。それが小説という【商品】だ。

 そうだな?」


「そっすね!夢あるっす!俺もいずれは一発……!」





「では、ここで質問だ。早速レッスンを始めよう!

 レッスン1だ!


 【小説という商品は、何のためにある?】」


 私はなんか夢を語りだした火村君をぶった切り、質問を投げかけた。



「えっ……何のためにって……」



 呆けた顔になる火村君。ふむ、やはり意識していなかったか。


「何を驚いているんだ?

 小説が商品なら、作者は商人と言える。

 商人が、自ら売る商品について、お客について知らなくていいのか?

 私はセールスを教えるといった。

 ではモノを売るのに、商品について知らないというのは、いかがなものかな?

 既にレッスンは始まっているぞ。答えてみたまえ」


「うう、そういわれると……よくないしありえないっすけど。

 でも、書きたいから書いてたんで……正直、考えたこともなかったっす!」


 うむ。まあそうだろうな。

 正直、わかった上で聞いた。


「だから、今考えたまえという話なのだ。

 お客が何を求めてるか知らずして、人気なぞ出るものか。

 『売り方を知る』の基礎は、商品を知ることにある。

 テクニックの前に、基礎知識を高めることが先だ」


 商品について知るのは商売の基本だぞ。

 まぐれ当たりを狙うならともかく。


「うぐぐ……ヒント……ヒントを!」


 ギブアップが速いなー。


「ふむ……しょうがない。少し分かりやすい質問に変えよう。

 こういい換えよう。

 

 【お客は、小説に何を求めている?】」


「あんま変わってない!そっちも同じぐらい難しいっす!」


 火村くんがなんかいってくるが、無視して語りかける。


「車を買う人は、対価として快適な移動手段を求めているのだろう。

 家を買う人は、対価として快適な住環境。

 食事に金払う人は、栄養や美味しさ、満腹感。

 では、小説は?」


 問いかけると、頭を抱え込む火村君。

 普段あまり使わない頭をフル回転させてるようだ。


「間違ってもいいから、気軽にいってみたらどうだ」


「しょ、小説は……。

 うぬぬ……。えっと、んっとっすよ……

 て、テンプレを求めてるとか……」


「ふっ……」


「ああっ、そんなあからさまに生暖かい顔を!

 ハズレっすね!ハズレなんすね!ちゃう!ちゃうんす!

 えっとあれ、そう。

 俺TUEEEとか!」


「確かになろうでは目立つようだがな、

 全員がソレを求めてるわけではなかろうし、

 小説全体がそうというわけでもないだろう。

 ラブコメとかはどうなるんだ」


「ええっ、ら、ラブコメっすか」


「推理小説とかもあるだろう」


「うっ」


「ホラーやエログロの作品だってある。あれは俺TUEEか?」


「うえっ」


「どうした。降参かな?」 


「うぬぬ……。ええ、こんなのどう答えろっていうんすか!?

 あ、そうだ。感動!感動とかどうすか?感動を与えるために小説はある!

 あ、いやでもまてよ……でもギャグとかあるっす……。

 笑い?笑顔?

 いや、萌えもあるっす……。

 ホラーとかグロとか、感動一切しないのあるし……」


 1人百面相に陥った火村君。

 ふう……やれやれ。まあ、ここらへんにしとくか。


「……ふむ。さっきよりはマシな答えになってるな。

 いいかい。答えは、それらを総合したものだよ」


「総合……?

 感動と笑いと萌えとグロを統合……?」


「そんなクリーチャー融合みたいな作品があるか。

 もっとシンプルに考えたまえ」


「そう言われても……うぬぬぬぬ……」


 何が何やら、という感じで余計に混乱した顔を見せる火村君。

 ふーむ。いいとこまできたが、ここらへんが限界か。

 まあ、よく頭をひねったというべきか。



「そこまでにしておこう。

 

【お客は小説に何を求めてるのか?】

 

 感動、笑い、萌え……その答えは、それらを一言で表すもの。

 それを一言で言うと何か……それは【感情】だ!

 レッスン1!小説は何を求められているか!?

 お客は【感情を動かされることを求めている】だ!!」



「か、感情……っすか!」



「そうだ。ゆえに、先の質問にはこう言える。

 小説はなんのためにあるのか?と言われたら答えは1つ。

 レッスン1。商品の役割を知れ、の小説の答えは。


 【小説はお客に感情を与えるためにある】とな!


