第10話 それでも長文タイトルは大正義なんだッ!



「さて、では話の続きといこうか」


 私はコーヒーをすすりながら、話を始める。

 もちろんほむほむくんに入れさせた。正当な情報の対価というやつだ。


 んん。美味い。相変わらずだが、意外にも彼はなぜかコーヒーを入れたり、料理するのが上手い。

 私の家はお歳暮や贈り物などのおかげで、無意味に高級豆はあるが、私が面倒くさがりなせいで

 結局普段はインスタントだらけだからな。

 そのインスタントすら適当にいれるので、ほむほむくんには大不評である。


「はい、よろしくお願いするっす!」


「うむ。結局前回、具体的な話するといいつつ理論的な話になってしまったしな。

 今回こそはちゃんとするぞ」


「あ、師匠も思ってたんすね。俺もうっすら思ってたっす!」


 思ってたのか……。


「……では、早速本題に入ろう。

 前回、良い集客と選別を行うためには『期待』が大事だといったな。

 だが、実はそれに次ぐワードがもう1つある」


「次ですか?それはなんすか?」


「1つは『面白さ』。もう1つは『新しさ』だ。

 面白そうってのは、流行りに乗っかってるとかも含むぞ」


「面白さはなんとなく分かるっすけど……新しさ?」


「そうだ。人は、好奇心の生き物だ。好奇心とは何に発揮されるか?

 それは『知らないモノ』に発揮される。

 逆に言うと新しさのないもの……

 『これ、見飽きたわ』っていうやつには、反応しない。

 どんなに分かりやすくても。どんなに期待通りの中身でも。

 『中身見るまでもないわ』って思われたら、そこで終わりだ」


「あ、中身ってそういうことすか。

 あー確かに、中身が想像ついたら、全く手に取らないかもっす」


「そうだろう?人が中身を見たがるのは。

 『知らないかも』って思うからだ。

 どんだけ分かりやすくても、『見たことある』と思われたら、意味がない。

 だからタイトルには『見たことないかも』って思う要素がある程度必要だ」


「ふむふむ……確かに!っす。

 『またこういうやつかー』って思ったら、見ないし、

 そう思われないようにしないとダメ!ってことっすね!」


「その通りだ。新しい、ということはタイトルにはとても大事だ」


「なる……って、いやちょっと待ってください。師匠。

 でも、なろうって、似たようなタイトルゴロゴロしてないすか?

 結構ランキング上位にも、『見飽きたわ〜超見飽きたわ〜』って

 タイトルゴロゴロしてると思うんすけど……。

 それでも、ああいうのウケてるっすよ?」


 ほう、いいところをつく。


「ふむ、良い質問だな。

 だが、見飽きてると思われるのに、まだ流行る理由は3つある。

 1つは、ジャンル自体が、小説界隈で新しい場合だ。

 悪役令嬢なんかがそうだったな。似たようなのがたくさんでたが、

 悪役令嬢というもの自体は、小説界隈という広い視点でみれば新しかった」


「ははあ……そうかもしれないっすね」


「軽く流してないか?これはかなり大事だぞ」


「うっ……。や、やだなあ。大事だと思ってるっすよ。うん」


 目が泳いでるぞ。


「限りなく嘘くさいが……。まあいい、続けよう。

 いいかい。小説界隈全体でみてどうか、という認識は大事だぞ。

 何故なら、意外かもしれないが、なろうに来るような奴は、

 大抵商業読んできてるからだ。

 前もいったが、ここに来るやつはストーリー中毒者が多い。

 つまり、商業なんざとっくに読み漁り、それでも足りずに

 ここに来てる読者が大勢いるんだ。

 だから、商業でも飽きられてないジャンルかどうか?というのはとても大事だ。

 悪役令嬢は、なろうではテンプレでも、商業では依然新しい。

 というか、ほぼない。

 もし『謙虚堅実をモットーに〜』がアニメ化していたら、

 半端ない衝撃がアニメ民を襲っただろう」


「その光景……ちょっと見たかった……!」


「まあ、私もだが……。今はおいておこう。

 逆にいうと、商業で飽きられているのは、やはりここでもほぼ流行らない。

 SF(未来もの)とか、SF(宇宙もの)とか、SF(超科学もの)とか」


「SFばっかじゃないすか!」


 実に悲しいな。


「覚えておきたまえ。なろうテンプレに飽きた、という人がいても。

 じゃあ、SFどうですか、と勧めたら。それはもっと飽きた。というのが通常の反応なのだ。

 彼らが欲しがってるのは、古き良き、なんかではない。

 いや天才的に良ければ別だが、基本的に古き、なんて求めてない。

 今更、あかほりさとる時代みたいなファンタジーをありがたがるか?