 感動も、笑いも、萌えも、感情の1つに過ぎない」


「なるほどっす……」


 正確にいうと、ただ感情を与えるのではなく

 【物語を通して感情を与え、動かす】ためにあるんだがな。

 まあ、そこまではいいか。


「小説は、そういう感情を与えるためにある。

 勿論、どんな感情を求めてくるかは、お客によるがね」


「お客による?」


「そうだ。俺TUEEEみたいなのを望む人達は、

 スカッとする話……スカッとする感情を求めてきてると言える。

 爽快感だな」


「あ、なるほど!それは分かりやすいっす!確かにそうっすね!」


「逆に、実らない恋や、死に別れの恋の話なんかを求める人は

 しんみりした感情や、切ない感情を求めてきてるのだろう。

 ラブコメは真逆で、ニヤニヤしたり、やきもきしたり。

 ドキドキしたり……萌え愛でる感情を満たすために求めにきてるといえる。

 あるいは、作中でモテることへの、優越感や、ドヤり感。

 いちゃいちゃ感とかもある。

 近いようにみえて、全く違うな?」


「あ、本当っすね!同じ恋がテーマでも、なんか違うっすね!」


「そうだ。上手くやればかぶることもあるが、基本的に別だ。

 他にも、日常モノとかがあるな。

 ああいうのは、ほのぼのとした感情、だろうな。

 あるいは、クスっとしたり、ニヤリとする感情だろうか」


「なるほど!」


「そうだ。ついでに聞くぞ。ホラーやグロは分かるか?」


「むむっ、あれっす!そういうのはアレっすね!

 ビビリたいとか、ガクブルしたいとか、びっくりしたいとか!

 ヒリヒリしたい、ハラハラ感とか、ショッキングになりたいとかそんな感じっす!

 あと直球でいうなら、気持ち悪くなりたいとか!ゲンナリ感?的な?」


「ほうほう。いい感じじゃないか。そういう感じだ!

 そうだ。世の中には、ゲンナリしたい、というのを求めてくる人もいる。

 暗い気持ち、暗い感情に浸りたいという人もいるのだ。

 まあ、割合としてそう多いわけでもないが、ジャンルを形勢するほどはいる」


「確かに自分でいってなんすけど、変わった趣味すね……。

 でもオレもそういうの見たい時あるしなー。気持ちはわかるっす。

 なんか、ウェェ〜って感じが強いほど面白いっつーか……」


「くくく。【怖いものみたさ】と言うやつだな。

 そうだ。ネガティブな感情だからといって需要がないとは限らない。

 では、ファンタジー冒険小説はどうだ?」


「これはあれっすね!ワクワク感っすね!

 未知に挑戦するワクワク感!自信あるっすよ!

 後はこれも、ハラハラ感楽しむのもあるかもっす!

 あ、でも寂しさ感や、ノスタルジー感を味わう冒険もあるっす!」


「ふむ。いい感じにのってきたな。推理小説はどうだ」


「推理小説……?

 うーん……難しいっすね!これは難しい!」


「そういうときは、自分に当てはめて見るんだな。

 どういう風に楽しんでいるか」


「そりゃあれっすよ!探偵が、ズバッと調子乗った犯人を成敗するのを楽しみに読んでるっす!あ、そうすると、スカッと感……なんすかね?」


「そういうのを売りにしてる推理小説なら、そうなるだろうな。

 他にも、ロジックが繋がり、パズルが埋まってくのを楽しむような……

 そういう、名前にしづらいスカッと感もあるぞ」


「なるほど……名前にしづらい感情もあるんすね」


「あるな。あるいは、優秀な謎解きを見せられたときの

 してやられた感……それを楽しみにする場合もあるし、

 さっきの恋愛なんか、切ないんだけど感動するような……

 しんみりと切なさと感動が統合された、イイハナシダナー感、みたいな感情もある」


「名称が雑ゥ!」


「逆にエロなんかは分かりやすいな。

 ひたすらエロい気分になりたい。それだけだ。

 もっとも、性癖、というものがあるから、実際は更に細分化されるがね。

 イチャイチャのエロと、支配感、あるいは背徳感を軸にするエロは違うものだ」


「エロもっすか!あれも感情!?」


「そうだ。あれも感情を求めていることには違いない」



 大事なところだ。一息ついて、話を続ける。



「そして大体わかっただろう?