 今更、学園異能現代ものなんて、昔のものまんまを出されても喜ぶか?

 今更、4文字ラブコメもの出されて、誰の心を射止めるのか?なんて流行るか?

 彼らが欲しがってるのは、常に『新しき良き』だ。

 君もそうだろう」


「うっ……!そう言われると、否定できないっす!

 昔はラブコメラノベよんだけど、

 今、その手のヒロインレースもの読んでもハマるかというと……!

 俺、多分、なんか古い!っていっちゃいそうっす!」


「だろう?その、小説界隈全体でみたら、新しい、というのが1つめだ」


「分かりました。残り2つはなんすか?」


「2つめは、

 同じにみせて『少しだけ新しい』んだ。大抵な。

 そして、その少しの新しさで、十分なのさ。差別化には。

 大事なのは、その少しの新しさを、PRできてるかどうかだ」


「新しさは少しで良い……」


「具体的にいうと、2割ぐらいでいい。8割のテンプレあるいは王道に、2割の新しさ。

 こんぐらいでいい」


「えっそんだけで!?8割新しいとかは?」


「離れすぎてついてこれん。一人称で無機物転生で、石ころに転生ぐらいはまだしも、

 無言かつノーリアクションの石ころヒロインで、宇宙やVRどころか4次元空間で戦い、

 見たこともないスポーツ・アクションをし、お経を唱えながら、努力友情勝利で終えれば

 まあ8割ぐらい斬新、残り王道の話ができるが、ついてこれるわけないだろ」


「8割はやりすぎっすね。理解しました」


「ほんのちょっとでいいんだ。ちょっとで。

 桃太郎が超美少女の、のじゃロリ少女の世界になってて、俺はお供の犬に転生してました!

 指先1つで鬼を少女が倒せるまで、サポートします!ぐらいでいい」

「それ4割ぐらい変わってないすか!?

 ちょっと変える、の例えに出していいもんじゃない気がするんすけど!」

「言葉の綾だ。とにかく、基本は人気や王道ものに乗っかってよい」


「じゃあ、3つ目は?」


「当たり前だが、『飽きる速度』や『読んできた量』が皆同じではないということだ。

 なろうで毎日日刊漁るやつからしたら飽きてる話も、

 月に1回ふらっと来るかってやつには飽きてないとか。そういうのがある」


「あーそっか。俺が飽きてるからって、周りがそうとはかぎらないってことすね」


「ヘビーユーザーの感覚が、一般ユーザーと同じとは限らない。

 ただ、時間が立てばたつほど、一般ユーザーの感覚もヘビーユーザに追いつくだろう。

 新しきが何か?は追求していく必要は常にあるが、

 だが、それでも大多数に飽きられてるものというのはある。

 100人中10人しか『飽きたよ』といわれない作品は、

 100人中90人から『飽きたよ』と言われる作品よりも大分受けやすいさ」


「なるほど……。改めてわかったっす。新しさっすか」


「勿論、『何を期待していいかが分かる』を踏まえた上での『新しさ』だがな。

 何言ってるか分からんタイトルでは、新しいもクソもない。

 何度もいうが『分かりやすさは正義』だ」


「ふむふむ」


「つまり。

 さっきのと一緒にまとめると、タイトルあらすじの条件はこうなるな。


   1.中身に何を期待していいかが『分かり易い』

   

   2.なんか面白そう


   3.なんか新しそう


 これがタイトルの原理原則だ。 

 これは『順番も必ずセット』だ。『中身がさっぱり予測つかん』ものに、

 面白そうと感じることはまずないし、いくら新しくても『面白そう』を踏まえてなくては意味がない。

 とりあえずこの3つのチェックリストを覚えておけば、

 ほむほむくんも今日からキャッチコピーマスターだ!