 このように、何かしらの感情を与えることが、

 小説の本当の役目であり、役割だ。

 

 俺TUEEEだの、悪役令嬢だの、エログロバイオレンスだの、

 全部設定やパターン、表面上の情報にすぎない。

 大事なのは、それらのパターンを使って、


 『お客にどういう感情を与えたいのか?』


 それが本質であり、小説という商品に取り組むにあたって、

 大事なことだ」


「なるほどっす……!

 どんな感情を与えたいかを、まず大事にしろってことっすね!」


「そうだ。そこが大元だ。

 『商品の役割の認識』、これは最優先で行わねばならない!

 移動しない車、病気の治らない病院、笑えない漫才、

 全て論外であるように、感情が反応しない小説も論外だ!

 だから、もしこの『感情』の認識がうまくいってないと……」


「いってないと?」



「ほぼ確定で、大失敗するだろうな。簡単に言えばコケる」



「ウゲッ……マジすか」



「ああ。1つ例をだそう。

 例えば、なんか復讐ものの作品に感化されて、あるいは流行ってるのをみて

 俺も復讐もののストーリーを書きたい!となって書き始めるとする……」


「あーなんかにハマって書く!あるっすね!俺たいていそれっす!

 しかも復讐ものっすか!これもたくさんあるっすね!

 つか、それ俺が書こうとしてたやつ……何故知って?

 ハッ、も、もしかして、未来予知!?」


「んなわけあるか」

 

 ビシィッと火村君の頭に軽くチョップをいれる。やれやれ。


「話を続けるぞ。そう、たくさんある。だが、そこでいきなり

 よっしゃ復讐もの書くぞ!で走り出してはいけない。

 大事なのは、そのストーリーで

 『どんな感情を与えたくて、復讐ものを書くのか』ということだ」


「どんな感情……すか」


「そうだ。

 スカッとさせたいなら……ひたすら悪を悪と設定し、

 悪には徹底して悪らしく振る舞ってもらい、

 そしてもうボコボコのボコにしまくってくのがいいだろう」


「ふむふむ。大抵の復讐ものってそんな感じっすね」


「だが、イイハナシダナーって感情を与えたいなら、

 復讐の気持ちを乗り越え、悪にも善たる要素があると気づき、和解する……

 そういう話にすることになるだろうな」


「あっ、確かにそういう話もあるっすね!

 父親への復讐とかだと定番かも!後で和解みたいな!ふむふむ」


「あるいは、復讐相手に恋してしまい、葛藤のはざまでもがき、

 悩み、すれ違い、最後には涙を飲んで永久に別れる……

 そういう、切なさ、寂しさ、やるせなさという感情を与えたい話になるかもしれない」


「ううっ!聞いてるだけで、なんか悲しくなってきたっす!

 女向けで多い印象っすね!」


「復讐してスカッとしたと思いきや、

 実は俯瞰視点でみてみたら、相手が正義で自分が悪でした!

 ということが分かる、ドッキリ感や、モヤモヤ感を与える話かもしれない。

 他にも、八つ当たりの復讐しようと思って色々悪巧みするのに、

 何故か人助けや金稼ぎとして上手くいってしまって

 どんどん社会的に成功してしまう……というお笑い感を与えるギャグもありだ。

 拷問描写をメインにし、グロさや狂気を書き出し、ドン引き感や陰湿感を味わうものもある」


「はぇ〜なるほど。こうしてみると、単に復讐ものといっても色々あるっすね……」


「そうだ。そして聞いてて分かるだろうが、

 これらを全部足して1つの話とすることはまず出来ない。

 同じ復讐ものなのにだ。

 理由は分かるな?」


「分かるっす!つまり、それが与えたい感情が全部違うからってことすね?

 スカッと感を与える復讐話と、切なさや、モヤモヤ感を与える復讐話は、

 それぞれ全部違うから!」


「そうだ。正確には安易にやると『お互いに邪魔しあう』からだがな。

 スカッと復讐ものだと思って読んでたのに、

 悲恋になったり、悪党が成敗されないとかなったらどうだ?

 逆に、そういう割り切れない話が好きなのに、単純な悪が成敗されて終わり!って話が続いたら?」


「うっ……ぶっちゃけやめてほしいっす!」


「そうだろう。同じ復讐ものでも、求める感情が真逆だ。

 こういう邪魔し合うものを一緒にしては基本的にはダメだ。

 だから、話を書くときは、ジャンルに注目せず、

 『感情』に注目する必要があるのだ。

 何故なら、そこが小説という『商品の本質』だからだ。

 ジャンルは本質ではない!」


「な、なるほどっす……」



「逆にいうと、統合すればジャンルの壁を超えることもできる。

 ここまで幾つか同じ感情名がでてきたな?」


「あ、でてきたっすね!スカッとする!……とか」


「そうだ。俺TUEEとか、復讐ものとかだな。

 推理モノにも一部その要素があると言ったな。

 つまり、これらのジャンルは、統合しやすいジャンルといえる。

 こういうこともわかるわけだ」


「ああっ!そっか!なるほど!

 確かに復讐もの+俺TUEEEはたくさん見る気がするっす!

 これはスカッとする!という感情を与える点で、お互い邪魔しないからなんすね!

 言われてみると、推理小説も、大概俺TUEEEというか、

 主人公が絶対に負けないって分かりきってる展開の話が多いかも……」


「だろう?相性が良いんだ。

 逆に、相性が良くないのもある。

 ホラーと俺TUEEEとかだな」


「さっきと一緒っすね。復讐でも、モヤモヤ復讐とスカッと復讐は違うってやつと。

 スカッとしたいところに、ジメジメしたりビビリまくったりは嫌っすね……。

 逆にビビリたいし、ハラハラしたいところに、爽やかな感情があっても困るっす」


「そういうことだ。お互いに邪魔しあわないかを見るのが大事だ。

 テーマやジャンルは大事ではない。そこから与えたい感情こそが本質だ」



「あ……ちなみに、喜怒哀楽とか、全部の感情与えたいとか

 そういうのは……?」


「ふむ。君は、砂糖と塩と胡椒とワインとみりんとスパイスを等量ずつ

 いれたカレーを食べたいのか?」


「いやっす!さーせんした!」


「メインの辛さを引き立てるために、サブとして甘さをひとつまみいれたり

 箸休めでいれることはある。スイカに塩みたいにな。

 だが、全てをメインとして扱うのはありえない。

 スイカと同じ重さの塩をのせたら食えたものじゃない。

 与える感情も同じだ。メイン同士で成り立たぬものは確実にある。

 ホラーとコメディなんかは典型だな。

 コメディ色を強めた時点でホラーは消え去るだろう」


「よくわかったっす!」



「まとめよう。

 書きたいから書く。それも大事ではあるが、

 小説を自己満足の対価でなく『商品』として考えるならば、

 商品と、お客が欲しがってるものの本質を理解するのは必須だ。

  

 異世界転生を、俺TUEEEを、ハーレムを

 『お客は欲しがっている』……。

 そんな理解は、表面にすぎない。

 お客が欲しがってるのは、それらによりもたらされる『感情』だ。

 

 スカッとするなら俺TUEEでなくても読むし、

 スカッとしないなら俺TUEEEでも読まない。


 『お客の求めてるのは、感情であって、ジャンルではない』。

 

 何故お客は小説を求めるのか……

 商品を『書きたい』で終わらせず

 『売りたい』なら、踏まえておくべきだ」


「は〜……。役割かあ。色々考える事あるんすねえ。

 でも、たしかに納得できたっす!!」


「分かってくれたなら嬉しいよ……と、そうだ。

 ここまでわかると、自動的にもう1つ分かることがある。

 それを教えよう。

 正しさが『いらない』という話をな」




「正しさが……いらない?」


 キョトンとした顔になる火村君。

 まあ、言葉だけ聞けば無理もないか。


 


「うむ。世間一般で言う『文章力』というようなものだ。

 『文法に乗っ取り、綺麗な文章を書く力』とでもいおうか。

 いらないというか、大して大事じゃない、という話だが」


「えぇ!それって大事だと思うんすけど!

 な、なんでなんすか!

 実際、ネットとかだと、誤字脱字とかあったり

 文法間違えてると、メチャクチャ叩かれるっすよ!」


「でも、叩かれながらも大人気、という作品もあるだろう?

 あれは何故起こると思う?」


「うっ……!それを言われると……!」


「答えは、さっき説明した内容とリンクする。

 すなわち、小説の役割が『感情を与える』というところにな」


「ど、どういう意味っすか?」



「うむ。ちょっとセールス全体の話に戻ろうか。

 いいか、私がコピーライターとして依頼をうけ、

 売るのを任される商品には、大きくわけて2種類がある」


「商品が2種類!?たった?」



「ああ、いつだって本質はシンプルだ。

 良い商品とは、人が喜ぶ商品のこと。

 そして、人が喜ぶものはたった2つしかない。

 たった2つだ。



  1つ目、人の活動の『役に立つ』ためのもの。あるいはノウハウ等。

  2つ目、人の『心のエネルギー』を満たすもの、あるいは出来事等。


 

 良い商品とは、このどっちか、あるいは両方の要素を兼ねるものだ。

 それ以外にはない。

 ちなみにエネルギーとは、単純に楽しさや充実感を求めるものという理解でよい」


「ふむふむっす」


「この例でいうと、電車とかは『1』だな。生活の『役に立つ』ことが目的だ。

 楽しさを求めていくものではない。移動手段としての利便性が主だ」


「そっすね!」


「逆に、漫才やカラオケとかはどうだ?わかるか?」


「『2』っすね!楽しくなるためのものっす!