 ちなみにこれは、商業広告でもほぼ同じだから、

 もし君が宣伝業に携わる時がきたら覚えておきたまえ」


「マスターすか!俺、今日からマスターすか!

 俺ヤバイっすね!」


 ……単純すぎて、本当にヤバイ気がする。

 こいつは将来、超大物か超バカになるかのどっちかだろうな。うん。



 話は終わりかな。

 電子タバコをつまみ、ふぃーと一服をつける。


「ハッ!あ、でも師匠!具体例!具体例まだっすよ!

 忘れるとこだった。あれはどうなりましたか!」


 ……ふぃー。


「……忘れてないから安心したまえ。

 ではそれを踏まえて、そうだな。

 例えば、私が、コピーライターの経験と知識を生かし、

 『小説の書き方』というテーマでなにか書いてみようといった気分になったとする。

 それを例に取ってみようか」


「おお!師匠の小説論!今俺が受けてるような奴ですね!

 俺は興味ありますよ!」


 OK.ごまかせた。


「うむ。ではタイトルの第一弾としてこういうのはどうだ」


 カタカタカタ……パソコンに文字列を打ち込み、

 タイトルあらすじの草案を、ほむほむくんに見せる。


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  タイトル:「novel comet essay」

  あらすじ:思ったことを徒然とかきました

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「ちなみに読みは、ノベルコメットエッセイだ。

 彗星が直撃した時のように小説業界に激震を与えたい……という目的でタイトルをつけた」


「わかりづらっ!いや、師匠には悪いすけど、まずパッと読めないっす。

 ただでさえ、エッセイ界隈ってPV少ないんでしょ。

 これはヤバイっす。全く受ける気しないっす。PV0の未来すら見えるす」


「そうだな。まず中身がわからんな。

 中身わからないのに、面白そうって思うわけがないな。

 かろうじてエッセイってことがわかるか?ぐらいか。

 でも、だから何?ってなるよな。

 その上、新しそうでもないな。

 思ったことをつらつら書いた……なんて、今まで何万人が書いた文章だろうな?なんでダメだ。

 このタイトルでエッセイ書いても、読者はゼロだな」


「そうっすね……。全く開く気しないすね」


「じゃあこれはどうだ。あらすじだけ変えてみよう」


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 タイトル:「novel comet essay」

 あらすじ:なろう業界に衝撃を与えるべく、言いたいことを作家の目から書きました

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「あ!ちょっと良くなったっす!これなら割と興味持つ人でるかもっす!

 タイトル変えてないのに……あらすじって結構威力高いんすねえ」


「まあ、これで上よりはぐっとよくなったな。

 これならタイトルでドン引きした人も多少読んでくれるかもしれない。

 あらすじの大事さがかいま見えるな?

 中身が分かるので、なろうに関して言いたいことがある人でかつ暇人は、

 同類を見つけたと思って読んでくれる可能性が高い。

 しかし、タイトルがまだ貧弱だな。というわけで次だ。タイトルだけ考えてみよう」


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 タイトル:「氷室と火村の語り合い」

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「会話調のエッセイにしようと思って、こうしてみた。どうだ」


「うぇぇ……中身全然わかんないっす。

 『スズキさんの日常』みたいな作品名でしょこれ」


「でも嘘はついてないぞ」


「ノーセンキューっす!」


「そうだな。じゃあこれはどうだ」


 カタカタと、新しいタイトルを打ち込む。


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 タイトル:「小説技法」

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「うっ……さっきよりはマシ……なんすかね?いや、同レベルか……。

 これ、あれですよね『飲食店』みたいな系列の名前っすよね。

 分かりやすいけど、絞り込みが皆無というか……

 なんか全然面白そうじゃないというか……」


「そうだな。

 これも結構ヤバイな。まず、そもそも『何を期待していいか』が分からんな?

 小説技法とは何かをWiki的に教えるのか、使い方を説明するのか。リスト的に並べるのか。

 あるいは、こんなもんいらねえと物申す系か、大事だといいたいのか。

 何ひとつ見えてこない。よってこのタイトルもダメだな」


「そうっすね……これはPVゼロっす」


「ちなみにこういう、『ただスペック説明しただけ』みたいな説明を

 目次型あるいは辞書型などとよぶ。

 売り込み文句としては最低ランクだ。

 是非やめるように」


「ういっす。大丈夫っす……多分」


「じゃあこれはどうだ?」


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 タイトル:「小説の正しい書き方について」

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「うーん。それもさっきのが口語体になっただけで、実質変わんなくないすか?

 さっきよりは、何を期待していいかはハッキリしてる感じありますけど。

 なんかこう……わくわくしないっつーか。読む気あんましないっつーか」


「そうだな。何期待していいかは分かる。

 しかし、面白さがない……。

 そのうえなんといっても『新しさ』が欠片もないな。

 『なんか見たことある感』漂いまくりだな?」


「そうっすね。エッセイで何千回も見た感じっす」

「そうだ。今更感がヤバイといえる。よってこれもダメだ」


「うーむ。中々難しいですね。あ、閃いたっす。

 師匠ってコピーライターっすよね!じゃあこれはどうすか!」


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 タイトル:「コピーライターが教える、小説の正しい書き方!」

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「どうっすか!これなら結構、何期待していいかも分かるし、新しそうっすよ!」


「ほほう……これはこれは」

「ど、どうっすか!溜めないでくださいよ!怖いな!」


「いや、素晴らしい!解ってきたな。さっきよりは大分いいぞ」

「ま、マジすか!?やったぜ!」


「うむ。コピーライター、という一文により、ぐっと新しさが入ってきた感じがするな。

 だが、まだ客層が広いと思わないか?気取った言い方でいうと『ターゲット』が広い」


「ターゲットが広い……っすか?広いほうがいいんじゃ?

 あ、いえ。良くないんでしたね。刺さらない人をよんでも仕方ない……と」


「その通り。

 こういうのを探してた、とならない人を呼ぶと逆に作品評価が下がる。

 じゃあ、このエッセイをありがたがってくれそうなのは誰だ?

 そこまで考えてみようか」


「うーん……。そうっすね~。それは……それは、当然作家系の人っすよね。

 読み専の人が来ると、自分向けじゃない、とガッカリすると思うっす。

 だから、作家に向けてるよ!ってのが分かる感じのタイトルにするっす!」


「そうだな。つまりこういうのはどうだ」


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 タイトル:「コピーライターが作家に教える、小説の正しい書き方!」

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「おお、一気になんかそれっぽい感じに!

 ハッ、師匠、俺、長文タイトルが、理屈に則ってるってのが、ちょっと解ってきたかもです!

 そうか、だから長文になるのか!」


「そうだろうそうだろう。

 さて、このままでもいいが、これだとちょっと堅すぎる気もするな?

 もうすこし、好奇心を刺激するようなタイトルにしたいところだ。

 あらすじで補完してもいいが、タイトルで出来るならそれにこしたことはない」


「確かにそうっすね!ちょっと堅い気がするっす!」


「そうだな。というわけで、ちょっと口語的な文章にしてみよう

 また、作家というのも広いな。なろう作家、にしようか」


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 タイトル:「コピーライターがなろう作家に、小説の書き方を教えるようです」

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「おお!大分なんか、古臭さが消えたっていうか。

 ちょっと現代的なタイトルって感じになったっすね!」


「○○の書き方、なんて商業で見飽きてるからな。そこが作用して、古臭くみえるのだろう」

「なるほどー」


「しかし、まだ絞り方がたりないな。もっと絞れるだろう。

 上級者がきたって困るし、どうせ来ないから、この際切り捨てよう。

 分かりやすさをPRするために、初級者用と分かるタイトルにしよう。

 実際、わかりやすさに気を配ってるしな。

 それに、小説の書き方、というのもいかにも陳腐だ。

 せっかくコピーライターという言葉を使ってるのだから、

 ここも新しさを感じるように、変えてみよう……これでどうだ」

 

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 タイトル:「初心者なろう作家の火村君は、コピーライターから、小説の『売り込み方』を学ぶようです」

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「うむ。何を期待していいかが明確だし、新しさもある感じだな……とこういう感じだ」


「おおッ!一気に今風のキャッチーな感じになったっすね!