 役に立つとかは……特別ないっすね!」


「その通り。では小説は?」


「それは……『2』……っすよね?」



「そうだ。小説は、明確に『2』だ。心のエネルギー。

 心を豊かにする。感情を刺激するのが目的だ。

 別になくなった所で、直接生きてくには大して困らん。

 役に立つこともあるが、役に立つ目的で読む奴はまずいない。

 役に立つこと知りたいなら、実用書や辞書でも読めばいい。

 

 しかしそれだけでは、心が乾く。やる気が尽きる。

 そのために、実用ではないが、心を満たすものが必要とされる。


 『娯楽』とはこういうジャンルをさす。

 

 小説は娯楽だ。ノウハウを入れても構わないが、

 本質は心や感情を刺激、あるいは埋めるためにある」


「はえ〜」


「よく、漫画や小説に対し『面白ければ何でも良し!』という言葉を聞くだろう?

 あれはつまり、お客の望んだ感情を与えれれば、何でも良し!というわけだ。

 小説は実用書ではない。生きるためのノウハウ集ではない。

 その要素を持つこともあるが、サブでしかない。

 もしそこが分かってないと……」


「分かってないと?」


「『正しさ』にとらわれてしまうだろうな。

 お客を喜ばせることより、

 文学的作品としての完成度で小説をみるようになる。

 さっきいった『文章力』のようにな。

 だが、正しさへのこだわりは『役に立つことが重要な商品』で生きるものだ。

 感情の世界ではさほど重視されん。

 

 【カラオケでミスなく歌うこと】はそこまで大事か?

 盛り上がるかどうか、みんなが楽しめるかのほうが余程大事だろう?

 歌が下手なやつが、盛り上げ下手かというとそうでもないだろう?」


「そっすね!音痴でもウケる奴とかもいるっすね!

 確かにカラオケは楽しいのが大事っす!」


「そうだろう。音痴でミスしまくりでも、いやだからこそ盛り上がる奴はいるし、

 ノーミスで歌がうまくても、場をしらけさせる奴はいる。

 流行の歌なら下手でも盛り上がるし、どんな美声でも合唱曲歌われても困る。

 小説の世界も似たようなもんだ。

 文章が上手くてもつまんない作品はあるし、

 クソみたいな文体でも何故か惹き付けられる作品はある。

 

 それは小説が論理ではなく『感情』の世界のものだからだ。

 もちろん、歌の上手さで盛り上げる奴がいるのと同様、

 文体の上手さでもって感動に導くものもあるがな。だがそれが最優先ではない」

 

 一息つき、さらに話を続ける。


「改めて言おう。

 小説という『商品』は『感情』を与えるためにある。

 どんなテクニックも、知識も、全てはここに戻ってくる。

 テクニックが杜撰でも、感情が動けばそれが正解だし、

 感情が動かないなら、どんだけ上質な知識とテクニックがあっても

 意味をなしてないということになる。

 まあ、つまり……」


「つまり?」


「テクニックや知識をこれから君に伝えていくが、

 それら至上主義になるなということだ。

 100行を使った知的な名文よりも

 1行の『うっせ黙れ死ね!!!!!!』がスカッとすることもある。

 

 知識やテクニックが何のためにあるのか、見失わないことだ。いいかな?」


「うっす!完璧っす!」


 ……完璧と言われると逆に不安になるのは何故だろうか。


「まあ、やる気があるのはいい。

 では、次回から始めよう。期待しているぞ」


「任せてください!メイ作をお見せしますよ!」


「やはり不安が拭えない気がするな……」


 今、名作のイントネーションがなんか違ったような……。


 ともあれ、このようにして、彼への指導は始まりを告げたのだった。


 『売り方』指導は次からが本番である。


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意外にも火村君は、歌がうまい上に場を盛り上げれるというカラオケ大将

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