 しかも、めっちゃ絞ったおかげで、内容がくっきり想像できそうっす!

 最初の『小説技法』だの『小説の正しい書き方について』なんて

 固いタイトルが候補にあったとは思えない!」


「だろう。その上、ちゃんと作家の人々も読んでくれやすいタイトルになってるだろう?」


「確かにっす!そのうえ、作家以外の人が、変に期待しないタイトルにもなってるっすね。

 これみたら、作家向けってすぐ分かるっすもんね!

 なるほどなー!こうやってタイトル考えるんすね~。

 教えるようです、から、学ぶようです、になってるのはなんでなんすか?」


「教えるようです、だと、若干上から目線ぽいからな。

 この場合のなろう作家、は、火村君にもかかってるが、読み手たる読者にもかかっている。

 貴方に教えてあげます、なんて空気は、できるだけ消したい」


「はーそうなんすねー。火村君ってついてるのも?」

「それもだな。あくまで、作中作家である火村君という

 人物に教えるんだという体をとることで、上から目線臭いをなるだけ排除している。

 ただ、その分『火村って誰だよ』みたいなのは出てしまうが、

 まあ、許容範囲だと判断した。

 あと、こういうふうに書くことで、傍観者的感じがでるだろう?

 そういう作品だよってのも若干示唆している」


「そっかー。奥が深いすねえ」


「まだ完成とは限らないがな。

 例えば、コピーライター……という部分は、一般的に馴染みがない。

 ゆえに『広告屋』などに変えたほうがいいかもしれん。

 『初心者なろう作家の火村君は、『広告屋』から、小説の『売り込み方』を学ぶようです』

 というふうにだ。まあ、ここらへんは試行錯誤しつつ、反応みつつ……だな。

 募集してみるのもありだと思うぞ」

       

「えっ、タイトルとか。あとで変えてもいいんすか?」


「あまり頻繁にやるもんではないがな。大人気になる前ならいいぞ。

 大人気になったあとも、1回ぐらいならアリじゃないかな。

 実際、サブタイトルも含め、私はタイトルを変えるほうだからな。

 あまりやると顰蹙を買うし、読者が作品を見失うし、作品レビューも紐付けられなくなるが」


「わかったっす。俺も、自分の作品では、気楽に変えてみるっす。

 しかしあれっすね、こうやってくと、確かに自然と長文になるっすねえ」


「なるな」


「いやー俺!長文タイトルのこと誤解してたかもしんないっす!

 今後は、俺、逆にバンバン使っていきますよ!」


「うむ。大いに使うとよい。

 そもそも、短くまとめるというのは天才の技だからな。たまにそういう天才いるが。

 才能に自信がないなら、素直に長文にすることだ」


「了解っす!あ、ちなみにあらすじは?あらすじも変えるすか?」


「ふむ。あらすじか……そうだな。あらすじはこんな感じかな」


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 タイトル:「初心者なろう作家の火村君は、コピーライターから、小説の『売り込み方』を学ぶようです」

 あらすじ:「コピーライター……?なんすかそれ?」 

      「知らないか。まあ無理もない。それは小説家とは別の『文章のプロ』だ」 


 【文章で飯を食う職業】と言われて、小説家だけではなく、

  広告文執筆業(コピーライター)をも思い浮かべる人は、何人いるだろうか?


  この世界、『良いもの持ってるのに評価されない』。

  そんな作家はごまんといます。そう、彼らに足りないのは、もはや創作の知識ではない。

  ほんのちょっとの『売るための知識』である!     


  これは、そんな『もったいない』作家に捧ぐ、新米なろう作家の火村くんと、

  熟練コピーライターの氷室さんが会話で紡ぐ、Web小説攻略をテーマにした物語!……いざ開幕! 

   ※基本的に初級〜中級作家さんへ向けての話です。守破離でいうと、守破の段階の人向

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「おお、かなりわかりやすい感じするっす!

 これ、タイトルの解説みたいなあらすじっすね!これでいいんすか?」


「別に構わん。なんならタイトルと同じこと言ってても良い。

 タイトルで言い切れなかったことを、改めて分かりやすくカバーするのが、

 なろうにおけるあらすじだと思ってくれて問題ない。

 やりたいことは結局選別で、それを出来るだけ、

 お固くならないよう、キャッチーに言い換えてるだけだな」


「会話からはじめてるんすね。これも意図が?」


「2つある。1つは、本編も会話調だからな。それを示唆している。

 読みやすそうなイメージを与えるだろう。

 もう1つは、単純に会話は目立ちやすいからだ。

 検索画面などで出た時、目にひっかかりやすい」


「それも考えてるんすか……」


「『会話は目立つ』覚えておくと良い。

 流し読みもされづらい。地の文は飛ばされやすい。

 会話調で書こうと思ったのも、流し読みを防ぎ、それでいてわかりやすさを上げるためだ」


「わかったっす。

 あと、誰向け!って直接書いてるけど、これいいんすか?」


「別にいいぞ。『何を期待していいか』のわかり易さが

 マイナスに働くことはまず滅多にない。同じ理由で長文でもいい。

 私は別サイトでランキングトップとったが、

 限界まで文字数使って紹介文を書いていたことがある」


「長文限界まで書いてもランキングトップとれるんすね!

 分かりやすさは大事ってことなんすね!」


「そうだ。レッスン8『分かりやすさは正義』だ。

 とにかくそこをクリアしないと何も始まらん。

 面白さも新しさもギミックも、全てはそこからだ。

 私の弟子を名乗るなら、是非こだわってくれ。大事なレッスンだ」


「レッスン8

 『分かりやすさは正義』……


 よくわかったっす!

 分かりやすくて、面白くて、新しい……すね!

 例題もありがたいっす。……俺のもこんな感じでいいんですか?」


「そうだな。こんな感じでいいぞ。

 まずは、直球タイトルを作り、それをいじってくのがセオリーだ。

 いきなりハイセンスな閃きが出来ればそれがいいが、そうでないことも多い。

 あ、そうそう。ちなみにだが、書き直しについてもいっておこう」

「書き直しすか」


「うむ。あらすじはタイトルよりはるかに気軽に変えていいぞ。

 既読者はほとんどみないし、新規勢だけが気にするからな。

 タイトルと違って変えても既存読者が見失うこともないし、

 でも大事だから、変える価値はあるからな。

 私は大体、初投稿してから落ち着くまでに何十回も変えるタイプだ」


「ま、マジっすか……」

「大マジだ。ウケるレターは、度重なる書き直しにより完成する。

 初稿一発で通そうなど、どんな売れっ子ライターでも無理だと、

 そのライター自身が宣言している」


「書き直しは正義!へぇえ」

「レター部分……なろう小説でいうと、その部分はあらすじだけだがな。

 本文は滅多にやらんほうがいいぞ。量が多すぎてエタるから」


「わ、わかったっす」



「これで、私の例については一区切りだが……」


 ちらっと、彼の目を見る。

 何かを期待している。そう、何かを。


「……なんなら、乗りかかったなんとやら。君のもついでに見てあげようか?」


「え、いいんですか?マジで?

 何でもするっすよ!

 なんか条件とかあります?」


 めっちゃ食いついてきた。少しハードルあげてみようかな。

 そんな悪戯心が湧き出る。


「……ふむ。そうだなー。どうしようかなー。

 3回回って「わんわんわん!」……」


「……」


「是非お願いするっす!」


 言い終わる前に3回周って、ワンと三回いいやがった。

 そして流れるような土下座。いっそ感動すら覚える。最近の運動部の子とは、みなこうなのか?

 冗談のつもりだったのだがな……。

 まあ、その必死さに免じて応じるか。

 元々から教えるつもりだったしな。


「……まあいい。じゃあ、改めてやろうか」


 ため息がわりに、煙を宙に飛ばす。

 ため息は幸せが逃げるからな。煙ならセーフ。多分。


「やったぜ!ありがとう師匠!」


「調子のいいことだ。じゃあ、改めて君の作品のタイトルとあらすじだが……見てみようか」


 

 

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